香取知里(かとりちさと)
美軸ライン協会理事長・パーソナルトレーナー
いすに座っているとき両足が開いていませんか?
私は29年にわたりモデルやタレント、そしてBC講師としてミス・ユニバース・ジャパンのファイナリストを含め、約3万人にエクササイズを指導してきました。
その経験から思うのですが、女性が「年を取ったな」と実感するのは、次の3つのぜい肉を見つけたときではないでしょうか。
□ポッコリ下腹
□太もものたるみ
□背中のハミ肉
これらのぜい肉がつくのは、体の軸がずれているためです。
体の軸は、おもちゃのコマの軸と同じように、体の中心を縦方向に通っています。
コマの場合、軸が中心にあるときは、回転によって生まれる遠心力が均等に働いて、立った状態で回り続けます。しかし軸の位置がずれると、遠心力のつり合いが取れなくなるため、コマは不安定になります。
私たちの体も同じように、軸がずれると体の一部に偏って負担がかかり、腰・ひざの痛みや肩こりが現れます。そして負担がかかっていない部分は筋肉が衰え、ぜい肉がついてたるんでくるのです。
体の軸と大きく関係しているのが「内転筋」です。内転筋は開いた脚を閉じるときに働くのですが、ふだんの生活ではあまり使われません。
長時間いすに座っていると、気がつけば両脚が開いている。信号待ちなどで、脚を開いて片脚に体重を乗せる──こうした習慣があると、太ももやふくらはぎの外側の筋肉ばかりを使ってしまい、内転筋が衰えていきます。
また、鏡に全身を映したとき、脚のつけ根よりも太もものほうが横に出っ張っている人も、内転筋が衰えています。太ももを内側に寄せる内転筋の力が弱いので、見た目にも脚が太く見えてしまいます。
さらに、内転筋が衰えて太ももどうしが開いた状態が続けば、骨盤の下部が広がっていきます。そして、内臓の位置も下がってきて、下腹がポッコリと出てくるのです。
3カ月で24㎏やせた!太ももは12㎝締まった!
女性の場合、妊娠中から産後しばらくの間、靭帯や筋肉を緩めるホルモンが分泌されます。ですから、内転筋も弱まり、太りやすくなっています。
私が38歳で出産したときには、80㎏まで太ってしまいました。産後は寝る間もないほど忙しく、筋肉がそげ落ちて、ぜい肉だけが残りました。鏡に映った自分を見てひどく落ち込んだこともあります。
しかし、トレーナーの仲間たちに励まされ、子育ての合間に自宅でエクササイズを行って、3カ月で24㎏の減量に成功。ウエストは23㎝、太ももは12㎝もサイズダウンしたのです。
今回紹介する「タオルを脚で挟む」エクササイズは、私が実行したものの1つです。
骨盤が矯正され美しい姿勢に
やり方は簡単。両脚のくるぶしでタオルをしっかり挟んで、つま先立ちするだけです。その結果、効果は内転筋だけでなく次のように全身に及びます。
①骨盤底筋が鍛えられて、下腹が引っ込む
つま先立ちで、骨盤周辺の筋肉に強く刺激が与えられます。そして下腹の内側にある腹横筋というインナーマッスルが鍛えられ、引き締まっていきます。
同時に、骨盤底筋のトレーニングにもなります。骨盤底筋とは、膀胱と尿道、子宮と膣、直腸と肛門を、ハンモックのようにつり下げている外尿括約筋、膣括約筋、外肛門括約筋などの総称です。出産や加齢で骨盤底筋が衰えて、尿モレや子宮脱(子宮が垂れ下がって膣から出てくること)に悩まされる人も少なくありません。こうした症状の予防・改善にも効果があります。
②姿勢が美しくなり、背中のぜい肉が取れる
つま先立ちをして前に倒れそうになるのは、ふだんから骨盤が傾いている証拠。間違いなく、猫背ぎみになっています。こうした人も、タオルを脚で挟むエクササイズで、骨盤が正しい位置に戻って、姿勢も美しくなっていきます。
③O脚が改善して、太もものラインが美しくなる
内転筋と内側腓腹筋(ふくらはぎの内側の筋肉)が鍛えられるので、O脚が改善して脚のラインが美しくなるとともに、重心が体の中心に移動して、安定しやすくなります。
