無症状なので治療の必要性を感じにくい
当院には健診などで脂肪肝の疑いを指摘された患者さんが多く来院されます。ほとんどのかたは、脂肪肝についての知識がありません。
そこでまず、脂肪肝とは肝臓に脂肪がたまっている状態であること。放置すると脂肪肝炎という炎症が起き、肝臓が硬くなり、最終的には肝臓がんになる危険性があることを説明します。その上で、早いうちに対処して肝臓の脂肪をとれば、深刻な病気にならずに済むことをお伝えするのです。
しかし、脂肪肝の段階では何の症状もないからでしょう。患者さん本人は治療の必要性を実感できず、途中で通院をやめてしまう患者さんもいるのが現状です。
その点、赤星たみこさん(赤星さんの記事)は何をすれば中性脂肪値やコレステロール値が改善するか、自分でよく勉強されていて、感心しました。さらにすばらしいのは、それらの実践によって、検査数値もよくなっていること。
私も赤星さんを見習わなければなりません。なぜなら、患者さんには前述のような説明をしている私自身が、忙しさを言い訳に脂肪肝を放置して、大病を患うに至ったからです。
私の場合、肝臓病ではなく心筋梗塞を発症し、命を失う一歩手前でした。脂肪肝を放置する怖さをお伝えするため、ここで恥を忍んで、私の経験をお話ししましょう。
私が脂肪肝の疑いを告げられたのはかなり早く、20歳のとき。きっかけは胆のうポリープを切除する手術でした。
胆のうは肝臓の真下に位置するため、手術時には肝臓の状態も目視できます。それで私の肝臓を確認した主治医から、「脂肪肝ではないか」と言われたのです。
当時の私は、水泳部に所属。運動していたので体形はスリムで、お酒も飲みませんでした。ですから、脂肪肝と言われてもピンと来ず、そのままやり過ごしてしまいました。
今、振り返ると、その若さで脂肪肝になったのは、食生活が原因だと思います。私は甘いものと炭水化物が好きで、特に砂糖たっぷりのコーヒー牛乳をしょっちゅう飲んでいたのです。
その後、私は研修医となり、生活は一気に不規則に。深夜まで続いた手術の後、お酒を飲んでドカ食いしたり、当直後、朝イチでかつ丼を食べたりしていたら、みるみる太り、体重は最大で77㎏に達しました(身長は162㎝)。
血圧やコレステロール値、中性脂肪値も高い
医師になってからもそんな生活を続けていたら、徐々に体調に異変が出始めました。27~28歳の頃には痛風(※)を発症。このときは水分をとって尿をたくさん出すことで、症状が治まりました。
※ 尿酸がたまり足や指の関節が腫れて痛む病気
血圧やコレステロール値も高くなり、30代半ばで中性脂肪値がひどいときには800㎎/㎗に(正常値は150㎎/㎗以下)。これはさすがにまずいと、薬を飲み始めたのですが、コレステロールを下げる薬は副作用が出てしまい、続けることができませんでした。
その後、私は40代で渡米。幸か不幸かアメリカの食事が口に合わず、自然に減量することができました。
それに伴い体調もよくなったのですが、私ときたら「これでもう大丈夫」と油断。帰国後はまた元の荒れた生活に戻ってしまったのです。
再び異変が現れたのは、50歳のとき。この頃、私は現在のクリニックを開業したのですが、体が異様にだるく感じられ、動悸や息切れの症状が出るようになりました。
55歳になると、不整脈の症状も出現。そこで、心臓の専門医に診てもらうようになったのですが、それでも動悸は治まりませんでした。そこで、「今度、精密検査を」と話していた矢先、心筋梗塞に襲われたのです。58歳のときでした。
発作が起こったのは診察中です。突然、胸全体に何ともいいがたい不快感が広がり、やがて患者さんと話すのはもちろん、息を吸うのもつらい状態となりました。
診察をどうにか終わらせた私は、すぐ横になって心電図を撮りました。すると、心筋梗塞の所見が出ていたため、すぐに救急車を呼んだのです。
心臓の主治医のもとに運ばれ、詰まっていた心臓の左冠動脈を広げる処置を受けたのは発症の2時間後。幸いにも、一命をとりとめることができました。その3カ月後にも心不全を起こして再入院しましたが、それから2年が経ち、体調はかなり回復しています。
「自分だけは大丈夫」と過信していた
とはいえ、こうして命を永らえているのは、運がよかっただけ。危険サインは何度もあったのに「自分だけは大丈夫」と過信していたのです。どこかの時点で生活習慣をきちんと見直していれば、こんな目に遭わずに済んだのにと、心から反省しています。
実際、当院の患者さんでも赤星さんのように脂肪肝にきちんと対処している人は、50~60代になっても健康を維持されています。私のように大病を患う人はいません。
この経験以降、私は患者さんにも「脂肪肝を放っておくと私のようになるから、食事と運動に気をつけましょう」と口を酸っぱくして伝えるようになりました。
脂肪肝改善のためには、コレステロールを増やさないことが何より重要です。脂肪より炭水化物のとり過ぎがよくないので、ご飯の量を4分の3程度にすることから始め、可能であれば半量まで減らしましょう。
同時に、コレステロールが少ない魚や糖質の少ない赤味の肉、鶏肉(皮以外)を主体にして、野菜をたっぷりとることが大切です。
次に運動ですが、取り組みやすいのはやはりウォーキングでしょう。少し汗ばむ速度で30分、歩数でいうと8000歩程度を週3回以上、実践すると脂肪肝に効果があることが研究で証明されています。
屋内で運動するなら、赤星さんも実践されているスクワットがいいでしょう。加齢で衰えやすい足腰の筋肉を鍛えることができます。
しかし、脂肪肝になりやすい働き盛りの30~50代は、これらを実践するのが難しい場合も多いはず。その場合、せめて処方された薬だけでもしっかり服用してください。