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【気象病・天気病】気圧の影響からくる不調を改善する「耳伸ばし回し」のやり方

気圧の変化が頭痛や倦怠感を起こす

「悪天候が近づくと頭が痛くなる」
「雨の日は古傷が痛む」
「これから天気が崩れることが体調の変化でわかる」

これらに心当たりのある人は多いのではないでしょうか。こうした天気の崩れなどの気象の変化に体がついていけず、不調になる病気を俗に「気象病」「天気病」といいます。

私のクリニックでは、全国でもとてもまれな「気象病・天気病外来」を開設し、これまでに5000人以上の気象病患者を診てきました。

気象病の症状で、最も多いのが頭痛です。その次に多いのが倦怠感、そのほか、首・肩こり、めまい、低血圧、朝に起きることができないなど、症状は人によって違い、多岐にわたります。

気象病は、天候が変わる直前に発症しやすいです。これには「気圧」が大きく関係しています。

人間の体は、大気圧に負けないように、体内からも同じ圧力で押し返すことでバランスを保っています。大気圧とは、地球の表面を覆っている空気の圧力のことです。

実は大気圧は、1㎡あたり10tもの圧力がかかっています(外圧)。そして、体内からもこれと同じ圧力で押し返しているのです(内圧)。

しかし、雨が降る前など、天気が崩れる前には外圧が低くなります。すると、相対的に体の内圧が高くなり、バランスが崩れてしまうため、体内にも不調が起こりやすくなるのです。

例えば、空のペットボトルを地上から飛行機の機内に持ち込み、上空に上がっていくと、ペットボトルがパンパンに膨らみます。これは上空に行くほど気圧が下がるので、ペットボトルの中の気圧が上がって中から外に押す力が増すためです。

気圧が変化すると、人間の体でもこれと同じことが起こります。天気が崩れる前に気圧が下がるので、圧のバランスが崩れ、体調にも悪影響を及ぼすわけです。

天気が悪くなる前にこのような症状が起きる人は気象病かも

天気で不調になるのは「気にしすぎ」ではない

気象病の症状で軽視されがちなのが、「低血圧」です。実は、気圧と血圧には強い関係性があります。

気圧が下がると血管が拡張するため、血圧が下がりやすくなります。すると、もともと低血圧の人はさらに血圧が低くなり、朝、目覚めても体が動かないとか、起き上がっても頭がボーッとしているという状態になってしまうのです。天気が悪い日の朝はやる気が起きないとか、エンジンのかかりが遅いとかいうのは、このためです。

気象病の困ったところは、本人にとってはつらいのに、検査には出にくく、医師も含めて、なかなか周囲に理解してもらえないことです。私のクリニックを訪れる患者さんの中にも、別の病院の診察で「気にしすぎ」「そのうち治るから」と、精神的なものと受けとられた経験があるかたがたくさんいらっしゃいます。

しかし、気象病は、心の問題などではなく、気象変化という原因のある不調です。気圧の影響を受けにくい人は、気象の変化があっても体調不良を起こしません。ところが、頭痛や低血圧など、もともとなんらかの不調がある人は、気象変化に対する耐性が弱い体になっているため、気圧の影響を受けやすいのです。

「気象病チェックリスト」を用意しました。該当する項目が多いほど、気象病になるリスクが高まります。気象病は、「我慢すればそのうち自然と治る」病気ではありません。きちんと治療することで、改善が見込める病気なのです。

むくみをとる漢方も非常に有効

気象病は、自律神経(※)と深く関わりがあります。気圧が下がったときは、体と大気圧のバランスを保つために自律神経が働きます。このとき自律神経がうまく機能しないと、気象の変化に対応しきれず、不調が出やすくなります。

※体の状態を自動的に整えてくれる器官。交感神経と副交感神経がある

そのため、私のクリニックでは、自律神経のコンディションを整えることを重要視した治療を行っています。骨格のゆがみを正すこともその一つです。ストレートネックや反り腰、側弯症など、骨格にゆがみがあると、頭痛やめまい、首こり、肩こりといった不調が起きやすくなります。これらはパーソナルトレーナーと協力して治療を進めています。

