卵には安眠に有効な栄養成分が豊富
日本では、成人の20~25%が、眠りになんらかの問題を抱えていると言われています。実際、私のクリニックでも、不眠を訴えて来られる患者さんが後を絶ちません。
不眠は、生活習慣と関係が深いものです。本来眠るべき時間に起きていたり、起きるべき時間に眠っていたりすると、体内リズムに狂いが生じて、快適な睡眠が取れなくなります。「最近、よく眠れない」とか「なかなか寝つけない」という人は、まず起床時間を一定にして、日中は外出するように心がけましょう。
同時に、ぜひ気を配りたいのが食生活です。寝る前にコーヒーや濃い緑茶など、カフェインが多く含まれるものを飲むと眠れなくなるのは、体験的にご存じのかたも多いと思います。
一方、よい眠りを得るための栄養成分もあるのです。
その一つが、「L-トリプトファン」です。L-トリプトファンは、体内で合成できない必須アミノ酸(生体の維持、活動に必要なたんぱく質の成分)の一種で、食品から取るしかありません。
このL-トリプトファンを効率的に摂取できるのが、日本人の国民食ともいえる「卵かけごはん」です。
実は卵には、L-トリプトファンが豊富に含まれています。独自の調査機関を持ち、世界中で400万人以上の読者を抱えるアメリカの雑誌『グッド・ハウスキーピング』でも、安眠効果が期待できる食品として、L-トリプトファンを多く含む卵、大豆、鶏ムネ肉を紹介しています。
その中でも特に、私が卵、しかも卵かけごはんを推奨するのは以下の理由からです。
卵とごはんは安眠の黄金コンピ
まず、L-トリプトファンの重要な機能の一つは、脳内で働く「セロトニン」という物質の材料になることです。眠りを促すホルモンである「メラトニン」は、セロトニンを材料にして作られます。ですから、おおもとの材料であるL-トリプトファンをじゅうぶんに取ることで、セロトニン、ひいてはメラトニンをしっかり分泌させることができるのです。
同時に重要なのが、L-トリプトファンを脳に吸収させることです。
たんぱく質が分解されてできるアミノ酸には20もの種類があり、それぞれが、さまざまな機能を持って競合しています。そのため、L-トリプトファンが脳に吸収されるのは、簡単なことではありません。
そこでごはんの登場となるわけです。実は、L-トリプトファンは、ごはんなど、炭水化物といっしょに取ると、脳に伝達されやすくなるという性質があります。
炭水化物を食べると血糖値が上昇し、インスリンという、血糖値を一定に保つ働きをするホルモンが分泌されます。インスリンは、L-トリプトファンと競合している、他のアミノ酸が骨格筋に取り込まれるのを助けます。そのため、そのすきにL-トリプトファンが脳に伝達されるというわけです。L-トリプトファンが豊富な卵と、炭水化物であるごはんは、安眠のための黄金コンビといえます。そして、それらを同時に食べられるのが、卵かけごはんです。
卵かけごはんを食べるのは、夕食時が最適でしょう。就寝時に、空腹でも満腹過ぎても、良質の睡眠が取れません。寝る2時間前には、食事を終えているのが理想です。
なお、炭水化物の食べ過ぎは血糖値が急上昇するなど、体に負担がかかります。卵1個に対して、茶わん半分のごはんが適量といえます。塩分の過剰摂取を防ぐために、卵かけごはんには、しょうゆをかけないほうがよいでしょう。おかずと、いっしょに食べれば、じゅうぶんおいしく食べられるはずです。
安眠強化にお勧めのキウイヨーグルト
さらなる安眠強化には、夕食のデザートに、キウイとヨーグルトを組み合わせた「キウイヨーグルト」がお勧めです。キウイは果物の中で、L-トリプトファンを多く含んでいるので、夕食時に毎日1個は食べたいものです。
さらに、腸は「第2の脳」と言われるほど、脳と強い相互関係があり、脳と同様にセロトニンを排出することができます。そのためには、ヨーグルトなどで腸内環境を整えることが重要です。しかも、ヨーグルトなど乳製品は、L-トリプトファンも豊富です。
また、ヨーグルトに含まれるカルシウムには鎮静効果があり、気持ちを落ち着かせて、睡眠の助けとなります。キウイの酸味が苦手なかたでも、ヨーグルトといっしょに食べるとやわらぐのでお勧めです。
不眠が重症化すると、精神面にも作用して、うつ状態になることも少なくありません。早めの対処が、なによりです。よく眠れないというかたは、生活習慣の改善とともに、食生活にもぜひ目を向けていただきたいものです。