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【納豆スープ】は天皇皇后もご関心を寄せる日本最古の医学書【医心方】のすごい処方箋! 

2020/12/15

オックスフォード大も注目!1000年前の医学書『医心方』は現代人の病気に著効

作家・古典医学研究家 槇佐知子

『医心方』とは、平安時代の宮廷医で、宮内省の医学機関の鍼灸の教授でもあった鍼博士・丹波康頼が、984年に朝廷に献上した、わが国最古の医学全書です。

 有史以来9世紀までに中国で著された医書や本草学(動植物・鉱物に関する博物学)だけでなく、道教・儒教・仏教・陰陽道・天文学・史学・文学・占いなど、あらゆる分野の膨大な文献から、康頼が選び出し、30巻に編集したものです。

『医心方』には、16世紀に朝廷から半井家に下賜された『半井本』と、江戸末期の安政に『半井本』を透き写し、虫食い箇所を補填した『安政本』が存在します。

 古代中国では不心得者に医書を悪用されないように、文字や薬名を難解にしていました。『医心方』も同様に、古漢文のうえ、難解な文字を使って記されています。

 また、明治・大正といった西洋医学の世となったことも影響し、『医心方』は1000年近く埋もれ続けたのです。1984年に『半井本』が国宝の指定を受けましたが、全容を知る人はいませんでした。

 私が『医心方』と出会ったのは、74年1月です。

 そのころの私は、医師よりも夫の言葉を信じ込み、自分の既往症をガンだと思い込んでいました。それならば、残りの命を自然保護運動に捧げようと、都市計画によって開発寸前だった庭園の保存運動を立ち上げ、活動していました。

 その運動に賛同した市の医師会会長が誘ってくれた医師の一人が、私に見せたのが『安政本』です。

 最初に偶然開いたページに、私の既往症にそっくりの記述があったので夢中に読んでいると、「この文字が読めるのですか?」と、その見せてくれた医師が驚愕し、私に解読と共訳を懇願しました。

 古典の中で、最も多様な文字が使われている『今昔物語』を種本にして作品を書いていた私は、『医心方』をまがりなりにも読めたのです。

 しかし、共著として出版するからには、推定でなく、正確に解読しなければなりません。約5000字からなる部首字書を手作りし、文字のカラクリを調べました。また、万葉仮名や古体仮名は、薬名などを解くカギでした。少女時代から、古典の原典に親しんできたことが、ここで役立ったのです。

 以来、『医心方』の現代語訳完結までの約40年間、私は寝食も忘れてのめり込みました。その間、私の既往症はガンではなかったことがわかり、庭園も都立庭園となって保存され、国指定の名園となりました。

現代語訳の励みは両陛下からのお言葉

『医心方』の全訳の大きな励みとなったのは、思いがけずいただいた、天皇・皇后さまからのねぎらいと励ましのお言葉です。

 国際寄生虫学会に両陛下がご臨席の折、天皇陛下から宮内庁の書陵部に、「寄生虫について、『医心方』にはどのような記載されているか」とご下問があったそうです。

 それを人づてに聞いた私は、「もしよろしければ」と宮内庁に申し出て、ご意向をうかがったうえで、2000年の天皇誕生日にそれまで刊行した現代語訳17冊を筑摩書房の協力を得て献上しました。

 それ以降、新たな訳書の刊行ごとに宮内庁にお送りし、そのたびに侍従や女官長を通じてお言葉を頂戴しました。

 2012年に全30巻の翻訳を完結した折には、皇后さまから直々にお電話があり、「お目は大丈夫ですか」とのお言葉を賜りました。

 32冊目の序文に、私の網膜剥離のために刊行が遅れたことを書いたのをお読みくださり、皇后さまは私の目のことをご心配くださったのです。本当に感激しました。

「世界の記憶」への申請運動が進行中

『医心方』は、1000年も前に編纂された書物ですが、そこに含まれる健康情報は現代にも通じるものが多く、処方は示唆に飛んでいます。

 私自身もその処方を実践し、ケガの手当てや美容法として生かしてきました。効果のあった健康法や処方は、機会あるごとに新聞や雑誌、テレビ、講演会などで発表し、大きな話題を呼んだこともあります。

