「後屈の人」が教える正しい体の使い方
「頭が重たい」「首が痛い」「腰がだるい」……そんな感覚がいつの間にかあたりまえとなっていませんか?
現代人の体は、「使いすぎている部位」と「使わなすぎている部位」の差がひどすぎて、どんどん動かしづらい体になっています。それが痛みや不調となって現れてくるのですが、この差を解消するのが「体をそらす」動きです。
苦手な人が多い動作ですが、正しく行うと、気分がスッキリして、視界も頭もクリアになります。そんなステキな動きを、ぜひ習得してください。
こり固まった体をほぐして後ろにそらせば全身がリセットされ不調も痛みも解消!
疲れた頭がスッキリして体が軽くなり、頭痛や肩こり、腰痛、むくみ、冷え、不眠などの症状がどんどんよくなっていく……。そんなポーズがあるとしたら、やってみたいと思いませんか?
それが今回ご紹介する「後屈」です。ラジオ体操の中にもある、体を後ろにそらす、あの動きです。私は整体師、作業療法士、スポーツトレーナーとして活動するかたわら、後屈のすばらしさと正しいやり方を伝える活動をしています。おかげで、今では「後屈の人」と呼ばれるようになりました。
後屈が苦手な人は多く、大半の人が、「体が固いから無理」「やると首や腰を痛めそう」と躊躇されます。私も以前はそう思っていたので、気持ちはよくわかります。
かつては私自身、後屈すると、頭がクラクラしたり、腰に負担を感じたりで、無理してやれば体を傷めると思っていました。しかし6年前、ヨガの師匠が後屈でさまざまな症状を改善させていく様子を目の当たりにして、考えが変わりました。
後に説明しますが、現代人の不調は、アンバランスな体の使い方によって生じているものが多くあります。そのアンバランスを即座に解消する、理にかなった動きが後屈なのです。
近年、開脚や前屈は注目されていますが、後屈についての情報を見かけることはありません。それなら、私が正しいやり方を極めて、広めなければ、と考えています。
現代人は背骨の使い方に偏りが生じている
では、「アンバランスな体の使い方」とは、どんなものでしょうか。そもそも私たちの体は、中心にある背骨をしっかり使うことで、楽に動けるようにできています。
しかし、現代人は座って過ごす時間が長くなりました。さらに、スマホやパソコンの普及で、ほぼ1日中、背骨を前方に曲げた姿勢で過ごす人も珍しくありません。
その結果、背骨の使い方に偏りが生じています。例えば、座っているとき、股関節は90度に曲がった状態となります。実は、これは股関節の動きを制限するポジションで、それが長く続くことで、股関節は固まり、動きにくくなるのです。
股関節が柔軟に動かなくなると、私たちの体は、その代償として腰椎(背骨の腰の部分)を過度に動かすようになります。その結果、腰に過剰な負担がかかり、腰痛のリスクが高まります。
同様に、前かがみの姿勢が続くと、胸が固まり、胸椎(背骨の胸の部分)と肋骨の動きが悪くなります。すると、うつむいたり振り向いたりするときに、首の上部を過剰に動かすことになり、これが首や肩のこりを招きます。
背骨の中で、動かないところと、動きすぎているところがあることは、不調の要因にもなります。
なぜなら、背骨の中には、内臓の働きや代謝などをコントロールしている自律神経が通っているからです。背骨の使い方のアンバランスは、自律神経の働きにも影響を与え、倦怠感や不眠など、様々な症状として現れるのです。
まずは固まっている体をほぐす3つのワークを行う
このアンバランスを効率よくリセットできるポーズが後屈です。
