
トラブルの渦中にある人に手紙を書く
確証バイアスのセルフチェックや内省のために役立つ手法に「ロールレタリング」があります。
これは、「ロールプレイング(役割演技)」と「レター(手紙)」を組み合わせた名称で、日本語では、「役割書簡法」「役割交換書簡法」とも呼ばれています。
さて、一体どんなことをするのかと言うと、特定の人に手紙を書き、次に相手から自分への手紙(返事)を書きます。これらをすべて自分一人で行うのです。
書いた手紙は、相手に渡しません。「相手に見せない手紙」として、率直に自分の気持ちを書き出すとともに、手紙を受け取った相手の視点に立ち、相手の気持ちを考えて返事を書くことで、客観的に自分を振り返り、気づきを得るという心理学の手法です。
手紙を書く相手は、両親や祖父母、きょうだいなど、人格形成に深く関わった人です。もちろん、人間関係でトラブルが発生していたら、渦中にいる人(上司・同僚・部下など)に向けて書くのもよいです。
言葉の受け止め方が大事
ロールレタリングの目的は、自分と相手、双方の役割を体験しながら、自分の心に向き合い、気づきを得ることです。
子育てに悩んでいる友人に、「かわいい子どものために、もっとがんばって」とメールで励ました後に、一切、連絡が取れない状態になったケースを例にしましょう。
下の手紙を、1枚目から読んでみてください。
Aさんへ
突然、連絡が取れなくなって、心配していました。これほど無視されると、私も悲しいし、傷ついています。
Bより
Bさんへ
手紙を読みました。あなたは「もっとがんばって」と書いていますが、私が子育てにどれほどまでにがんばってきたか、きちんと理解していますか。
今までのがんばりを見てもらえてなかったように思い、悲しくなりました。
Aより
Aさんへ
返事をくれて、ありがとう。子育てのことをよくわからないのに「がんばって」と書いてしまいました。ごめんなさい。
何とか今を乗り越えて、以前よりもっとステキなあなたになって欲しいと、励ましたい気持ちを込めていました。
Bより
このように、返信を書くことをくり返していくうちに、自分のことも相手のことも客観視できるようになります。
そして、自分の思い込み……つまり確証バイアスや改善したいところが具体的に見つかったり、敵対的な相手とも、すり合わせるポイントが見えてきたりします。
私が勤務する大学の講義の中で、ロールレタリングを学生に体験してもらっています。
最初は何を書けばいいのかと、紙とペンを持て余していたり、「こんなことやって意味があるの?」と不思議がっていた学生も、やり始めると意外にもハマります。自分で思ったことを書いているだけなのに、自分の思考が変化するのがわかるのでおもしろいからでしょう。
ロールレタリングを通じて、さまざまな気づきがあるようで「先生の講義のおかげで、自分がいかに偏ったものの見方をしていたかわかりました!」とお礼を言われることもしばしばあります。
ただ手紙を書いているだけのように見えますが、やっている人はかなり成長します。不思議ですが、効果絶大。ぜひ試してください。
あらかじめ困難を想定しておく!
ソーシャルスキル・トレーニング(SST)も、人間関係改善に有用な方法です。
これは、社会の中で想定されるコミュニケーションを、ロールプレイなどを通してトレーニングするものです。

イラスト/はしもとあやね
例えば、自分には関係のない仕事を上司から押し付けられたと想定してください。
「これもついでにやっておいて」と言ってくる上司に対し、あなたはなんと返しますか?
普段は「ハイ」と応えてしまう人も、「今日中ですか? でしたら、私には自分の仕事があるため、できません」「こんな時間に言われても困ります」「明日でもいいですよね?」などと実際に口に出し、身振り手振りもつけて「どう返答するか」を考えてみるのです。
こういったトレーニングをしておくことで、現実でも同じようなことが起きたときにスムーズに対処できるようになります。
あらかじめ困難を想定し、対処法をトレーニングしておくことで、「自分がAをすると絶対にBになる」と想定していたことと、異なった事態になったときに、スムーズに対応できるようになります。
このような対応力の豊かさこそ、人間関係を円滑にするポイントでもあるのです。