神様への感謝が幸せの循環を作る
台湾の人は信仰心が篤く、神様とつながる儀礼を大事にする慣習が、人々の間に深く根づいています。
台湾では、寺社を訪れて神様にお参りすることを「拝拝」といいますが、台湾人には生活の一部といってもいいくらいです。拝拝には、次の4つの意味があります。
①敬意:神様に心からの敬意を示し、拝むこと。
②消災:心配事や災いを避けるために祈ること。いわゆる厄除け。
③許願:心から願うこと。いわゆる願掛け。
④感恩:上手くいったことに対して神様にお礼をすること。
この中で特に、「感恩」の考え方は重要です。願いを叶えてもらったら、必ず忘れずにお礼をする。台湾では、そんな意識が自然と身に着いているのです。
例えば、台湾で縁結びの神様として有名な「月下老人」という神様がいます。そのお寺に願かけに訪れた独身の人に、お菓子がふるまわれることがあります。それはただのお菓子ではなく、「喜餅」と呼ばれる縁起物です。
喜餅は、結婚が決まると、それを知らせるために新婦側がクッキーなどのお菓子を用意し、周囲の人に配る習慣です。
つまり、先に月下老人にお参りして結婚が実現した女性が、神様への感謝の気持ちを表すために喜餅をお供えに来る。それが良縁を願う次の人に、幸せのおすそわけとして回っていく。そんな感謝と幸せの循環が起こっているわけです。すてきな習慣ですよね。
日本にもお礼参りという習慣があるはずですが、実践している人は少ないのでは。やはり、神様にお願いごとを叶えてもらったなら、お礼を忘れないようにしたいものです。
願いがかなったときの交換条件を出す
また、台湾人のお参りでユニークに感じるのは、神様に交換条件を出すことです。「願いをかなえてくれたら、代わりに私はこういうことをします!」といった見返りを具体的に約束するのです。
「神様に交換条件を出すなんて、不遜では?」と思うかもしれません。でも、神様に何かをお願いする以上、自分もお礼する気持ちを真剣に持つという意味で、私はよい習慣だと感じています。
あまりに簡単にできることよりは、その人にできる範囲で、それなりにたいへんなことを約束するほうがいいと言われています。また、「神様から受けた恩を世の中にお返しする」という意識があると、よりよいと思います。
とはいえ、いくら「大金を寄進します!」といっても、神様の目線からすれば、金額はどうでもいい話ではないでしょうか。
大事なのは、お金をどのように使うかということ。そのお金が世の中に役立つ使い方をされることで、人々がより幸せになれる。神様はそういうことを望んでいるはずです。
その意味では例えば、「もし母のがんを治してくれたら、がんの研究施設にお金を寄付します」といったお願いのしかたがいいでしょう。お金がなければ「毎朝、早起きして公園の掃除をします」でもOKです。
台湾人は、日頃から善行をして「徳」を積むのが大事という教えの中で育っています。人助けや世の役に立つことをする。間違ったことをせず、まじめに生きる。そうして徳を積んでいる人は、いざというときに神様が力を貸してくれる、と考えています。
そういう意味では「困ったときにだけ、都合よくお祈りしてもダメ」なのです。
日頃からお参りを習慣にして、敬意や感謝を表すのを欠かさないようにする。神様にお願いをするときには、ちゃんと自分も見返りを約束する。上手くいったら、必ず忘れずにお礼をする……。
とても人間的に感じますが、もし、人間同士が互いにこうした気持ちで接したら、必ずいい関係性が築けますよね。神様と人の間でも、いっしょなのではないでしょうか。