体が硬いと血管も硬くなっている
私は、日本人の健康の維持・増進を研究のテーマにしており、血管の重要性に着目してきました。そして、「血管伸ばしストレッチ」を行うと、血管が若返ることがわかったのです。
どんな人も、年齢とともに血管が硬くなります。若い人の血管は、柔軟性があってしなやかですが、老いた血管は、硬く柔軟性がありません。若い人の血管はゴムホース、50代以降の血管はコンクリートの水道管のイメージです。
血管が硬くなるこの現象は、動脈硬化と呼ばれています。
特に、糖尿病、高血圧や高脂血症などの生活習慣病は血管の老化を進めてしまい、血管が詰まりやすくなって心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす恐れもあります。
動脈硬化は加齢とともに進む
女性も閉経後、急速に動脈硬化が進み、60歳を過ぎたら男女ともに黄信号がともる
一方、私が参画した研究から、体が硬いことも血管の老化を進めてしまうことがわかりました。
体が硬い人は、筋肉や腱、関節といった部分の柔軟性に欠けますが、血管も硬くなっています。体が硬いと、ケガをしやすくなる、姿勢が悪くなる、肩こりや腰痛、ひざ痛などが起こるといった現象だけでなく血管にまで影響を及ぼし、健康を損ねる原因になるのです。
実験してみたら血管年齢が若返った
そこで私は、「体が硬くなると、血管も硬くなってしまう。であれば、体が柔らかくなれば、血管も柔らかくなるのではないか?」と仮説を立て、実験を行いました。
60歳前後の女性に、1日2回、本記事で紹介する5種目のストレッチを、週4日、4週間続けてもらったのです。
すると、ストレッチをした人は、していない人に比べて血管が柔らかくなり、血管年齢が低下することが実証されました。
ストレッチで血管が若返った!
平均年齢65歳の女性14名のうち7名はストレッチを行い、7名はストレッチをせずに、血管の硬さの変化を比較する実験をした。ストレッチを行ったグループは、下項に紹介している5つのストレッチを、左右の脚各30秒ずつを2セット、1日2回(朝と夕)、週4日、4週間行った。その結果、ストレッチをしたグループだけ、血管の弾力性が増した
このストレッチの効果は、NHKなどのテレビ番組でも紹介され、大きな反響をいただきました。
さらに、ストレッチをした後に、血管の硬さを低下させる効果が、どのくらい持続できるかを調べてみました。
すると、ストレッチをした直後から30分後までは、血管が柔らかくなっていきますが、その後は元に戻る傾向があることがわかりました。
とはいえ、ストレッチを毎日すると、体が柔らかくなるように、血管もストレッチによって柔らかくなり、伸びやすくなります。
そのため、ストレッチは毎日続けることが大切で、続けるうちに、ストレッチをする前の血管の硬さがどんどん柔軟性を取り戻していくことが期待できるのです。
ストレッチの効果は30分後がピーク
下項に紹介している5つのストレッチを行う前後で、血管の硬さの変化を調べてみると、行った30分後に最も血管の柔軟性が増した。その後は元の数値近くに戻るが、毎日続けることで、血管年齢が若返ることが期待できる後がピーク
冷え症、むくみ、ストレスの解消にも
血管が柔らかくなることで、不調が改善したという声もたくさんいただいています。
血管が柔らかくなると、体の末端まで血液が届きやすくなり、冷え症の改善にもつながります。むくみも、血液の循環の悪さが関係しているので、ストレッチをすることで楽になるでしょう。
ストレッチにより、血流が増加し、エネルギー代謝も亢進するだけでなく、肌ツヤもよくなる可能性もあります。
また、自律神経のうち、交感神経が優位になっている人は、ストレッチすることで鎮静化でき、副交感神経が優位になるので、ストレスの解消にも役立ちます。
