ゆほびか ゆほびか
  • 文字サイズの変更
  • 大
  • 中
  • 小
  • SNS
  • twitter
  • facebook
  • instagram

【写経とは】怒りや不安を除く効果も “書く坐禅”を習慣にすることで得られるメリット

すべきことに追われ、気がついたら1日が過ぎていたということはありませんか。皆が何かに追われているかのように、慌ただしく日々を過ごしている、それが現代社会に生きる人々の姿です。そんな今だからこそ、取り組んでほしいことがあります。それはお経をそのまま書き写す「写経」です。

写経とは

慌ただしい日常から離れて立ち止まるひととき

座って、お経を一文字一文字書き写す静謐なひととき。それはせわしない日常から離れて、自分と向き合う、ぜいたくな時間となります。

心を込めて書くうちに、怒りや不安、迷いがスーッと消えていき、気がつくと心が楽になっている。写経にはそんな効果もあります。

このような写経の効果は、古くから知られていました。

そもそも写経の由来は、印刷技術がない時代、僧侶たちが経典を書き写したことにあります。

読経に使うのだから間違いのないように、と一字一字を丁寧に書き写していたところ、心が落ち着くことがわかり、印刷技術の発明後も続けられるようになりました。

やがて写経は、一般の人にも広まり、「一字一仏」と言われるようになりました。これは、写経で一文字を書くことは、一体の仏様を彫ることと同じであり、一文字一文字がたいへんありがたいものである、という意味です。

今では、功徳(ご利益)をいただけるものとして、先祖供養や心願成就などさまざまな願いを込めて、写経が行われています。

写経と御朱印の関係

ちなみに書き終えた写経は納経(お寺に写経を納めること)するのが習わしですが、そのとき寺院が受け取りのサインとして記帳捺印するものが、御朱印でした。

現代では写経と御朱印は別ものとして、それぞれがブームになっていますが、本来はセットといえるものなのです

写経の効果

書いているうちに不安から解消される

先に写経をすると功徳がいただける、と言いましたが、仏教では現世でのご利益を求めて、写経することはしません。そうではなく、「なすべきことをなぜば、結果は後からついてくる」と考えます。

SNSや情報に振り回されていた日々から一転。写経をすると、地に足がつき、他人との比較は無意味であることが心から理解できる

実際にやるとわかりますが、写経中にほかに注意が向いたり、考え事をしたりすれば、その迷いは文字にすぐに表れます。線がゆがんだり太さが変わったりするのです。

そうならないように、と意識すると、自然に目の前の一文字に全神経を集中させることになります。これが結果的に集中力を養うよい訓練になります。

そうして集中する間は、普段、頭の中を占めている考え事や不安などからも解放されます。その結果、心が落ち着き、自分を見つめなおすこともできます。

昨年、テレビ番組でご一緒したモデルの冨永愛さんも写経に取り組んでいるとのこと。やはり「心が落ち着くので、気に入っています」とおっしゃっていました。

そんな写経を習慣にすることで、人生も変わります。

実際に取り組んだ人たちからは、「衝動的に行動せず、これでいいのかと考えながら、物事を進める習慣が身についた」「これまでの自分は浮き足立っていたが、地に足がついた気がする」といった声をいただいています。

「周りに振り回されにくくなった」という声もよく聞きます。「周囲に言われるがまま、流されるように生きてきたけど、自分はほんとうにそれでいいのか、と考えられるように
なった」と言うのです。

これらの人々は、写経をすることで、目まぐるしい日々で見失っていた自分自身を取り戻した、と言えるでしょう。

ただただ「今」に集中するだけでよい

膨大な情報にも振り回されているのも、現代人の特徴です。例えば、SNSにアップされる他人の華やかな日常を目にして、劣等感にさいなまれたことはないでしょうか。

このような場合にも写経は役立ちます。自分がいちばんよいと思う生き方をしていればいいのであって、他人との比較は無意味であることが、ふっと腑に落ちるのです。

写経は、健康にも大きな効果があります。

願掛けやたいせつな人の供養として行うのもよし。今、目の前にある一文字一文字を丁寧に書く

近年、ストレス軽減や自律神経を整えるのに役立つとして、「マインドフルネス(瞑想などを利用して、今起こっていることに注意を向けること)」が広まっています。

マインドフルネスはアメリカが発祥ですが、実はその元となったのは仏教の坐禅です。

坐禅を科学的に検証した結果、血流が20~25%アップするなどさまざまな効果が確認されたため、健康増進に役立てようと体系化されたのがマインドフルネスです。

坐禅と同じように、写経も呼吸を整え、「今」に集中しますから、マインドフルネスと同じ健康効果が期待できます。ただし、その効果を得るために写経を行うのは、仏教の考え方からすると本末転倒となります。実際、効果を期待しながら行うと、自分の心と静かに向き合うことが難しくなりかねません。

一方で、願掛けやたいせつな人の供養として、祈りを込めながら写経するのは、非常にいいことです。つまり、その後の効果に目を向けるのではなく、今、目の前にある一文字一文字を、思いを込めて丁寧に書くことが、写経では最もたいせつなのです。

意味を理解する必要はない真理は体得するもの

今回は写経のよさを皆様に体験していただくために、般若心経の写経見本を付録としてつけました。般若心経は、600巻にも及ぶ「大般若経」のすばらしいところを抜き出して、わずか276文字にまとめたものです。そこにはお釈迦様の教えの真髄が説かれており、非常にありがたい功徳があるとされています。

『ゆほびか』2022年6月号付録の般若心経の写経見本

般若心経で主に述べられているのは、次の2つの真理です。

一つ目は、「諸行無常」です。これは、この世のものはすべて変化していくことを意味しています。

二つ目が「諸法無我」です。これは、この世のものはすべて関係性の上に成り立っていて、たった一つで存在するものはないことを意味します。

しかし、写経するに当たって、これらの意味を理解する必要はありません。

なぜなら、写経するうちに、これらの真理を頭ではなく、体で受け止められるようになるからです。

例えば、私たちは、ひとときたりとも留まっていない世の中で生きていること。それなのに、「明日もあるから後でいいか」と考え、今を何となく過ごしてしまうこと。でも、過ぎ去った時間は戻ってこない。だから、一瞬一瞬を大事にしなければならず、その積み重ねが充実した人生につながる、ということ。

こういったことが、「そうなのか」と体でわかるようになっていくのです。すると、物の見方、人とのつき合い方などすべてが変わり、生き方が変わり、ひいては人生が大きく変わります。

その人なりの悟りへと一歩近づく、この変化はいくつになっても、「遅すぎる」ということはありません。ですから、とにかく始めてみることが大事です。

付録の般若心経の裏には、『延命十句観音経』という、わずか42文字の短い経典を写経見本として載せています。こちらもとてもいいお経なので、ぜひ写経をなさってみてください。短いので、初心者のかたは延命十句観音経から始めてもいいと思います。

『ゆほびか』2022年6月号付録の『延命十句観音経』の写経見本

次の記事では、写経する際の準備や心得を紹介します。せわしない現代だからこそ、ぜひ写経のすばらしさを体験してください。

関連記事