「御神渡り(おみわたり)」とは、湖面に一部盛り上がった氷堤が見られる現象です。長野県の諏訪湖で発生するものが特に有名です。諏訪大社の上社と下社は御神渡りの起こりやすいとされる両端に相対して祀られています。そのため、御神渡りは上社の男神が下社の女神のもとへ出かけた跡だとする伝説があります。
近年は気温上昇の影響のせいか、なかなか発生しない貴重な自然現象の一つになっており、目撃することができたら、幸せを呼ぶという評判まで立つようになりました。

「御神渡り富士」
上の作品は、写真家・秋元隆良さんによって撮影された「御神渡り富士」という作品です。著書『龍を呑んだ写真家の奇跡の写真』から、秋元さんの言葉をご紹介しましょう。
幻の〝美術作品〟とも言える御神渡りを、富士五湖の一つである山中湖で撮影することができました。
せり出すように折り重なる氷群、鋒のように輝き伸びる氷やバランスよく立つ氷の板は重力を忘れ飛び出してくるがごとく存在感を示しています。
そして奥に鎮座する霊峰富士。氷を立ち上げるほどの自然の力と、富士山の持つ独自の力が重なることで発せられるエネルギーを感じていただける写真だと思っています。
この写真は、まさしく山中湖が起こした奇跡を、富士山と組み合わせて撮影できた貴重な一瞬です。
被写体として人気の高い富士山の撮影スポットには、プロ、ハイアマチュアをはじめ、多くの人が三脚を立てて撮影に挑んでいますが、このときには私のほかに数名の観光客と思われる人しか見当たりませんでした。
御神渡りという自然の芸術・神秘に富士山を加えた写真を撮影できたことは奇跡であり、たいへん縁起のよい一枚だと思います。
今年は全国的に気温の高い日が続いていますが、御神渡りが発生しやすいのは、二十四節気の「大寒」から2月上旬にかけての頃です。今年の大寒は1月20日です。実際の御神渡りに先駆けて、〝幸運を呼ぶ〟といわれる瞬間をとらえたカットをお届けします。(『ゆほびか』編集部)