高い血圧がその場で20~30ミリ下がる
私の専門は、高血圧などを治療する循環器内科ですが、肩こりや首痛、頭痛、めまいなどを訴える患者さんにもよく会います。これらの症状は、高血圧の影響から起こりやすいからです。
このような患者さんたちに私は、高血圧以外の重大な病気が原因でないことを確かめたうえで、ある療法を施します。手の甲にある「合谷」というツボを指圧するのです。
合谷を指圧する時間は、1回わずか5分です。5分指圧するだけで、肩こりや首痛、頭痛は、その場で消えるか、大幅に軽くなります。めまいも起こりにくくなります。
合谷を指圧すると、血圧が高い人はその場で20~30㎜Hg下がります。170㎜Hgの最大血圧が、120㎜Hgに下がった例もあります。1回の指圧だけではまた戻りますが、続けることで下がって安定してきます。
上のグラフは、60代の女性、Sさんが、合谷の指圧(1日5分×2回)を3カ月行う前と後の血圧を比べたものです。1日だけの計測だと、たまたまその日の出来事に影響されるかもしれないので、前後とも1週間の血圧を連続的に測り、時刻ごとに平均してグラフ化しました。
合谷の指圧後のほうが明らかに下がり、乱高下も少なくなって、安定したのがわかります。最大血圧の平均値は139・9㎜Hgだったのが、135・6㎜Hgに下がりました。24時間の血圧の平均値が㎜Hg下がるのは、4gの減塩と同じ効果です。
合谷指圧の効果は高血圧だけではありません。私が患者さんで確かめた効果は、左ページの表のように多岐にわたります。痛みや不快症状が、速やかに軽減・解消できる、まさに万能ツボです。
自分の歯痛が消えて衝撃を受ける
そもそも私が合谷に着目するようになったのも、自分自身が歯痛で困った経験がきっかけでした。
たまたま鎮痛薬がなく、以前に健康雑誌の記事で見た合谷のことを思い出して押したところ、その場でスッと歯の痛みが消えたのです。その効き目に衝撃を受けて以来、合谷の研究を始め、30年以上にわたり効果を検証してきました。
循環器内科とは別の機関で、痛みや不定愁訴のある患者さんに、合谷刺激による治療も行っています。合谷の指圧が、下記のような症状に効果的なことも、すべて自分で患者さんに施して確認しました。
患者さんたちは、痛みや不快症状がスッキリ取れてたいへん喜ばれます。ガチガチだった首や肩が楽になってとても喜ぶ人、「目がよく見えるようになった」「耳がよく聞こえるようになった」と驚く人たちが続出しています。
なかには、いとも簡単に痛みが取れるので「先生は、まるでまじない師みたいですね」と言われたこともあります。
温泉に入ったように温まり、各部の痛みがとれる
合谷の位置は、手の甲の親指と人差し指の骨の分かれ目付近の、押すと響く痛みがあるところです。ここを押すと、顔や体がポカポカしてきます。「まるで温泉に入ったようだ」と表現する人もいます。「レーザー体表温度計」という機器で調べても、明らかに体温が上昇するのが確認されました。
このように温まるのは、合谷への刺激で全身の血流がよくなるからです。その結果、冷えやこりの改善はもちろん、不快症状が取れたり、視力や聴力が改善したりすると考えられます。
さらに、合谷指圧で体の痛みが取れるメカニズムについては、私は以下のように考えています。
体の痛みは、必ずしも痛む場所そのものではなく、ある特定の場所のこりや筋肉の収縮が、離れた場所に痛みを起こしているという理論があります。
その痛みを起こす場所を「トリガーポイント」といい、ここに麻酔薬を注射すると痛みがやわらぎます。私は、合谷刺激にも、トリガーポイント注射と同じような効果があるのではないかと考えています。
また、脳には、痛みを感じる「門」のような場所があり、それが開くと痛みを感じやすく、閉じると感じにくくなります。合谷刺激には、この「痛みの門」を閉じる作用もあると推測しています。さらに、さまざまな検証から合谷刺激は、痛みを感じにくくする脳内麻薬(βエンドルフィン)の分泌も促すと考えています。
これらによって、合谷刺激は歯痛、頭痛、首の痛み、のどの痛みといった、特に上半身の痛みに卓効を現すのです。
五十肩が瞬時に解消しバンザイできた!かすみ目・うつ状態も改善した【合谷】の威力
