ゆほびか ゆほびか
  • 文字サイズの変更
  • 大
  • 中
  • 小
  • SNS
  • twitter
  • facebook
  • instagram

【不眠】のあなたが【睡眠薬】と正しくつきあいサヨナラしていく方法

副作用が気になるベンゾジアゼピン系

 現在、不眠症の治療に使われている睡眠薬は、「ベンゾジアゼピン系」「非ベンゾジアゼピン系」「メラトニン受容体作動薬」「オレキシン受容体拮抗薬」の4種類です。

 ベンゾジアゼピン系と非ベンゾジアゼピン系は、登場して長い年月がたち薬価が安く、種類も多く、睡眠薬全体の9割以上を占めています。

 ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系は、GABA(覚醒を抑える脳内の神経伝達物質)の作用を強めて、脳全体の活動を休ませようとする睡眠薬です。

 ベンゾジアゼピン系睡眠薬は筋弛緩剤作用があり、ふらつくことが問題になりました。高齢者のかたが夜中にトイレに起きたとき、転倒して骨折の事故につながりやすいのです。

 非ベンゾジアゼピン系は、このふらつきが出ないように改良したものです。現在では、高齢者にはベンゾジアゼピン系は使わず、非ベンゾジアゼピン系などを用いることが推奨されています。

 ただ、非ベンゾジアゼピン系よりもベンゾジアゼピン系のほうが効き目が強いので、その効果を欲しがる患者さんもいらっしゃいます。ベンゾジアゼピン系は、もともと抗不安薬として開発された薬で、不安が強くて眠れない人にはベンゾジアゼピン系のほうが効くというのは確かなのです。

 一方で、アメリカでは、ベンゾジアゼピン系は批判の対象になっています。翌日の持ち越し効果のため自動車事故につながる、長期の投与でアルツハイマー型認知症になる可能性がある、うつ病や高血圧、糖尿病のリスクがあるというデータが出ているからです。

 また、ベンゾジアゼピン系や非ベンゾジアゼピン系は、薬をやめたときに、治療前よりも強い不眠症になってしまう、反跳性不眠をきたす危険があります。

 常にこれらの薬物を飲んでいる人は、脳全体が薬で鎮静化されているのが普通になっています。薬をやめると、脳の状態に急な変化が起こるため、強い不安などの症状が出てきてしまうのです。また、依存性があるため、なかなかやめられないという問題もあります。

 そこで、筋肉や記憶への影響がないオレキシン受容体拮抗薬が注目されるようになりました。

オレキシン受容体格拮抗薬は依存性・副作用がない

 オレキシン受容体拮抗薬は、2014年から販売されるようになった、新しいタイプの睡眠薬です。これは覚醒状態を維持するオレキシンという脳内物質の作用を弱める薬です。依存性や大きな副作用もなく、自然な睡眠をもたらしてくれることで利用者が増えています。

 ただ、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を飲んでいた人たちは、オレキシン受容体拮抗薬の効き目を物足りなく感じることが多いようです。

 ベンゾジアゼピン系は、アルコールの作用に似ていて、酩酊感があり、強い眠気が急激に襲ってきます。その状態を「薬が効いている」実感ととらえると、オレキシン受容体拮抗薬がもたらす、健康な人の眠りと似たゆるやかな入眠に不満を感じてしまうことがあるのです。

 2010年には体内時計を調節する睡眠薬、メラトニン受容体作動薬が販売されましたが、こちらも、明確な眠気を感じないうえ、効果が現れるのに時間がかかるため、ベンゾジアゼピン系を使っていた人からは「全然効かない」とされることが多かったのです。

「眠くてしょうがない」は薬の不自然な状態

 普段、健康な眠りについている人は、「眠くてしょうがない」と思って寝ていることはありません。自然に床について、自然に寝ています。

「眠気がすごい」というのは、睡眠負債がたくさん貯まっている状態ではあり得ますが、通常は強い眠気を感じてから眠ることはあまりありません。

 しかし、眠気を強く感じることが薬の効き目だと思っている人が少なくないのです。

 そのため、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬という、自然な睡眠を促すタイプの薬を「効かない」と判断してしまう人がいるのが、睡眠薬の使用の難しいところです。

 ただし、メラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬といった自然な睡眠を促すタイプの薬であれば、使い続けてよい、ということではありません。

