冷えや不眠にすぐ効く!便秘や胃もたれ、更年期障害も大改善
私は、婦人科系を中心に、鍼灸治療を行っています。その施術のなかで、頻繁に使い、患者さんのセルフケアにもよく活用している体の部位があります。それは、骨盤の中央にある「仙骨」です。
私が治療に用いる際は仙骨にあるツボを使いますが、患者さんのセルフケアとしては「仙骨を温める」という方法をお勧めしています。これは、とても簡単にできますが、非常に効果が高く、幅広い症状を改善できる方法です。
例えば、冷えや不眠は、仙骨を温めると真っ先に効果が現れる症状です。消化不良、胃もたれ、便秘、下痢、軟便など、胃腸の不調にもよく効きます。頻尿や尿の出が悪いなどの泌尿器系の症状や、女性なら生理痛、月経不順、不妊、更年期障害、男性なら精力減退や勃起障害(ED)といった症状にも効果的です。
さらに、慢性腰痛やギックリ腰、脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアといった骨格系のつらい症状も、仙骨を温めることで改善できます。では、なぜ仙骨を温めるだけで、これほど幅広い効果が得られるのでしょうか。
仙骨は、骨盤の背中側の中央にある平たい骨です。背骨を下にたどっていくと、お尻の割れ目の上で尾骨という出っぱりに触れますが、その上に、平たい骨があります。それが仙骨で、手のひらくらいの大きさで逆三角形の形をしています(下の図参照)。
仙骨は、骨盤の中心部分であると同時に、背骨の土台としての役割を果たしています。上半身と下半身をつなぐ要の骨であり、仙骨のバランスが崩れると、全身の骨格に影響し、腰痛などの原因になります。
また、仙骨を中心とする骨盤の中には、腸の一部や泌尿器、生殖器などが収まっています。そのため、仙骨が冷えると、これらの骨盤内臓器にさまざまな悪影響が及ぼされます。
それだけではありません。仙骨は、全身の血液循環にも深く関わっています。仙骨は、腹大動脈(腹部を下向きに進む大動脈の一部)という非常に大きな血管の近くにあります。
腹大動脈は、骨盤内に向かう内腸骨動脈と、足のほうへ向かう外腸骨動脈とに分かれ、さらに枝分かれした多数の細かい血管が仙骨周辺を通っています。つまり、仙骨周辺は「血管の交差点」ともいえる場所なのです。
そのため、仙骨を温めることで非常に効率よく全身の血流を促すことができ、特に骨盤内の臓器への血流をよくして、それらの働きを高めることができるのです。
また、仙骨には、自律神経の一種である副交感神経が中心的に通っています。副交感神経は、体をリラックス状態に導く神経で、血管を拡張して血流を促進し、腹部の臓器の働きを高める作用を持っています。その副交感神経を、体の外から最もダイレクトに刺激できる場所が、仙骨なのです。
血圧や血糖値が改善した例も続出
体の組織で熱伝導率が最も高いのは、実は骨です。仙骨部分は、筋肉が薄く、皮膚のすぐ下に大きな骨があるため、血管や神経に温熱刺激がダイレクトに伝わります。こうした理由により、仙骨を温めると、血管や神経に素早く刺激が伝わり、全身の血行がよくなって、幅広い効果が得られるのです。
仙骨を温めることによる効果は、ほかにもあります。続けていると、血圧や血糖値が改善し、安定する人が多いのです。これは、睡眠がしっかり取れるようになることで、よい影響がもたらされるためと考えられます。高血圧や糖尿病で薬を処方されている人は、薬の服用を続けながら、仙骨を温めるとよいでしょう。
また、仙骨を温めることは、病気と闘う免疫機能のアップにもつながります。細菌やウイルスと闘い、体を守る免疫細胞は、血液の流れに乗って全身を移動しており、全身の免疫細胞の約7割が腸に存在しています。
仙骨を温めて全身の血流が促進され、骨盤内臓器の血流がよくなって腸の機能が高まれば、当然、免疫機能も高まってきます。カゼやインフルエンザはもちろん、新型コロナウイルスに対しても、仙骨を温めて免疫機能を高めておくことをお勧めします。
骨盤内は中が空洞で、熱伝導率の高い骨に囲まれているため、生殖器や泌尿器、腸など骨盤内の臓器は冷えやすい傾向にあります。「おなかを冷やさないことが大事」ということは、多くの人がご存じだと思いますが、おなかを効率よく温めるには、背中側の仙骨を温めるのが、一番の早道です。
特に女性は、加齢とともに女性ホルモンのバランスが悪くなり、不眠やイライラ、疲れやすさ、肩こりなどの不定愁訴が出やすくなります。仙骨を温めて骨盤内の血流を促すことは、更年期の不定愁訴の緩和にも役立ちます。
仙骨の温め方は、後編で詳しくご紹介します。
(後編に続きます)