五十肩で上がらない腕がスッと上がる
合谷指圧の効果はたいへん幅広いのですが、中でも劇的に治りやすいのが五十肩です。五十肩で「腕が上がらない」、あるいは「後ろに回せない」という患者さんに、私は診療でよく出会います。そういう人たちは、「腕を上げたり後ろに回そうとしたりすると、もう痛くて痛くて……」と、本当につらそうです。
そんなとき、私は合谷を指圧します。すると、5分間押すだけで腕がスッと上がったり、楽に後ろに回したりできるようになるのです。これまで800人くらいの五十肩を訴える人に合谷指圧を行ってきましたが、その劇的な変化には、今でも私自身、感動します。
その一例が、上の写真の60代女性Oさんのケースです。たった5分合谷を指圧しただけで写真のような改善が見られたのです。
合谷の指圧前は、症状がない側(健側)に比べ、症状のある側(患側)が、ほとんど上がらず、後ろに手を回せない状態でした。それが指圧後は、バンザイの状態近くまで上がり、後ろにも手を回せるようになっています。
Oさんの体表面温度は、左肩が1度、左上腕が1・6度上昇していました。指圧中もOさんは、「肩や顔がポカポカ温かくなってきました」と驚いていました。
めまいが取れて、視界もクリアに
もう一人は、高血圧で私の診療を受けていた70代の男性Mさんは、あるとき、めまいを感じるようになり、近所の耳鼻科に行きました。ところが、「めまいの原因は不明。耳には異常なし」と言われたとのことで、私のところに「何とかしてください」と駆け込んできました。
そこで、問診後、5分の合谷指圧を行いました。すると、Mさんは、
「めまいが消えて頭がスッキリしました。それに、視界がボンヤリかすんでいたのに、霧が晴れたようにハッキリ見えるようになりました!」
と、とても喜んでいました。
さまざまな自覚症状を視覚的に表現し、10点中の数値で表すVAS(ビジュアル・アナログ・スケール)という測定法があります。
Mさんの場合、合谷刺激前のVASは、めまいが4・7、視力障害(かすみ目)が4・75でしたが、刺激後はそれぞれ2・35と2・4になり、大幅に改善されました(グラフ参照)。
めまいもかすみ目も多くの原因から起こりますが、特定の病気が原因でない不調によるものは、このように合谷指圧が高い効果を示します。
頭痛・肩こりが消えうつ状態もほぼ解消
現代人に増えているうつ状態の改善にも、合谷刺激が役立ちます。
20代男性Rさんは、細かい作業の多い仕事で、頑固な肩こりに悩んでいました。職場の上司との関係がうまくいかず、気分が沈んでうつ状態にも陥っていました。慢性の頭痛(習慣性頭痛)や疲れ目による視力障害(字がぼやけて見づらいなど)にも悩まされていたのです。
そんなRさんが、私の外来に頭痛を訴えて駆け込んできました。Rさんの首や肩を触ると、筋肉がパンパンに硬くなっており、触れるだけでも痛みを訴えました。こういうときは、患部の筋肉を直接もむと、もみ返し(もむことでかえって状態が悪化すること)が起こりかねません。
そこで合谷を5分ほど指圧しました。すると、Mさんは顔を真っ赤にして、「顔や首がポカポカして体じゅう汗ばんできました」と言います。指圧後は、パンパンに張っていた首や肩がやわらかくなっていました。
「首が楽に曲げられるし、こりも頭痛も消えました! 目もよく見えます」と、Mさんは驚きながら、とても喜んでいました。
刺激前のVASは、頭痛が6・7、肩こりが9・6、視力障害が9、ストレス度合いが9・6、うつ状態が9・7と、いずれも高い数値でした。それが、合谷の指圧後は、頭痛と肩こりは0(消失)となり、ほかの3つも小数点以下になってほぼ解消したのです(グラフ参照)。
合谷指圧で血流を促し、痛みを取ってリラックス状態を作ると、うつ状態まで劇的に改善できるのです。
ひどい顎関節症(顎関節の不調で口の開閉に支障をきたすもの)で、口が指1本くらいしかあかず、3カ月ほどまともに食事をしていなかった患者さんが、合谷指圧で改善された例もあります。1回の指圧で口が指3本分くらい開けられるようになり、食事ができるようになって、たいへん感激していました。
合谷を手で押すだけで、このように高い効果が得られるのです。次に自分で押す方法をご紹介しましょう。