 睡眠薬は使わずに眠れるのが本来の健康な体です。治療が終わったら、睡眠薬は必要なくなるという形が理想です。

「眠気がすごい」というのは、睡眠負債がたくさん貯まっている状態

週3日、3カ月以上、眠れないのが不眠症

 睡眠に関しては、よく眠れたかどうかを睡眠自体で判断するのではなく、日中の活動で判断すべきです。

 しかし、睡眠に悩みがあればあるほど、睡眠自体を考えてしまい、「昨日の睡眠は何点だった」と点数つけている人もいるほどです。

 必要以上に睡眠にこだわらず、「日中眠くならなければ睡眠は足りている」と考えましょう。

 午後2時~4時の時間は、体内時計の覚醒レベルが下がり、昼ごはんを食べて血糖値がちょっと上がってくるため眠くなりやすいもの。

 ただ、「もう眠くて眠くてたまらない」という状態になるのは、ベースに睡眠不足があると思ってください。そういうことがなければ睡眠は足りていると思ってよいのです。

 不眠症かどうかの判断は、日中困るほど眠れない状態が、週3日、3カ月以上続いているかどうかが基準になります。

 医師が患者さんに「眠れないんですか? じゃあこの睡眠薬を出します」とすぐに処方するのは問題です。ほんとうはちゃんと寝ているのに「もっとたくさん寝たい」という理由で、「眠れない」と訴える人もいるからです。

「眠れないけれど、昼間は全然眠くならない」という人も、不眠治療をする必要はありません。

 なかには「7時間寝るのがいちばん寿命が長いと言われて、私は6時間しか寝ていないから睡眠が足りない」と思い込んでいる人もいます。

 年齢に従って、睡眠時間は短くなりますし、個人差もあるので、誰もが7時間眠る必要はありません。

 睡眠が足りているのに眠れないと訴えるかたがたには、薬を出すのではなく、考え方を変えてもらうことが大事です。患者さんが「眠れていない」と言っている状況は、ほんとうにいろんなケースがあるので、薬を出す前にじゅうぶんな問診がされるべきなのです。

睡眠薬をやめるには減薬や併用から

 睡眠薬は、高血圧や糖尿病の薬とは違い、ずっと飲み続けるものではありません。不眠症治療薬使用ガイドラインが日本でも作られていますが、薬なしで眠れるようになることが目標とされています。睡眠薬を常用している人は、だんだん少なくしていく減薬を行います。

 急にやめてしまうと不眠がひどくなって、「やっぱり私は薬がないと眠れないんだ」と認知されてしまうので、徐々に少なくしていって、やがてゼロにするのが理想です。

 依存性がないオレキシン受容体拮抗薬を併用して、少なくしたぶんを補うという方法もあります。

 また、 睡眠環境を整えることも大事で、なるべく朝、同じ時間にきちんと起床する、夕方以降カフェインを取らない、夕方以降あまり明るい光を浴びない、眠くないのに寝床にいかない、寝室の温度は22~24度にするといった、日常生活の指導を行います。

睡眠薬は「ずっと飲み続けるものではない」と考える

眠れる成功体験を積む認知行動療法

 また、自分が眠れるというのを覚えさせるために「認知行動療法」が行われることもあります。

 不眠はある意味、眠れないという恐怖症の一種です。「今日も眠れなくて苦しい思いをするかもしれない」「寝ないと明日大変なことになる」といった不眠恐怖ができあがってしまって、眠れなくなるのです。

 さらにいえば、眠れない体験を毎日、同じ家の寝室でしているわけです。同じ布団に入ることが眠れないことに結び付いてしまっています。

 認知行動療法は、この条件付けを上書きしてあげる方法で、「あなたは、ここで寝ようとすれば、眠れるんですよ」という成功体験をさせるもの。

 ですから、眠れないという体験をしてはダメで、「眠くなるまでは、寝床に入らない」「眠ること以外に、寝床を使わない」というのが鉄則なのです。

 そのため15分たっても寝付けなかったら、居間に戻って眠くなるまで何かをしてもらいます。

 眠れるという成功体験を積み重ねるために、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を使うこともあります。眠れるという成功体験をするために、少し薬の力を借りるのです。

 もちろん、薬に依存するといけないので、ある程度眠ることができるようになったら、減薬を行います。

 睡眠薬は、副作用もそれなりにあるため、飲まないメリットのほうがはるかに多いものです。

 血圧や血糖値の薬は、飲むと数値が出てきて、効き目が明確にわかります。けれど、睡眠薬による効き目は、「薬の酩酊感」を「眠れた」と判断する人も少なくありません。

「不眠症が治る」のは、薬を飲み続けることではなく、薬がなくても眠れるようになることだと覚えておいてください。