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【かくれ難聴とは】マスクやアクリル板で気になる人急増!聞こえを改善する「耳うら・側頭筋ほぐし」

Image:Getty Images

コロナ禍で中年以降の「かくれ難聴」が顕在化

コロナ禍が続く中、日常生活ではマスク着用が一般化し、飲食店などではビニールカーテンやアクリル板が設置されています。

マスクやアクリル板を介したコミュニケーションでは、相手の口の動きや表情が読み取れなかったり、音がこもったりします。そのため、「何を言っているのかわかりづらくなった」「音が聞こえにくくなった」という人が急増しています。

しかしこれは、単にマスクやアクリル板のせいで聞き取りにくくなったというわけではなく、コロナ禍によって、それまで自覚していなかった「かくれ難聴」が顕在化した現象かもしれないのです。

聴力は、20代の頃を境に少しずつ低下していきます。40代、50代になると「聞こえ」が悪い人が増えてきて、60代に入ると高い周波数の音(高音)の聞き取りの困難さを自覚するようになります。なんと、65歳以上の4人に1人、75歳以上の2人に1人は、補聴器の必要なレベルにまで聞こえにくさが進行しているというのですから大変です。

健康診断の聴力検査は1000Hzと4000Hzの音が30㏈で聞こえるかを無音室で調べるもので、「かくれ難聴」は見つけられない
SpoorA(1967, Int Audiol 6:p48~57)より改変

「健康診断の聴力検査で『異常なし』と診断されたから、聴力は問題ない」と思っている人も多いかもしれませんが、そうとも言えないのです。一般的な健康診断の聴力検査では、聞こえのトラブル、いわゆる「かくれ難聴」を見つけることができないからです。

検査室のような静かな部屋では異常なしの診断なのに、ひとたび周りで音楽が流れたり、電車騒音のようなノイズがあったりすると、途端に聞き取りが難しくなるのが、かくれ難聴の特徴です。

かくれ難聴は、医学用語では、蝸牛シナプス障害型感音難聴と呼ばれ、騒音に長時間さらされることで生理的なノイズキャンセリング機能が失われていく状態です。

目の症状に比べて、耳の不調は自覚しづらく、多少聞こえが悪くなった程度では気にもとめない人がほとんど。

たとえ耳の不調に気づいたとしても、「大したことはない」とほったらかしにしたり、「もう年だからしかたがない」「もっと困るようになったら考えよう」などと先送りする人ばかりのように思います。

しかし、聞こえの悪化は、痛みもなく徐々に進行するので、いよいよ「困った」となったときには手遅れなことがほとんどです。

そして、耳の不調が怖いのは、耳だけの問題で終わらないことです。聴きづらさを放置すると、睡眠の質が悪くなったり、人づきあいがめんどうになったり、ひいては、抑うつ気分や認知機能にまで影響が及んだりするからです。

そこまでいかなくても、耳の不調をそのままにしていると、表情筋にも影響がおよび、シワやたるみなどの原因となることもあります。

耳の奥にある耳小骨筋は、音の大きさやリズムに合わせて運動する小さな筋肉ですが、この耳小骨筋は表情筋と連動して動く筋肉です。会話や音楽を楽しむことができないと、耳小骨筋ばかりか表情筋まで硬くなり、表情の豊かさが失われたり、ほうれい線が目立ってきたりと、いいことはありません。

耳の不調を抱え込まないことは、とてもたいせつなことなのです。

難聴の人は側頭部に脳のゴミがたまっている

最近の研究から、聞こえの悪さを放置していると、認知症のリスクも高まることがわかってきました。

2020年、国際アルツハイマー病会議(AAIC)は、認知症を招く修正可能な12個の危険因子を発表しました。その中で、最もリスクが高い危険因子とされているのが「中年期の難聴」です。AAICは「40歳からの20年間で難聴対策を何もしないことが、認知症の最大のリスクになる」と発表しています。

認知症の人の脳を調べると、脳の障害部位にはアミロイドβやタウ蛋白という「脳の老廃物」がたまっています。難聴によって「聴く」という脳活動がおろそかになることでも、同じように脳の老廃物がたまっていくことがわかっています。

