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【合谷タッピング】大学准教授が考案!不安が和らぎパニック障害・トラウマに効く

2020/12/11

藤本昌樹(ふじもとまさき)

東京未来大学子ども学部准教授・臨床心理士

不安を消すのに非常に有効

 私は普段、臨床心理士として、さまざまなトラウマ(心の傷)を抱えた人たちを回復させるお手伝いをしています。

 治療には、主にEMDRや、ボディ・コネクト・セラピーといった、身体的にアプローチする心理療法を用いています。

 中でも、不安を消すのに非常に有効な手法が、私が考案した「合谷タッピング」です。

 やり方は至って簡単です。不安やストレスを感じたときに、人さし指と中指の2本の指の腹で、手の甲の親指と人さし指の骨が交差するところにある「合谷」のツボを心地いい強さで1分以上、リズミカルにトントンとたたくだけです。

 不安やストレスを抱えた場合、人は難しいことはできません。そんなときでも、合谷タッピングなら手軽にやれて、効果を実感できます。

 そもそも、合谷のツボにはいろいろな効果があり、国内外を問わず、さまざまな研究結果が報告されています。

 たとえば、合谷を1分以上刺激することで、脳の血流量が上昇したり、出産時の痛みが緩和されたりするというものです。

脳の血流量が増えるとトラウマや恐怖の消去ができる

 通常、人間が不安やストレスを感じたときは、情動や感情を司る脳の大脳辺縁系にある「扁桃体」という部分が過剰に活性化します。

 さらにPTSD(心的外傷後ストレス障害)の患者さんに関しては、扁桃体が活性化しているときは、トラウマや恐怖の消去にかかわる、脳の前部帯状回の血流が悪くなると言われています。

 つまり、トラウマや恐怖を消去するには、脳の前部帯状回の血流をよくすればいいのです。

 そこで、私は合谷を刺激することにより、脳全体、引いては前部帯状回の血流量が上がり、トラウマや恐怖が消去できると考えました。

 人間にはもともと「耐性の窓」と呼ばれる、ストレスを許容できる範囲があると言われています。

 私たちの情動や感情には、許容できる幅があり、高まりすぎると怒りになり、下がりすぎると気分が落ち込んでしまいます。普通の人は、感情が多少起伏しても、許容できる範囲内に戻れる回復力が備わっています。

 一方、トラウマがある人は、興奮してパニックになったり、ピリピリして眠れなくなったり、逆にドーンと落ち込んでうつになったりします。

 さらに、子どものころから虐待などのストレスを受け続けてきた人は、感情の幅自体が狭くなり、ちょっとした出来事でも精神的に不安定になってしまうのです。

 そこで、私は感情の幅自体を広げ、不安やストレスによって脳の扁桃体が活性化するのを抑制する手段として、合谷タッピングを用いるようになりました。

【合谷タッピング】のやり方

人さし指と中指で、心地いいくらいの強さで、リズミカルにトントンとたたく。
時間の目安は1分以上。やりやすい方の手だけでいいが、続けたい時は両手に行ってもよい

パニック障害に悩むかたの6割がすぐに効果を実感

パニック障害の人の6割が効果を実感!

 合谷タッピングを、主にパニック障害に悩んでいるかたに試してもらったところ、239名中、「とても効果を感じた」人は14・64%の35名、「まあまあ効果を感じた」人は45・19%の108名と、約6割の人たちが効果を即実感しました。

 その心身の変化は多岐に渡り、「不安や恐怖が和らいだ」「気持ちが落ち着いた」「イライラが消えた」「心が軽くなった」「緊張がとけた」「体の力が抜けて、呼吸が楽になった」「胸のモヤモヤがなくなった」「リラックスできた」「眠くなった」「体が温かくなった」といった声が寄せられています。

 私は普段、トラウマや不安を抱えた患者さんへのセラピーにも合谷タッピングを取り入れていますが、その9割に症状の改善が見られました。

 ある30代の男性は、職場の同僚が自殺をしました。以来、不安を感じて家に帰れなくなったり、過食をしたり、夜眠れなくなったりました。

 会社では誰かが席にいないと、また同じことが起こるのではないかという不安にかられ、極度の緊張状態が続いていたのです。このかたには過去に大切な人との別離体験があり、同僚の死によって、そのトラウマが想起されていました。

 そこで、セラピーの中で合谷タッピングを活用したところ、たった1回でトラウマや不安、過食、不眠の症状が消えたのです。

 他にも、育児に悩んでいた女性がポジティブな考え方や行動に変わったり、多重人格のかたが溶け合うように人格が統合されたという症例もあります。

 臨床の場で、合谷は思った以上に万能のツボだと実感しています。日常の中で、不安やストレスを感じたときは、ぜひ合谷タッピングを取り入れてみてください。

【合谷】への指圧で痛みが消えるしくみを脳神経外科医の大学教授がMRIで確認

樋口敏宏(ひぐちとしひろ)

