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【五芒星】【九字】はるか昔から魔除けに活用されてきた”模様”の力

●本記事は『ゆほびかGOLD』vol.16の掲載記事を再編集したものです。

7万7千年前から人類は文様を使ってきた

南アフリカのブロンボス洞窟で、7万7千年前頃の人類が使用した道具などが発見され、その中に、3組の平行線を組み合わせた、×が3つ連なった文様が刻まれた土塊があったと、2002年に発表されました。

このように、動物など実在するものではなく、幾何学的な文様が刻まれていたことから、7万7千年前頃にすでに人類は、抽象的な思考能力を持っていたと科学者たちは考えています。

線を交差させる×というこの文様は、人類の長い歴史の中で、洋の東西を問わず、邪気払いに使われてきたものです。日本では、海女が頭に巻く鉢巻きに、五芒星や縦5本横4本の線が交差している文様などが描かれていますが、これは海中での魔よけでした。

私たち人間は、大いなる自然の前では弱い生き物です。なにかにすがらずにはいられないという思いから、7万7千年もの昔から、さまざまな文様に魔よけの働きを期待したのです。

日本で最も一般的な魔よけというと、神社仏閣などで配布されるお守り・お札です。皆さんも、お守りを身につけたり、お札が神棚や仏壇に祀られているのを見たりしたことがあるでしょう。

秘伝・口伝で受け継がれた

日本人は、海を渡ってきた文様を、自国の文化と実にうまく融合させてきました。そして、魔よけとして、さまざまな文様は私たちの生活に密着していたのです。しかし、それは秘伝・口伝で受け継がれてきたので、歴史の表舞台には出てきませんでした。

私は魔よけのさまざまな文様を研究し、実際に城などの歴史的建造物に足を運んで確認してきました。「こんなところにも魔よけがあるのか」と驚いたことも少なくありません。

日本で強い魔よけの効力があるとされてきた文様が、五芒星と九字です。

五芒星のルーツは、メソポタミア(チグリス・ユーフラテス川に挟まれた地帯)にあると考えられています。

五芒星のように、一筆で描く図形には切れ目がありません。
 
それは、閉鎖性を意味し、悪霊や邪気の侵入を防ぎ、また閉じ込めることができると考えられたのです。

ゲーテの「ファウスト」の中にも、悪魔のメフィストフェレスが、ファウストの部屋の鴨居に描かれた五芒星のために部屋から逃げることができず、ネズミに五芒星の1つの角をかじらせてすきまを作ったというくだりがあります。

そして五芒星には、1対1.618という黄金比が含まれています。この調和の取れた形が、見る人に安心感や心地よさを与えるという点も、身近な魔よけとして多く用いられた理由でしょう。

また、九字は、元々は、4世紀の中国の道教思想の本に出てくる護身の呪文「臨兵闘者皆陣列在前」の9つの文字を指しています。これを図形化したのが九字で、井桁(#)はその省略形と思われます。

山伏(修験者)が護摩を焚いているところを見たことがある人は、その様子を思い出してください。手刀で空を切っていますよね。あれは、呪文を唱えながら、手刀で九字を描いているのです。このときの護摩木は、井桁状に組まれています。

魔よけから伝わるいにしえの人々の思い

この九字と五芒星をセットで使用することで、最強の魔よけとなると昔の人は考えられたようです。

祭りの旗や軍旗、神社の幕などの縁にある、竿やひもを通すためにつけた「乳」という輪のような部分に、五芒星や九字の刺繍がよく見られます。

また、城などを建造するときに使われた指南針(羅盤。家の向きや、その立地環境を計測するための道具)には、鬼門(東北)に九字、裏鬼門 (西南)に五芒星が描かれています。

実際、城に足を運んでみると、「鬼門よけ」といって東北の隅に当たる場所の石垣を凹形に折り曲げています。

そして、天守台(天守閣を載せる主に石垣作りの台)の鬼門に当たる箇所や虎口(出入り口)に使用されている石に、五芒星や井桁などが刻まれていることがあるのです。

石垣には、石垣作りを担当した大名家の家紋や、その家独特の合印が多く刻印されています。その中で、城の要所に刻まれた五芒星や井桁などの刻印は、城を守る魔よけとして刻まれたと考えています。

先にも述べたとおり、魔よけについて書かれている歴史書は、ほとんどありません。

しかし魔よけは、人々の生活に根づき、今なお残っているのです。身の回りの魔よけに目を向け、私たち人類の祖先の思いに耳を傾けてみてはいかがでしょうか。

古くから、私たち日本人は自然を恐れ、敬い、また、自然に寄り添って生活してきました。その術が、「生活の知恵」として今なお残っています。文様だけでなく、日本に語り継がれてきた生活の知恵も、ぜひ大事にしていただきたいと思います。