難聴は、会話の質を低下させ、人づきあいをおっくうにしがちです。放置すれば、友人や家族と疎遠になり、抑うつ状態、そして認知機能の低下へ進行するのかもしれません。

血流が悪くなると耳の動きが悪くなる

耳の不調は、音との関わり方や、全身の血のめぐりぐあいなど、生活習慣の問題が深く関わっています。「最近、聞こえが悪くなった」と感じた人は、まず、生活騒音が多すぎないか、イヤホンによる大音量で音楽を聴いていないかなど、音と上手につきあえているかどうかを見直しましょう。
そして、運動不足、水をこまめに飲まない、喫煙といった悪い習慣も見直しましょう。
これらが原因で、耳鳴りや耳つまり感が生じているかもしれないからです。
冷え、高血圧、高脂血症、動脈硬化も、耳の健康の大敵です。耳に必要な酸素や栄養素が届かないと、耳の働きはあっという間に悪くなってしまいます。

ここでは、耳の血流改善のために、自分で簡単に取り組める2つのマッサージ、「耳うらほぐし」と「側頭筋ほぐし」を紹介しましょう。

耳の血流を一気に増やす「耳うらほぐし」

「耳うらほぐし」は、耳の裏にある血流アップポイントを、指でやさしくマッサージします。

この血流アップポイントは、鎖骨から耳の裏に伸びる胸鎖乳突筋という筋肉の付け根にあたります。この筋肉をほぐすことで自律神経(※)の働きが改善され、首から顔面、耳までも、その血流が一気に改善します。

※自律神経とは、無意識のうちに体の機能を調節している神経で、興奮状態を示す交感神経と、リラックス状態を現す副交感神経から成る。

胸鎖乳突筋は、内耳の機能を活発化させて、音に対する検知力を高めたり、めまいに対する耐性を高めてくれたりするたいせつな筋肉です。耳うらほぐしで胸鎖乳突筋のこりをとり、耳の働きに若々しさを取り戻しましょう。

耳の血流を一気に増やす「耳うらほぐし」のやり方

①胸鎖乳突筋は、横を向いたとき、首に浮き出る筋肉。
「耳うらほぐし」は、耳うらにある胸鎖乳突筋の付け根をもみほぐす
②両手の人さし指、中指、薬指の腹で、気持ちいいと感じる力で60〜90秒間、なでるようにほぐす
(こするように強くやらないのが大事)

※疲れたときや、入浴時、寝る前など、1日1〜2回行う

側頭部と耳の筋肉の緊張を緩める「側頭筋ほぐし」

「側頭筋ほぐし」では、こめかみにある側頭筋、側頭頭頂筋、耳介筋をほぐします。

かみ合わせの不調やストレスで歯ぎしりをしている人は、これらの筋肉が緊張し、こわばっています。

イヌやウサギが音に反応してその方向に耳を動かすように、ヒトの耳も、音がすると、これらの筋肉で、実際には動きませんが、音の方向に反応しています。これらの筋肉が硬くこわばっていると、音がする方向がわからないばかりか、それが理由でさらに聞こえにくくなります。

側頭筋ほぐしは、そんな聞こえにくさを改善するのに有効です。

2つのマッサージは、入浴中湯船の中で、あるいは寝る前のリラックスタイムに行うのがお勧めです。私も毎日行っています。健康聴寿のために、ぜひ実践してください。

耳の周囲の筋肉の緊張を緩める「側頭筋ほぐし」のやり方

①両手の人さし指と中指の腹でこめかみを押さえ、ぐるぐる円を描くようにもみほぐす。1回り2秒くらいの速さで10回り行う(イタ気持ちいい強さ)
②同様に耳の真上を押さえ、ぐるぐる円を描くようにもみほぐす。1回り2秒くらいの速さで10回り行う
③同様に耳の後ろの髪の生え際を押さえ、うなじに向かって3㎝ずつずらしながら、ぐるぐる円を描くようにもみほぐす。1回り2秒くらいの速さで10回り行う

※疲れたときや、入浴時、寝る前など、1日1〜2回行う

この記事は『ゆほびか』2022年7月号に掲載されています。