腸閉塞の激痛に悩んだ医師が、背中のツボ「志室(ししつ)」を刺激したところ、ゲップとともに大量の便が出て「九死に一生を得た」と言います。
その話が評判になり、実行した人から「よくなった!」と朗報が続々。自分でできるゴルフボールを使う方法も紹介します。
開腹手術をすると、数年後腸閉塞に悩まされることが
ガス腹や便秘で、おならやゲップがきちんと出ずに、腹部にガスがたまってくると、さまざまな不快症状が出始めます。ほうっておくと、腹痛や嘔吐などの症状が現れ、さらに進行すると腸閉塞になります。
腸閉塞になると、文字どおり、腸が詰まってしまいます。腸の内容物が停滞し、おなかが膨れてきて、激しい腹痛に襲われます。
治療は、鼻にイレウス管と呼ばれる太いチューブを挿入して、腸管の内腔を減圧するのですが、これは非常に苦しさを伴います。
開腹手術後数年たって、腸閉塞になる人も少なくありません。原因は、意外にも、私たちの体に備わっている自然治癒力です。
自然治癒力は、病んだり傷ついたりした体を快方に向かわせる手助けをしてくれる力です。手術後は、傷ついた部分を修復しようと自然治癒力が働き、周辺組織を巻き込みます。
そのために腸管と腸管、あるいは腸管と腹壁に癒着が起きて、その結果、腸管に「ねじれ」や「締めつけ」が生じてしまうのです。
開腹手術後に見られる合併症の中でも、この「癒着性腸閉塞」は、最も厄介な病態の一つでしょう。
実は、私自身も、癒着性腸閉塞を抱えている一人です。過去には、鼻からイレウス管を通したこともあります。その苦しさは経験済みです。
私の場合、胃ガン手術の3年目に腸閉塞が起きた
私の場合は、42歳のときに受けた胃ガンの手術が癒着の原因と考えられます。胃の4分の3を切除すると同時に、進行性ガンの場合を懸念して、私自身の希望で広範囲なリンパ節郭清術も受けました。
胃の切除後は、1日の食事を4~5回に分けて、少量ずつ取っていましたが、それでも腸閉塞が起こりました。私の場合は術後3年目でしたが、早い人では2年目あたりで起きることもありますし、また、5年以上たってから起きる人もいます。
腸閉塞が最初に起きたとき、すぐにそれとは気づきませんでした。まずへその右側周辺が痛みだし、膨満感とともに痛みが激しくなったので、腸閉塞を疑いました。自分の腹部に聴診器を当ててみると、腸閉塞特有の音が聞こえてきました。
腸閉塞の痛みの出る部位は、どこに強く癒着の症状が出ているかで変わります。また、みぞおちのあたりに痛みを感じる大きな神経叢があるため、この部分で痛みを感じる人もいます。
私の場合は、痛みの位置からして、おそらく、胃を切除した後につなぎ合わせた胃と十二指腸の吻合部分で、小腸の範囲に癒着が生じているのであろうと思われました。
しかしそうとわかっても、痛みをとる手立てがありませんでした。どんどん強くなる痛みに焦りを感じながら、なんとか詰まりをとろうとおなかをもみほぐしたりしてみましたが効果はなく、麻薬注射でも痛みは軽減しません。
結局、イレウス管を通すことになってしまったのです。開腹手術後の腸閉塞を一度でも経験されたかたはおわかりでしょうが、またいつ何時、あの苦痛に遭遇するのだろうかという不安を、絶えず抱きながら毎日の生活を送っているのが現状でしょう。
私も、あの耐えがたい激烈な腹痛にこれからも悩まされるのかと思うと、不安でしかたありませんでした。そして、二度とごめんだと、その後はますます気をつけるようになり、量だけでなく、食事内容にも相当気を遣うようになりました。
偶然、志室のツボ刺激で九死に一生を得た
しかし、4カ月もたたないうちに、再び腸閉塞の兆候が現れたのです。
一度経験すると、ある程度成り行きがわかります。なんとかイレウス管を通さずに回復できないものかと、のどの奥に指を突っ込んで、無理に吐こうとしたり、おなかをもみほぐしたりしました。
しかし、食べたものはすでに小腸まで行ってしまっているので、吐けませんでした。かといって、停滞しているので便もガスも出ません。
上にもいかず、下にもいかず、まさに閉塞です。それでもなんとか出そうと、トイレの便座に座ったまま、痛みで体をエビのように「く」の字に折り曲げて、5~6時間もおなかをもみほぐし続けました。
しかし、とうとう我慢も限界に達し、あきらめて、病院に連絡をしてもらおうと、歯を食いしばって痛みに耐えながら立ち上がりました。