特に女性は、閉経後、血管を柔らかくする働きがある女性ホルモンのエストロゲン分泌が減少するため、60歳を超えると動脈硬化が急激に進みます。次項から紹介するストレッチを、ぜひお試しください。
下半身の筋肉と血管がターゲット
今回紹介する「血管伸ばしストレッチ」は、血管を柔らかくする効果が確認された実験で、被験者が実際に行った5つのストレッチです。
このストレッチの特徴は、下半身を伸ばして、全身に血流を行き渡らせることです。
下半身は重力によって血液がたまりやすく、また、全身の筋肉の7割は下半身に集まっています。そのため、下半身に働きかけることが、全身への血流を促進します。
血管伸ばしストレッチは、主に前ももとふくらはぎにアプローチしているのも特徴です。
前ももには大腿四頭筋という大きな筋肉があり、足のつけ根からひざの上には大腿動脈という太い血管が走っています。ふくらはぎも大きい筋肉で、筋肉のポンプ作用によって血流を心臓に押し上げるのが得意な部位で、後脛骨動脈という太い血管が走っています。
これらの大きい筋肉と太い血管を同時に伸ばすことで、効率的に血流が増加し、血管の柔軟性が高まるのです。
血管伸ばしストレッチは、ウォーキングやジョギングに比べると、ひざや腰への負担は軽く、自宅でどなたでも行っていただけます。
テレビを見ながらや、オンライン会議中にこっそりなど、〝ながらストレッチ〟でもいいので、継続して行うことが大切です。
5つの部位別「血管伸ばしストレッチ」
①前もも伸ばし
①両脚を伸ばして座り、手を後ろにつき、体を支える
②かかとがお尻にくっつくように、片方のひざを曲げる。脚のつけ根から前もも、すね、足の甲が伸びるように、上半身を後ろにそらす
③そのまま15〜30秒キープ
④脚を楽にして10〜20秒休んだら、反対の脚も行う
これはNG!
両ももが離れ、お尻が浮き、脚が開いている
②ふくらはぎ伸ばし
①正座をして、片脚だけひざを立て、反対の脚は外側に開くところまで大きくスライドさせる
②立てたひざを両手で包み、背筋を伸ばしたまま上半身を前に倒し、ひざに体重を乗せる
③そのまま15~30秒キープ
④脚を楽にして20秒休んだら、反対の脚も行う
きつければイスを使って
①イスに浅く座って、片脚だけ手前に引く
②背筋は伸ばしたまま、両手をひざに当て、押し込む。かかとが浮かないように注意
③④は上と同様に
③そけい部伸ばし
①正座をして、体を前に倒し両手を前方につく
②上半身は起こしたまま、ひじは曲げず、片脚だけ後ろに伸ばせるだけ伸ばす
③脚のつけ根のそけい部と前ももが伸びるのを感じながら15〜30秒キープ
④脚を楽にして10〜20秒休んだら、反対の脚も行う
きつければイスを使って
①背もたれのあるイスに片脚だけ乗せて横座りになる
②背筋は伸ばしたまま、イスに乗っていないほうの脚をできるだけ後ろへ引き、太もものつけ根を伸ばす
③④は右下と同様に
④ひざ裏伸ばし
①まっすぐ立ち、片脚を1歩前に出す
②背筋を伸ばしたまま前傾し、両手を重ねて前に出した脚のひざを押さえ、ひじは曲げないで体重をかける
③ひざ裏が伸びるのを感じながら15〜30秒キープ
④脚を楽にして10〜20秒休んだら、反対の脚も行う
きつければイスを使って
①イスに浅く座って、片脚だけまっすぐ前に伸ばす
②③④は右と同様に
⑤お尻伸ばし
①あお向けになり、両手を組んですねに添える
②ひざを抱えるようにして胸に引きつける。頭を上げないよう、反対の脚のひざが曲がらないように注意
③お尻が伸びるのを感じながら15〜30秒キープ
④脚を楽にして10〜20秒休んだら、反対の脚も行う
これはNG!
頭が浮いてしまったり、反対側の脚のひざが曲がってしまったりすると効果は半減