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【最高の快眠術】ベストセラー精神科医が教える「朝の散歩」と寝る前の「幸せ3行日記」

交感神経と副交感神経の切り替えをいかに行うか

 就寝時間を早めたり、寝室を眠りやすい環境に整えたりするだけでは、睡眠の状態はよくなりません。私たちの体には、朝になると目が覚めて、昼間はアクティブに活動し、日没以降はしだいに活動性が低下し、夜は自然と眠くなるというリズムが備わっています。

睡眠改善で重要なのは、この睡眠と覚醒のリズムに従って1日を過ごすことです。私たちの体の機能をコントロールしている自律神経は、交感神経と副交感神経の2系統からなります。

 朝から日中は、交感神経の働きが高まり、体は活動・興奮・運動モードになります。夕方から夜にかけては、副交感神経の働きが高まり、体はリラックスモードに入ります。

 日中はたくさん動いてバリバリ活動し、夜はのんびりとリラックスして過ごして、交感神経から副交感神経へ切り替えていく。そうすると、スムーズに眠りに入ることができ、深い睡眠をとれるようになるので、1日の疲れをすべて回復できます。

 しっかり熟睡できれば、朝の目覚めも自然とよくなり、翌日もフルパワーで活動することができます。下図に、睡眠改善に効果的な1日の過ごし方をまとめました。

 最高の睡眠を得るための秘訣は、朝、目が覚めたあとの時間の過ごし方から始まっています。まず、起床後1時間以内に外に出て、太陽の光を浴びながら15分~30分程度歩く「朝散歩」をすること。日中は、バリバリ働いて体を動かし、活動的に過ごすこと。

 夜、特に寝る前の2時間は心身を興奮させるような活動を避け、入浴、家族との団らん、落ち着いた音楽を聴く、読書をする、ストレッチやマッサージを行うなど、リラックスしてのんびり過ごすこと。この三位一体で、睡眠改善は完成されるのです。

なぜ「朝の散歩」が最強の快眠法なのか

 睡眠にいい生活習慣の中でも最強の快眠術をひとつ挙げるならば、ズバリ「朝の散歩」です。

 実は、私は昔から朝に弱い、典型的な夜型人間でしたが、朝散歩を習慣にしてから睡眠の質が劇的に改善し、毎朝シャキッと目が覚めて午前中を最高の集中力で過ごせるようになりました。

睡眠障害やうつ病などで、薬物療法を半年、1年と続けても治らなかった患者さんが、朝散歩を始めたとたん、うそのようにスッキリと治っていくケースも数多く経験しています。

 朝散歩には、体内時計をリセットする意味があります。私たちの体には、1日周期でリズムを刻む体内時計が備わっていますが、人間の体内時計は1日24時間10分前後と、地球時間の1日よりも長く設定されています。そのため、体内時計をリセットしないと、眠る時間がどんどん後ろにずれていってしまいます。

 体内時計は、朝、太陽の光を浴びることでリセットされます。そして、人間の体は、体内時計のリセットから約15時間後に眠気を催すしくみになっています。

詳しくいうと、体内時計のリセットから約10時間後に睡眠ホルモンのメラトニンの生成が始まり、その約5時間後にメラトニンの濃度が高まり、眠気が出始めます。

 加えて、朝、太陽の光を浴びながら散歩をすると、セロトニンが活性化します。セロトニンは、私たちの心身の健康に不可欠な脳内物質で、覚醒(目覚め)と自律神経の働きをコントロールし、気分や感情を安定させます。また、「脳の指揮者」とも呼ばれ、ほかの脳内物質を調整、コントロールする働きもしています。

 朝散歩で爽やかな気分が感じられるなら、脳内でセロトニンが出ている証拠です。こうして、朝から昼過ぎに作られたセロトニンを原料に、日没後から睡眠ホルモンのメラトニンが作られ始めます。

 つまり、朝散歩でセロトニンを活性化させることは、朝の目覚めをよくして心身を活動モードに切り替えるだけでなく、夜、寝るべき時間に眠気を催し、ぐっすり熟睡するためにも重要なことなのです。

スマホのブルーライトは脳が「今は昼だ!」と誤解する

 反対に、睡眠の質を下げる最悪の習慣は、寝る前にブルーライトや強い光を見ることです。

 ブルーライトとは、スマホやパソコン、ゲーム機、テレビの液晶画面や蛍光灯などから発せられる青色の光で、波長が380~500ナノメートルの光のことです。

 なぜ、ブルーライトが睡眠によくないのかというと、青空、昼の波長の光だから。日没以降にブルーライトを浴びると、脳は「今は昼だ!」と誤解して覚醒状態になり、メラトニンの分泌を抑制します。その結果、眠気が失せて、夜間の睡眠の質を大幅に低下させてしまうのです。

 夜間にブルーライトを浴びる時間が長いほど、メラトニンは抑制されます。睡眠改善のためには、寝る2時間前は、スマホやテレビ、ゲームなどは見ないのが理想です。

 厳禁なのが、暗い中でスマホを見ること。せめて寝る30分前からはスマホの使用を極力減らし、寝室には持ち込まないようにしましょう。

 良質な睡眠を得るには、夜、寝る前2時間の過ごし方がたいせつになります。この時間帯には、脳を興奮・覚醒させるようなことは避け、リラックスして過ごすのが鉄則です。

 そのためには、まず、食事や飲酒、激しい運動、ゲームや映画、ドラマ、おもしろいマンガや小説など、興奮系の娯楽は、寝る前2時間はNGと考えてください。具体的に説明しましょう。