そのときに、長い時間、体を折り曲げていたので、伸ばした腰をさすろうと、両手で背中を10回ほどさすったのです。するとなぜか、痛みが少し和らいだのです。
「おやっ?」と思い、手を止めると、また痛みがぶり返しました。「背中をさすったからか?」と、今度は強めに押しさすってみると、痛みがさらに和らぎました。
それではと、右と左を押し比べてみると、右のほうが痛みに対する軽減効果がありました。
特効薬を得たとばかりに、立ったままの姿勢で、1㎝ずつ位置をずらしてさすったり押したりしていると、突然、立て続けにゲップが出始めました。同時に、ゴロゴロと音を立てながら腸が動き始めたのです。
すると、せき止められていたものが流れ出すように、大量の水溶性便が一気に出ました。「九死に一生を得る」とはまさにこのことです。
後日、私がさすっていたのは、背中の右側にある「志室」という胃腸の機能を高めるツボであることがわかりました。
おそらく、このツボを刺激すると、一時的に逆流が生じて腸管内の圧力が低下し、痛みが遠のくのでしょう。
そして、蠕動運動(内容物を先へと送り出す腸の働き)が復活し、排便と排ガスが促されるのだと考えられます。
この一件以来、食後には必ず志室を押すようにしています。といっても、必ずしも同じ位置ではなく、押して気持ちのいいところを押します。「志室を目安にその周辺」というのが正しいかもしれません。
食後にうつぶせになって家族に押してもらうのもよいでしょうし、ゴルフボールを利用すると、自分でも簡単に志室のツボを刺激することができます。この志室のツボ押しのおかげで、腸閉塞の激痛に襲われることはもうありません。
【志室】の探し方
胃腸の機能を高める特効ツボ「志室(ししつ)」の押し方
〈日中、いすに座って自分で行う〉
背もたれのあるいすがあれば、日中、自分で押すことができます。
右手でげんこつを作り、げんこつが背中の志室の位置にくるようにします。
その状態で、背もたれに寄りかかります。「1、2、3」とゆっくり数えながら、徐々に強い刺激になるように体重を預けていきます。
これを、少し休みながら、ゲップかおならが出るまで繰り返します。
「志室」の探し方
腰の左右に手を当てたとき、大きな骨(腸骨)に触れます。
その上端から8~10㎝上で、背中の中心から4~5㎝右の外側にあるのが「志室」のツボです(身長160㎝を目安にした場合)。
志室は、左右にありますが、腸閉塞の予防のために押すのは、右側のみです。
〈うつ伏せに寝て、人に押してもらう〉
食後の20~30分後、うつ伏せになります。枕などを顔に当てて、軽く抱きかかえるようにするといいでしょう。
押してもらう人に背後からまたがってもらい、両手の親指の腹をそろえて、志室に当ててもらいます。「1、2、3」とゆっくり数えながら、徐々に強い刺激になるように押してもらいます。
その後、背中を下から上にさすってもらうなどしながら少し休みます。
これを、ゲップかおならが出るまで繰り返します。
〈布団やベッドでなく、固い床に仰向けに寝て、自分でゴルフボールを押し当てる〉
食後の20~30分後、仰向けになります。
ゴルフボールが、背中の志室の位置にくるようにします。「1、2、3」とゆっくり数えながら、徐々に強い刺激になるように体重を預けます。
ゴルフボールを背中から外し、背中を下から上にさするなどしながら少し休みます。
こ れを、ゲップかおならが出るまで繰り返します。
よくなったと朗報続々 権威ある医学雑誌にも掲載
志室のツボのことをいろいろなところでお話しし、実行されたかたがたから、よくなったという朗報もたくさんいただいています。
私が直接診療できない人も、薬や特別な器具を使わずに、腸閉塞の苦しみから必ず脱することができるのはたいへんうれしいことです。
16年前には、志室のツボ押しが腸閉塞の解消に役立つことを、東洋医学関連では最も論文の引用件数が多い「アメリカンジャーナル・オブ・チャイニーズメディシン」という医学雑誌に投稿したところ、専門家による審査の結果、同誌に掲載され、学術的にも評価されました。
今後も、この志室のツボ押しが広まり、一人でも多くのかたが、腸閉塞の苦しみと不安から解放されることを願ってやみません。
なお、この指圧法を10~20分ぐらい行っても症状が解除されない場合は、速やかに医師の診察を受けることがたいせつです。