体をそらすことで、縮こまっていた筋肉や関節が引き伸ばされ、ほぐれます。すると姿勢が整い、肩こりや腰痛などが改善します。また、背骨に刺激が入るので、自律神経の働きがよくなります。背骨のそばを通っている大動脈やリンパ管の循環もよくなります。
ただし、これらは正しいやり方で後屈することで得られる効果です。前述したように、現代人は股関節、胸、肋骨が動きにくく、その代償として首や腰を過剰に動かすクセがついています。その状態で後屈するから、息が詰まったり、首や腰が痛くなったりするのです。
逆にいうと、後屈が苦手なのは、背骨の使い方に偏りがある証拠。そこで、私はまず後屈の準備体操として、固まっているところをほぐす3つのワークに取り組むことをお勧めしています。
早速、見ていきましょう。
ワーク①股関節を動かす(下図参照)
股関節前側をストレッチする体操です。ここが固い人ほど引き伸ばされるときに痛みを感じますが、終了後は足が軽くなっています。
股関節ほぐしを行うと、地面を踏んだときに跳ね返る感覚が得られるようになります。この力を「反力」といい、よい姿勢を保つ筋肉がしっかり働き始めます。
1 壁際に右ひざをつき、すねを壁に押しつける。
左足はかかとの上にひざがくる位置に置く。このとき、ひざが痛い場合は、タオルを下に敷くとよい
2 上体を起こし、あごをしっかり引く
・このとき、骨盤が前傾しがちなので、まっすぐ(壁と並行)にする
・背中がそらないよう注意
3 ②の姿勢のままでもよいが、余裕があれば股関節を床に下ろし、姿勢を1分キープする
・開脚した足が一直線になるのを目指す
※行う前後で、その場でジャンプをしてみる。ワーク後に、床反力が高まっているのを感じられたら、正しくできている証拠
ワーク②胸から首を動かす
後屈が苦手な人は、胸椎を伸ばす前に、首を後ろにそらすので息が苦しくなります。実は、これは伸ばす順序を間違えています。
まず胸を十分に開き、それから首を下から動かすのが正しい順序。そこで、あおむけの安全な状態で、正しい順序を体得します。
終了後に床に寝転ぶと、背中全体がベターッと床につき、肩や首の痛みが和らぐのがわかるでしょう。
●用意するもの
硬めに丸めたバスタオル(輪ゴムで留める)
1 硬めに丸めたバスタオルを床に置く。上体を後ろに倒したとき、肩甲骨の下ライン(肩甲骨下角)に当たる位置にする
2 足を伸ばした状態からゆっくり、体を後ろに倒していく。このとき、あごは引いたままをキープ
3 肩甲骨をゆっくりバスタオルの上にのせる。このときもあごは引いたままをキープ
4 首のつけ根が床についてから初めてあごを開放する。
5 次は、頭のほうから順に①の姿勢に戻る
この状態で1~2分しばらく自然呼吸する
6 バスタオルを取り除いて、あおむけに寝てみる。背中全体がベターッとついて肩回りがリラックスできているのを感じられたら、正しくできている証拠
肩甲骨にバスタオルが触れたとたん、あごが伸びてしまう。これだと胸が開かず、首が詰まる
その結果、頭を下ろすと後頭部(首の付け根)に圧迫感が生じ、息が苦しく、頭が重く感じる
ワーク❸開いた肋骨を締める
肋骨は動きが悪くなると、横に開いた状態になります。「背中を見ると年齢がわかる」と言われますが、これは加齢の影響で、肋骨が動かなくなり、背中が大きく広がった状態になっているのです。 そこで、肋骨を引き締める働きをする前鋸筋(ぜんきょきん)という筋肉を刺激します。肋骨がしっかり締まると、見た目が若返るだけでなく、呼吸に関わる横おう隔かく膜まくの動きがよくなり、深い呼吸ができるようになります。
1 足の裏を壁につけて、足の指先を曲げ、足の裏を床に対して90度にする
2 腕立て伏せの姿勢をとる(手は肩の真下)
3 肩甲骨の間をグーっと上に突き上げる。お尻は下げる。この姿勢を30秒キープする