認知症リスクを招く「脳過労」を防ぐには入ってきた情報を整理する時間が必要!
ときおりテレビなどで片づけられない人たちの汚部屋、ゴミ屋敷が話題になります。これは実は、脳の話にもリンクします。このコロナ禍で、部屋だけでなく脳がゴミ屋敷状態になっている人が増えているのです。
「なんのこと?」と思った人も多いでしょう。ゴミ屋敷には、ところかまわず物が積み上げられ、散らかっています。同様に、私たちの脳も、情報であふれかえり、何がどこにあるのかわからない状態になっている人が増えているのです。
そうなってしまうのは、脳の機能がちゃんと働いていないからです。脳は、情報処理をする装置です。そして、その情報処理は、以下の3つの段階で行われます。
❶見たり聞いたり経験したりした情報を入力(インプット)する
❷入力した情報を整理整頓する
❸必要な情報を検索して取り出す(アウトプット)
コロナ禍では、テレワークや外出自粛が続き、スマホやタブレット、ノートPCなどで、必要・不必要に関わらず膨大な情報を脳にインプットするようになりました。
脳は、仕入れた情報をいつ整理整頓するのでしょう。それは、朝、コーヒーを飲むとき、通勤電車の中、散歩に行ったとき、何も考えずにボーッとしているときに情報の整理が行われるのです。
ところが、テレワークと外出自粛でそういう隙間時間がなくなりました。ちょっとした空き時間も、スマホでSNSを見たり、ゲームをしたり、情報のインプットばかりしています。情報はこれまでよりたくさん入ってくるのに、それを整理整頓する時間がない。これでは脳はゴミ屋敷になってしまうのです。

ゴミ屋敷となった脳の中から、必要な情報をすぐに取り出すのは容易なことではありません。「あの人の名前、何だっけ」「今、席を立ったけど、何をするんだったっけ」といった物忘れが多くなるのは、まさにそういうことです。
また、情報のインプットばかりが過剰になると、脳の機能の一部だけが疲弊する「脳過労」に陥ります。脳過労の状態になると、記憶力のみならず、思考力、判断力、集中力、コミュニケーション力、感情の統制力などの脳機能が低下し、睡眠障害やうつ病になりやすくなるなど、病気のリスクも高まるのです。
「会社」は脳にとって理想的な環境
ところで、「テレワークするよりも会社に来たほうが仕事ははかどる」という人がいますが、これは脳の働きから考えると一理あります。
対面の会議で話す、隣の席の人と雑談する、飲み会に行って人と話す。これらは脳の働きの3段階目、情報のアウトプットになります。
インプットした情報を、通勤時間やコーヒーブレイクのときに整理し、逐一アウトプットする機会があるわけですから、会社では脳がさえるのです。
「飲み会の場でいいアイデアが出やすい」というのも、会議よりもリラックスした状態で、情報が活発にアウトプットされ、脳の働きがよくなっているのですから、あたりまえともいえる話です。
しかし、脳のしくみとは不思議なもので、1段階目の情報のインプットと、3段階目のアウトプットは同時に行うことができるのですが、2段階目の情報の整理は、ほかのことと同時に行えません。脳の健康のためには、どうしても休憩時間、何もしない時間が必要になるのです。
ちなみに、睡眠中は脳も休んでいますので、情報の整理は行われていません。睡眠も必要ですが、睡眠がじゅうぶんならばOKということではなく、やはり脳に情報を整理する時間を与える必要があります。
脳過労が続けば認知症リスクは高まる
このようなスマホのやり過ぎで脳機能がうまく働かず、物忘れが多くなる症状を私は「スマホ認知症」と呼んでいます。
スマホ認知症は、アルツハイマー病などの認知症とは違います。しかし、脳がインプットに偏りすぎ、脳過労になっている状態ですので、これを放置すれば、将来的に本物の認知症につながる危険性もあります。
私のクリニックでは「もの忘れ外来」を開設していますが、この2年ほどでスマホ認知症の人が増えました。原因は、やはりコロナ禍により、スマホを扱う時間が格段に増えたが、脳が情報を整理する時間が減ったことによるものでしょう。

脳の中を整理整頓して、スマホ脳のゴミ屋敷から脱するには、情報のインプットをシャットアウトする時間を作らなければなりません。
その時間があれば、脳は情報を図書館の書棚のようにわかりやすく分類し、必要なものをサッと取り出すことができるようになります。脳をバランスよく使えるようになるため、脳過労になることも防げます。脳のパフォーマンスがグッと上がってくるはずです。
後編では、そのために簡単にできる習慣についてご紹介します。いずれも、とても手軽にできますので、ぜひ実践してください。