
ひと口30回以上かむのが目安
私のクリニックにはダイエット外来があります。肥満に悩んでいる人を見てみると、ご飯、パン、めん類などの糖質を食べすぎている場合がほとんどです。
糖質は体内で消化されてブドウ糖となり、すい臓から分泌されるインスリンの働きによって細胞に送り込まれ、エネルギー源になります。
しかし、現代の生活では、細胞に送り込まれたブドウ糖はほとんど使われません。余ったブドウ糖は中性脂肪になって脂肪細胞に取り込まれ、どんどん蓄積されていきます。これが太るメカニズムです。
このことからダイエットのために糖質制限をする人が増えています。しかし、自己流でご飯、パン、めんなどの糖質を制限している人たちからは、つらくて続けられないという声をよく聞きます。
そのような人の食事内容を聞いてみると、野菜中心の和食からただ米飯を抜いたというケースが多いようです。肉や卵など動物性たんぱく質や脂質が明らかに少なく、これでは栄養不足になってしまいます。
無理に続ければ体重は落ちるでしょうが、体力や筋力も落ちます。
私は、糖質は食べてはいけないものではなく、食べすぎを防ぎ、「適量」を食べるのが望ましいと考えています。
そこで私が勧めているのは、「よくかむ」ことです。ひと口30回、ゆっくりかんで食べてください。
糖質よりも肉、卵、チーズを優先して食べてください。成人の1日の必須栄養素量は、肉200g 、卵3個、チーズ120g を食べることでほぼ満たすことができます。
よく「1日30品目」と言われていますが、実は肉、卵、チーズの3品目でじゅうぶんなのです。
ただ、唯一ビタミンCだけはこれだけでは不足しがちです。それは、適度に野菜をプラスすることで解消できます。
肉、卵、チーズをひと口30回かんで食べ、それでも糖質を食べたい場合は食べてOKです。その場合も、ひと口30回かんでください。

口に入れたら一度箸を置くのがコツ
なぜ、30回かむのでしょうか。30回というのは、食べ物の形がなくなり、唾液とまざって液状になって、自然と喉へ流れるくらいになる、一つの目安です。
硬いものを食べる場合は、30回以上かんで食べましょう。よくかむと、唾液が分泌されます。唾液を出すことは、満腹中枢を刺激し、過剰な食欲を抑えられるようになります。
30回かむコツとして、私が患者さんに勧めているのが、ナイフとフォークで、粒ガム(ひと口)サイズにカットして食べることです。よくかむには、かみやすい大きさがあります。それが、粒ガムサイズです。
次に、口に入れたら、箸やフォークを一度置いてください。持ったままかむと、かみ終わる前についつい次のひと口に手が伸びてしまいます。一度箸を置くことで、ゆっくりかんで食べることができます。
よくかむと精神が安定し能力も発揮できる
「よくかむ」ことに対しては、こんなデータもあります。元神奈川歯科大学教授の斎藤滋先生の研究データによると、卑弥呼は一度の食事で3990回かんでいたそ
うです。ちなみに、源頼朝はおよそ2700回、徳川家康も約1500回かんでいたそうです。
現代人の咀嚼回数は620回といわれていますから、卑弥呼の6分の1以下、源頼朝の4分の1以下です。
一度の食事にかける時間も卑弥呼は51分、源頼朝は29分、徳川家康は22分だったのに対し、現代人は11分。いかにかまずに早食いしているかのデータです。
現代に比べると、当時は歯ごたえのある食べ物が多かったこともあるでしょうが、食べる量も少なかったはずで、そう考えると立派な咀嚼回数です。
これほどよくかむと、少量の食事でも食欲が満たされたはずです。また、よくかむと神経伝達物質である「セロトニン」が分泌されます。セロトニンには、精神を安定させる働きがあります。彼らが能力を発揮するためにも、よくかむ食事が役に立ったはずです。
肉、卵、チーズをよくかんで食べ、それでも糖質が食べたい場合は、食べてもだいじょうぶです。
しかし、よくかむ食べ方になじんでくると、パン、ご飯、めん類、甘い物など、糖質への欲求や興味が薄れてくる人が多いです。
そうなればしめたもの。肥満は解消され、体は健康に近づき、歴史上の偉人のように能力を発揮できるようになるでしょう