明治国際医療大学脳神経外科教授

 ツボ刺激は、伝統的な治療法として現代医学よりはるかに古い歴史を持ち、その効果についても経験的によく知られています。

 にもかかわらず、いまだに謎を秘めた療法とされています。なぜツボ刺激が効くのか、その根本のところが、いまだによくわかっていないのです。

 解明が難しいのは、その効果の仕組みを生体内で医学的にとらえることが容易ではないからです。

 そこで、私たちは最も古くから多くの人たちに愛用されてきたツボのひとつである合谷に、現代医学の最も新しい測定法であるMRI(核磁気共鳴画像法)を用いて、脳機能の面からその秘密を探ってみました。

 合谷を選んだのは、以下のような理由からです。まず、合谷は幅広い効果を持つツボであること。

 たとえば、頭痛、歯痛、疲れ目、鼻炎、肩こりなど、上半身の多様な症状に効果を発揮するばかりか、精神的なストレスの軽減にも効果があるといわれています。

 中でも有名なのは、痛みへの効果です。私は脳神経外科を専門としていることから、頭痛などの痛みに定評があるこのツボに、以前から興味を持っていました。

 また、MRIを用いて脳を調べる研究では、手の合谷は非常に便利なツボです。測定のときに、脳から遠く離れた手という場所にあり、しかも刺激が容易なために、ツボ刺激をしながら脳への影響をその場で確かめることができます。

 外界と接している皮膚には、日常生活でたえず刺激(感覚刺激)が加わっています。そうした刺激は、神経を介して感覚の中枢である脳に伝えられますが、そうした一般的な刺激と鍼などによるツボ刺激とではどのように違うのかをMRIで調べてみました。

痛みの軽減につながる脳の領域が刺激される

画像①右手の合谷を化粧ブラシでこすった場合に現れた脳の反応

「中心後回」「縁上回」「視床」「島」と呼ばれる脳の部位の血流が増した(脳活動が確認された)。

画像②右手の合谷を電気鍼で刺激した場合に現れた脳の反応

「縁上回」「島」に加えて「帯状回」などの脳の部位の血流が増した(脳活動が確認された)。「中心後回」には脳活動は確認されなかった。

 まず、MRIで得られた画像①を見てください。これは一般的な刺激として、被験者の合谷を化粧ブラシでこすった場合に現れてきた反応です。

 中心後回(一次感覚野)、縁上回(二次感覚野)、視床、島などと呼ばれる脳の部位の血流が増し、そこが賦活(活性化)されているのが画像からわかります。こうした変化は、合谷ではない部位に同様の刺激を加えても起きてきます。

 ところが、捻鍼刺激(痛みを伴わない鍼刺激のこと)、電気鍼刺激、温熱刺激などのツボ刺激を合谷に与えたところ、一般的な刺激とは違った、脳の部位が賦活されたのです。

 特にハッキリとしているのは、帯状回と内側前頭回(補足運動野)、前頭前野などの脳の部位です。画像②は、そうしたツボ刺激で得られた画像のひとつです。

 実は、これらの領域の変化は、痛覚の処理(痛みの軽減など)をするさいに賦活される脳の領域と重なってきます。つまり、このことから、ツボ刺激が一般的な刺激と違って、痛みを軽減する効果があると推察できるわけです。

適度な刺激でも効果的で持続する

 また、痛みなどの刺激を脳が受け取るには、受容器と呼ばれる器官を介して、神経が刺激を受けなければなりません。そうした痛みを伴うような刺激を受け取る受容器のひとつに、「ポリモダール侵害受容器」があります。

 実は、ツボ刺激の効果を説明する理論のひとつに、このポリモダール侵害受容器の反応(鎮痛作用)がかかわっているという説があります。

 簡単に述べると、ポリモダール侵害受容器が刺激を受けると反応し、痛みが軽減されるという説です。

 ポリモダール侵害受容器に反応を起こさせる刺激は強いものである必要はありません。ほとんど痛みを感じないような刺激でも、反応を起こさせることができます。

 今回行った鍼刺激、電気鍼刺激、温熱刺激は、実際の治療の現場で行われているのと同様の、ほとんど痛みの伴わない刺激です。

 私たちの研究は、痛みの受容体を直接刺激するような実験ではありませんが、脳の痛覚の処理系が賦活された事実から考えるなら、このポリモダール侵害受容器説を側面から支持したことになるかもしれません。

 ポリモダール侵害受容器は、指圧、マッサージなどの刺激にも反応します。このことから、一般のかたが自分の指を使って合谷を刺激しても、確かな手応えがあるでしょう。

痛くない適度な刺激で、合谷を5秒間押すことを5回繰り返すだけでも、頭痛などの痛みを軽減する効果があると考えられます。

 しかも、その効果は持続性があり、刺激が終わったあとでも続きます。今回の研究の解析から、そうした従来の説を支持する結果が得られています。