落ち込んだときにゆっくりとつぶやく言葉
精神科医やカウンセラーの役割は、つらい気持ちを抱えている患者さんの話に耳を傾かせて、その張りつめた気持ちが緩んだり、方向性を見つけたりするお手伝いをすることですよね。
ですから、「どうすればいいでしょう?」と患者さんから問われたことについては、誠心誠意答えますが、求められてもいないのに「こうしたほうがいい」と差し出がましいことは言いません。
なぜならこちらが助言することで、かえって患者さんに心の負担や課題を増やしてしまうことがあるからです。
今回は、僕自身が気持ちが落ち込んだときに実践している方法や、気持ちを楽にするために、患者さんにお勧めしている方法をお伝えします。
「最近、気持ちがちょっとしんどい」と感じている人は、心が楽になるヒントが見つかるかもしれません。
落ち込んだとき、僕が実行しているのは、「これもまた過ぎ去る」とつぶやくこと。
この言葉をまるで呪文かお経のように、ゆっくり厳かに繰り返しつぶやくだけで、かなり心が落ち着きます。
さらに相乗効果を期待できるのは、体を動かすこと。
わざわざ運動をしなくても、風呂に入るだけでもいいし、外を散歩するのもいい。ちょっとした悩みや心配事であれば、これだけで吹き飛んでしまうでしょう。
歩くと気持ちが軽くなり、よく眠れるように
心の健康を保つうえで、「歩くこと」は、とても重要です。
僕は常々「いちばん簡単で効果的な精神療法は、歩くことです」と主張しています。歩いていない人は頭が煮詰まって、精神的にしんどくなりやすい。
ふだんから歩く習慣をつけておくと、気持ちの切り替えが上手になり、精神的にショックなことがあっても強くいられます。
長時間のデスクワークに疲れ、気分転換に散歩に出て頭がスッキリしたり、偶然いいアイデアを思いついたりした経験のある人は多いと思います。
歩いているうちに気持ちが軽くなり、自分の思考や感情を整理する余裕も生まれてきます。その効果は歩けば必ずわかってくるので、毎日、少しでも歩く習慣を持つことをお勧めします。
外に出て、毎日できれば10分以上歩くことを習慣にしましょう。まずは、買い物などで外に出るついでに、今よりもあと500mだけ長く歩くことから始めてください。
特に効果的なのは、朝の散歩です。
というのも、朝日を浴びたり、運動したりしてから14時間後に、私たちの体内ではメラトニンというホルモンが分泌されるからです。メラトニンは「睡眠ホルモン」とも呼ばれ、体に働きかけて自然な深い眠りを誘導してくれるのです。
良質の睡眠中の初めの2時間で、体の修復を促すホルモン、つまり若返りのホルモンも分泌されます。
朝に散歩などの運動をすると、夜のちょうどよい時間にメラトニンが分泌されるので、ぐっすり眠れて体も修復され、心身ともにリフレッシュできるでしょう。
ゆっくりした呼吸でイライラしなくなる!
もう一つお勧めしたいのが、「自律神経を整える呼吸法」です。
やり方は、背すじを伸ばして座り、鼻から4秒間息を吸ったあと、4秒間止めて、8秒間かけて鼻から息を吐きます。これを3回~5回くらい繰り返します(下図参照)。
この呼吸法のポイントは、ゆっくり呼吸をすることと、息を止める時間を持つこと。息を吸い切ったところで、4秒間以上息を止めます。
このとき、吸った息をおなかの底深くに落とすイメージで息を止めると、より効果的です。
これにより、横隔膜が大きく動き、副交感神経の働きが高まってリラックスした状態になるのです。
イライラしたときにこの呼吸法を行うと気持ちがスーッと落ち着き、視界が明るく晴れやかになります。寝る前に行うと、リラックスしてよく眠れるようになります。いつでも一日に何回でも、気づいたときに行うとよいでしょう。
今回ご紹介したどの方法も、自分で実際にやってみると、その場で効果が実感できると思います。
今年はコロナ過においては、今まで経験のないことが多くありました。そういう予期しないことが起きたときには、「今日一日を楽しく、出会う人と幸せに過ごすことにしよう」と決心して一日一日を過ごすことがとてもたいせつです。
今回紹介した中で、自分が気に入った方法を、ぜひ生活に取り入れ、一日を無理なく穏やかに過ごしてください。