また、漢方薬を用いた治療も有効です。特に、気圧差で起こる不調に関しては「五苓散」という漢方薬が非常に効果的です。五苓散は、体内の水分バランスを改善する代表的な利水剤です。体のむくみをとり、気象病の症状をやわらげる働きがあります。

気象病の予防・改善には、セルフケアによって多方面から補うことも重要です。その人の体質や症状によって有効な対策が違ってきますが、その中でも特に幅広く効果が期待できるのが「耳伸ばし回し」です。

耳伸ばし回しで朝もスッキリ

実は、私たちの体の中で、最も気圧の影響を強く受けやすいのは「耳」です。例えば、エレベーターが低いところから高いところへ一気に上ると耳が「キーン」となりませんか? 飛行機で上空に上がったとき、耳閉感が出ませんか? このように気圧の変化によって最初に不調を感じる場所は耳なのです。

その理由は、耳の構造にあります。耳は、外耳、中耳、内耳の3つの部分に分かれています。気圧に反応しやすいのは、耳の鼓膜の内側にある中耳と内耳です。

飛行機のペットボトルでも説明したように、外圧が下がると、内圧が強くなるので、鼓膜の内側にある内耳が気圧の影響を受けて膨らみます。すると、外圧が下がっていることが信号で脳に送られ、自律神経が体と外圧のバランスを保とうとします。つまり、自律神経をうまく機能させるためには、内耳の循環をよくしておくことが大切なのです。

とはいえ、内耳に直接触れることはできません。そこで、耳を引っ張ったり、伸ばしたり、回したりすることで、血流を促し、内耳の循環をよくすることが有効なのです。

また、耳には、自律神経の末端がたくさん集まっています。なので、耳をマッサージすることは、自律神経の働きをよくすることにもつながります。

いつでもできるうえに効果も高い

低血圧で朝起きられない人は、起き上がる前に布団の中で耳伸ばし回しをすると、自律神経に刺激を与え、副交感神経から交感神経へのスイッチが切り替わりやすくなり、体が目覚めやすくなります。ストレッチなど軽い運動も行えば、朝の活動もスムーズになるでしょう。

さらに、耳伸ばし回しを行うと、頸椎や顎関節、頭皮など、顔まわりの関節・筋肉がまんべんなく緩みます。筋肉の緊張がほぐれ、血行がよくなるので、頭痛や首こり、肩こり、めまいへの即効性も期待できます。

気象病は、寒暖差でも症状が出ることがあります。体温調節を担っているのも自律神経だからです。室内と外気の温度差が5〜7℃以上あったり、寒暖の差が激しかったりする季節には、大きな気温差によって自律神経がうまく機能できなくなる人もいます。そのため、頭痛などの症状が出てしまいます。

このような気温差による自律神経の乱れにも、耳伸ばし回しは有効と考えられます。

耳伸ばし回しの詳しいやり方は、上の写真の通りです。耳伸ばし回しは、全部を通して行っても3分もかかりませんが、時間がないときは短縮して行ってもかまいません。道具も必要なく、いつでもどこでもできるので、わざわざ時間を取らなくても、通勤電車の中や会社のデスク、ちょっとした空き時間でもすぐにできます。

手軽ですが、幅広い症状の予防・改善に有効なので、「あ、天気が悪くなるかも」と感じたときは、ぜひ耳伸ばし回しをやってみてください。

耳伸ばし回しのやり方

①耳たぶの少し上を持って、横に広げるように水平に伸ばして10秒キープして離す
②左耳は耳の上のほう、右耳は耳たぶを持ち、左耳は斜め上に、右耳は斜め下に引っ張って10秒キープ
③同様に、左耳は斜め下に、右耳は斜め上に引っ張って10秒キープ
④耳たぶのやや下の方を持って、前後に5回ずつ回す
※回数、時間は目安。いつ、何回行ってもOK
この記事は『ゆほびか』2022年12月号に掲載されています。