『医心方』の完結後、イギリスのオックスフォード大学と日本の製薬会社が共同で、『医心方』の情報と最先端の西洋医学との融合により、新たな治療法を研究するプロジェクトが進められています。まさにタイムカプセルから甦った古代オリエント医学と、西洋医学との出会いです。

 このプロジェクトに関わるオックスフォード大学名誉教授で、国際生理学会会長のデニス・ノーブル博士から、「『医心方』には、ほかでは失われてしまった多くの貴重なテキストが残っており、それは世界の文化的・医学的遺産です」というお言葉を、2012年の現代語訳完結時のパンフレットに推薦文を寄せていらっしゃいます。

 現在では、ユネスコの「世界の記憶」に、『医心方』を申請する運動が進行中です。

『医心方』に載っている健康法や医学情報は、現代人にとっても今すぐ役に立つものが少なくありません。

 例えば、二日酔いに効く「シジミ汁」や、ひざ痛の改善に効果的な「酒粕シップ」などは、『医心方』が出典です。

 次ページでは、私が昨年、お世話になった納豆スープを紹介しています。この納豆スープが、あなたの日常に役立つことがあれば、幸せです。

顔全体がどす黒くなるほどの打撲のアザが「納豆スープ」で2週間でほぼ消えた

作家・古典医学研究家 槇佐知子

 2017年のはじめ、自宅で大きな事典を抱えて書架から移動しようとして、私はじゅうたんに足を取られてつまずき、転倒しました。大きな事典を抱えたまま倒れたため、体を守るためにとっさに手をつくことができなかったのです。

 倒れた際、木製の長いすの背に、眉間をしたたかに打ち付けました。額は切れなかったのですが、コブができました。近くの病院では診てもらえず、大きな病院(多摩総合病院)の救急へ運ばれ、頭の精密検査などを受けました。

 幸いにも脳内に異常などは認められず、一時的に血圧が上がっただけでした。

 疲れ果てて自宅に戻って床に就くと、すぐ眠りに落ちました。しばらくして目が覚め、鏡を見た途端、仰天しました。

 打撲で生じた内出血が、額から顔じゅうに広がり、まるでお化けのようになっていたのです。

 額からほおの辺りまで顔全体がどす黒くなっていました。両ほおの下は、血袋のように血がたまっているのが透けて見え、ぞっとしました。まさにすさまじい大アザです。

納豆スープの引用元は中国の随代の書物

 少しの時間を経て、気を取り直した私は、「こんな症状に対し、『医心方』ではどう書いてあるのだろう?」と思いました。

 私は、新聞や雑誌、講演などで、『医心方』の多くの健康法を皆さんに紹介するだけではなく、自分でも実践してきました。病気やケガをしたときなども、実際に『医心方』に載っている健康法を試し、それがどこまで有効なのか、自分を実験台としてきました。

 そんな私から見れば、このすさまじいアザも、『医心方』を試すチャンスと考えたのです。

 そこで、『医心方』の巻18(外傷編)を見ると、「打撲による内出血の治療法」として、こうありました。

【豉一升以水三升煮三沸分再服】

(豉一升を3升の水で煮て、3回沸騰させ、2回に分けて服用すること)

この記述は、隋代(581~619年)に著された『千金方』という書物からの引用とされています。

「豉」とは、黒豆を発酵させた淡豆豉のことで、日本の『漢方診療医典』(南山堂)では、納豆を「香豉」として代用しています。

 なお、古代中国では単位名は同じでも、時代や国、支配者によって、内容が異なるうえに、同じ書名の本を後世の人が著すので、私は比率だけを参考にしています。食品が材料の場合は、私はアバウトに計ったり、その比率だけを参考にしたりしています。