 寝る直前の食事は、成長ホルモンの分泌を妨げ、睡眠の質を低下させます。成長ホルモンは睡眠中に盛んに分泌され、疲労・破損した体組織を修復・再生する働きがありますが、食後の血糖値が高い状態では分泌が低下するのです。夕食は寝る3時間前までに終えるのがベストです。

 寝る前の飲酒も、睡眠に大きな悪影響を及ぼします。寝つきは多少よくなりますが、睡眠の質を著しく悪化させ、中途覚醒や早朝覚醒を招きます。最後にお酒を飲んだあと、2時間以上あけてから寝てください。

 激しい運動や興奮系の娯楽は、興奮物質アドレナリンの分泌を促します。アドレナリンが分泌されると、交感神経が優位となり、脳や体が興奮状態になり、寝つけなくなります。夜、寝る前の時間の過ごし方としては、ふさわしくありません。

 強力な覚醒作用があるカフェインが含まれているコーヒーや紅茶、ウーロン茶、コーラ、エナジードリンクなどの飲み物も、夜間はNG。カフェインは代謝に時間がかかり体内に長く留まるので、コーヒーは午後2時までにするのが無難です。

最も効果的なのは寝る90分前に湯船を出る入浴

 一方、寝る前2時間のリラックスタイムの過ごし方として、まずお勧めなのが、入浴です。夏場も、シャワーではなく、湯船にゆったり浸かるのが、安眠には効果的です。

 人間の体は、眠りに入るとき、深部体温(体の内部の温度)が下がり、入眠前後の体温の落差が大きいほど眠りにつきやすくなります。入浴で体を温めておくと、気化熱で体温を下げるので、90分後に深部体温の下がりが大きくなり、スムーズに眠れます。就寝時間の90分前に湯船を出る「90分前入浴」を意識しましょう。

 家族と会話したり、子どもやペットと遊んだりするのも、いい過ごし方です。会話やスキンシップによって分泌されるオキシトシンというホルモンには、リラックス効果があり、副交感神経を優位にし、自然と寝る前のモードに入れます。

 ゆったりとした音楽やアロマの香り、マッサージやストレッチ、ヨガ、瞑想などもリラックス効果が高く、お勧めです。

 33ページでも説明した通り、スマホやパソコン、蛍光灯などから出る青白い光のブルーライトは、脳を覚醒させ、睡眠を阻害しますが、夕日の波長に近い赤系の光は、メラトニンの分泌を促進し、睡眠の準備が整います。夜間はやや暗めの電球色の照明の下で過ごしたり、キャンドルを灯したりするとよいでしょう。

 視覚を使う活動の中でも、読書はリラックス効果が高く、睡眠にプラスに働くことが科学的にも認められています。ただし、続きが気になる小説やマンガは途中でやめられなくので、寝る前はやめておきましょう。やや骨太で難しめの本が、眠気を誘います。

寝る前15分は何を考えるかが大事

 夜、寝る前の時間の過ごし方として、ぜひお勧めしたい習慣が、「幸せ3行日記」です。ルールは簡単。寝る15分前に、今日あった「楽しい出来事」を3つ書き出すのです。

長々と書く必要はなく、各1行ずつ、3行でOK。ささいな出来事でもいいので、自分がハッピー、ラッキーと感じた出来事を必ず3つ書くこと。出なければ何かひねり出します。

 幸せ3行日記を書いたら、その中の「いちばん楽しかった出来事」を思い出しながら、ハッピーな気分で布団に入り、そのポジティブなイメージのまま、眠りにつきます。

 たったこれだけですが、安眠効果は抜群。実践した人たちからは「不安な気持ちにならずに眠れた」「睡眠に入るまでの時間が短くなり、睡眠の質も上がった気がする」「朝スッキリ目が覚めるようになった」などの感想が寄せられています。

 多くの人は、寝る前に「今日あった嫌な出来事」や「不安なこと」をつい思い出し、不安や怒り、悲しみ、悔しさなど、ネガティブな気分のまま眠りについています。不安や怒りでアドレナリンやノルアドレナリンという脳内物質が分泌され、脳が興奮・覚醒して眠りにくくなります。

 反対に、ハッピーなことを考えると、心身がリラックスし、眠りにつきやすくなります。人間は、同時に2つのことを考えることはできません。「嫌なことを思い出すな」といっても思い出してしまうので、それとは反対の「楽しい出来事」を思い出すことで、嫌な出来事や気分を頭から追い出すことができるのです。

 寝る前15分は「記憶のゴールデンタイム」と呼ばれ、考えたことは脳に記憶されやすいのです。寝る前に幸せ3行日記をつけると、今日が楽しく幸せな1日として記憶に刻まれます。これを続けると、ハッピーな出来事を見つける「幸せ収集能力」も上がり、明るくポジティブな気分で毎日を過ごせるようになります。

1週間だけでもいい!今より1時間長く眠ろう

 読者の皆さんに実行していただきたいのは、まず、今よりも1時間早く布団に入り、睡眠時間を1時間増やすことです。1週間だけでもかまいません。今より1時間長く眠ると、どんな変化が現れるか、自分で確かめてみてほしいのです。

 睡眠時間を1時間増やすと体調がものすごくよくなることは間違いありません。疲れやだるさ、日中の眠気が消え、気分もはつらつとしてイライラや不安を感じることも減ります。脳の機能も著しく改善し、仕事のパフォーマンスは確実に上がります。ミスが減り効率よく仕事をこなせるようになるので、そこでも睡眠時間を捻出できるようになります。

 あなたはきっと、「しっかり眠ると、こんなに調子がいいんだ!」と驚くはずです。「最高の睡眠」は、最高の人生をもたらすといって過言ではありません。よく眠れたときの心地よさを糧に、睡眠改善に取り組んでいただきたいと思います。