合谷の研究を30年以上続ける大学教授が効果的な刺激のしかたをズバリ指南
合谷は人によって場所が異なる
私は、30年以上前に「合谷」に着眼して以来、述べ2万人以上の患者さんに合谷指圧を施し、また指導してきました。その経験を踏まえて、読者の皆さんが効果的に刺激するためのコツをご紹介しましょう。
まず、合谷の場所をご説明します。
「ツボ」というと、普通、決まった1つの点にあると思われています。 しかし、私が長年、おおぜいの患者さんに合谷指圧を施術した経験からわかったのは、合谷の場所は人によって微妙に違うということです。その場所は、大きく3つに集約されます。「合谷①②③」として、その探し方をお話ししましょう。
合谷①は、もっとも見つけやすい位置です。「親指のつけ根と、人さし指のつけ根、それぞれの骨の分かれ目」の3点で囲まれた三角地帯にあります。
三角地帯の中を、指で探ってみましょう。押しもみすると、痛いけれども気持ちがよい、いわゆる「痛気持ちいい」感覚が見つかれば、そこがあなたの合谷です。
この方法で、場所が見つからない、痛気持ちいい感覚が得られないという場合は、次の合谷②③を探してみましょう。
合谷②は、人さし指と親指の骨が交わるところから、少し人さし指の骨に沿って指先方向に進んだところで、わずかな骨のくぼみがあります。ここを押しもみして、痛気持ちいい感覚が得られる場合、そこがあなたの合谷です。
合谷③は、②からさらに指先寄りに、人さし指の骨に沿って進んだところで、点ではなくライン上にあります。
ただ、①②③のどれか1つに決める必要はなく、三角形の中を指圧して、痛気持ちよさを強く感じるところを刺激してみてください。
痛気持ちよく5分押すだけ
合谷の指圧のしかたもいくつかあります。
合谷①②は、三角地帯に親指を当て、手のひら側に人さし指を当ててはさみ、三角地帯をもみほぐすとよいでしょう。
合谷③は、4本指を使って押すと効果的です。合谷③のラインに人さし指~小指の4本をそろえて当て、グッと押します。
押す強さは、痛気持ちいい程度にして長さは5分を目安にします。5分間、押しっぱなしだと疲れてしまうので、押しもみしながら、力を入れたりゆるめたりをくり返すとよいでしょう。5分行ったら、左右を変えて同様にします。これを1日2~3回行うのが目安です。
初めは5分でなくても、できる範囲から始めてみてください。
これらの方法では、手が疲れて続かないという場合は、「渡辺式トントン法」を行うとよいでしょう。合谷を、人さし指と中指をそろえて指先でトントンをたたく方法です。合谷めがけてトントンとリズミカルにたたくのがコツです。
高血圧や心臓病、低血圧の人、過去に脳卒中や心臓病の経験がある人、痛いに弱い人などは、特にこの方法をお勧めします。渡辺式トントン法の場合は、60回たたいたら、左右の手をかえて同様に行います。
このほか、手が疲れる場合は、丸みのあるペンのお尻部分で押したり、洗濯ばさみではさんでおいたりするのもよい刺激法です。
気になる症状があるときは、朝晩、あるいは朝昼晩に、この合谷指圧を行うとよいでしょう。高血圧の人は、塩分を控えた食事や適度な運動に加えて谷指圧を行うと、降圧効果がぐんと高まります。
特に気になる症状がない人も、仕事や家事の合間、電車に乗っている時間などに合谷指圧を行うと、健康の維持・向上に役立ちます。
合谷指圧の注意点
ただし、あまり強く押し過ぎると、人によっては気持ち悪くなることがあるので、もし万一、気持ち悪くなっても、しばらく横になっていれば治ります。
また、熱心にやり過ぎて、腫れや皮下出血を起こさないように、無理のない範囲で再開しましょう。
合谷指圧は入浴中や入浴直後には行わないでください。血圧が下がり過ぎる危険があるからです。飲酒後や食直後なども避けましょう。妊娠中の人、極端に痛みに弱い人、発熱しているときも行わないでください。
私は毎日、通勤の往き帰りの電車の中で合谷指圧をやっています。朝行うと、体中の血流がよくなってパワーがみなぎり、帰りの電車では疲れ切った体を癒すのにとても重宝しています。合谷指圧は、合谷の効果に驚愕し、独自に研究してきた医師の私が、自信を持って皆さんにお勧めするすぐれた健康法です。