 この場合には、市販の納豆3パックと水6カップ(1200㎖)を用意しました。納豆を水に入れて弱火にかけ、沸騰したら火を止め、冷めたら沸騰するのを繰り返し、3回沸騰させてから完成とします。

 近年、納豆の効果は広く知られ、日本が誇る発酵食品になっています。カルシウムやビタミンなど、体に必要な栄養素がバランスよく含まれているうえ、血液をサラサラにして血栓症の予防や便秘解消作用のあるナットウキナーゼなどを筆頭に、さまざまな健康的な効果が今では科学的に確認されています。

 総コレステロール値を下げる大豆レシチン、抗酸化作用や血中脂肪の低下作用のある大豆サポニン、骨粗鬆症の予防や更年期の不調を改善する大豆イソフラボンなども有名です。

 過去には、『医心方』の処方であった納豆により、私は12胸椎圧迫骨折を後遺症もなく完治させたことを96年以降に、新聞やテレビなどで発表しました。これなど、納豆が骨粗鬆症など、骨に強い効果を発揮する好例でしょう。

 また納豆汁と言えば、俳句における「冬の季語」としても知られています。

 東北地方では、納豆をみそ汁に入れる納豆スープはポピュラーな食べものとして、今でも人気があります。

飲んだその場で顔のどす黒さが引いた

 さて、カップ2杯目の納豆スープを飲み終えたあと、アザに変化はないかと、鏡をのぞいてみました。すると、ほんの少しですが、額のどす黒い色がまゆ毛の辺りまで薄れた気がしました。

 効き目を実感した私は、その後も毎日、納豆スープを飲み続けました。味をよくするため、昆布だしを入れたり、ごはんを少し入れてゆるいかゆにしたり、工夫をしながら食べ続けました(納豆スープのレシピは64ページ参照)。

 納豆スープの効果はてきめんで、黒ずみは上のほうから次第に抜けていきました。そして、2週間ほどで、両ほおに小さな赤いアザを残すだけになったのです。こうして1カ月を待たずに、完治させることができたのです。

 医師の見立てでは、月を追って消えていくとのことでしたから、納豆スープは確かに回復を早めてくれたと思います。

 実は、これ以前ですが、私は納豆スープを食中毒についても利用したことがあります。納豆の解毒作用が効果的で、この際もすみやかに回復することができました。

 古代の人々は、科学的な分析はできなくても、経験によってその効能を知ってきたのです。そのことを改めて実感した事件でした。

超簡単!美肌になる!やせる!【納豆スープ】の作り方

里見英子クリニック院長 里見英子

◎みそ汁がある場合

①お椀に入れたみそ汁に、よくかき混ぜた納豆1パックを入れる

※納豆は普通の納豆でも挽き割り納豆でもお好みでよい。みそ汁の具材もお好みでよい

②完成。そのまま食べる

◎みそ汁がない場合

・納豆1パック
・乾燥ワカメ(ひとつかみ)
・顆粒だしの素(小さじ1/2)
・ショウガ適宜
 (チューブでもよい)

①材料をすべてお椀に入れる

②お湯を入れてフタをし、しばらく待つ。
ワカメが開いたら完成

◎里見英子先生のワンポイントアドバイス

納豆はみそ汁に入れても、納豆スープにしても、美肌効果のあるビタミンB群や女性ホルモンのバランスを整えるイソフラボンなどの効果は維持されます。ただし、血栓を溶かす作用のある酵素のナットウキナーゼは熱に弱いため、ナットウキナーゼの効果を生かしたい場合は、納豆を入れたみそ汁やスープを煮立たせず、70℃以下にするようにしてください。食べるタイミングに決まりはありませんが、夜に食べるとナットウキナーゼが効率的に体に働きかけるそうです。1日1回は食べるようにしてください。