このように、脚から全身を美しくするエクササイズなのです。ポッコリ下腹や太もものたるみ、背中のハミ肉、それから腰痛や肩こりで悩んでいる人は、早速今日から始めましょう。
ウエスト・太ももが締まる!背中のハミ肉も消える「タオルを脚で挟む」やり方
「タオルを脚で挟む」エクササイズと「ふんどし」エクササイズには、体の軸を矯正する効果があるので、毎日1回以上は行いましょう。
筋肉は、体の中で最も多くのカロリーを消費しています。ですから、エクササイズで筋肉が増えれば増えるほど、カロリーの消費量も増えるのです。
ウエストと太ももが引き締まり、背中のハミ肉が消え、姿勢が美しくなると、雰囲気も変わってきます。体への自信から、笑顔や積極性も生まれてくるのです。ぜひ皆さんも、自分の変化を楽しんでください。
内転筋を鍛えるタオルを脚で挟むエクササイズ
①フェイスタオルを4つ折りにしてから、さらに4つ折りにする(厚さは約7㎝)
②両足をそろえて立ち、左右の内くるぶしの間に、タオルを挟む
③親指のつけ根に体重を乗せながらかかとを上げて3~30秒キープ
④タオルをしっかりと挟んだまま、かかとをゆっくり下げる
⑤ ③~④を3回繰り返す
骨盤に働きかけ、反り腰・猫背解消に効果的なふんどしエクササイズ
①タオルの真ん中を股間に当てて、タオルの両端を骨盤の前後で持つ
② ①の状態で、ひざを軽く曲げる
③タオルで骨盤を引き上げるようにして、ゆっくりとひざを伸ばし、かかとを上げて3~30秒キープ
④ゆっくりとかかとを下げる
⑤ ②~④を3回繰り返す
2つのエクササイズのポイント
●寝る直前を避ければ、いつでも行ってよい
●毎日行うのが難しい場合は、2~3日に1回のペースで続けても効果は現れる
●かかとを上げる時間は、最初は3秒から始め、慣れてきたら30秒まで延ばしていく
●かかとを高く上げたときにぐらつく場合は、かかとの位置を低くしてもかまわない。ぐらぐらと不安定な状態でもかかとを上げ続けることで、体の軸が整う
●つま先立ちが難しい場合は、机やいすの背に手をついて行ってもかまわない
●生理中や、妊娠中期(安定期)の人も行ってよいが、痛みや不快感が現れたらやめる
●出かける前に行うと、美しい姿勢で1日を過ごせる
体の軸が整うと顔のゆがみも解消しむくみが取れてやせ体質に変わっていく
原 節宏
(日本歯科大学付属病院総合診療科 准教授・顎関節症診療センター長)
「あごを動かすとカクカクと音がして痛む」 「口を大きく開けない」などの症状は、顎関節症と呼ばれています。
そのため、以前はかみ合わせや、あごの関節の異常が原因で起こると思われていたのですが、そのほとんどは違う原因で起こっていることがわかってきました。
実はあご周辺の「筋膜」がこわばっていることから、痛みや口の開きにくさが生じているのです。
筋膜は、全身の筋肉や内臓などを包んでいる膜で、筋肉を構成する筋線維の深くまで入り込んでいます。
そして、くまなく全身に張り巡らされていることから、「第2の骨格」とも呼ばれています。
私は顎関節症を改善させるために、主に首から上の部分の筋膜を研究してきました。
しかし、筋膜は全身を包み込んでいるので、研究の範囲を広げようと考えました。
そして、首から下のエクササイズのエキスパートである香取知里さんと日本歯科大学の顎関節症診療センターで研究を開始しました。
こうして顔と体を連動させて筋膜にアプローチするメソッドを開発し、指導者の育成も行っています。
私が研究してきた分野で考えると「タオルを脚で挟む」エクササイズには次の効果が期待できます。
① 筋膜が蓄えてしまう全身のむくみが取れる
②顔とあごのゆがみが解消する
③ 基礎代謝が上がり、やせやすくなる
それぞれの効果について説明していきましょう。
体の軸が整うと顔のゆがみが取れる
① 筋膜が蓄えてしまう全身のむくみが取れる
タオルを脚で挟むエクササイズで、むくみはじわじわと取れて、やせたように見えるでしょう。
層状に重なった構造をしている筋膜の中には、血管やリンパ管がクモの巣のように張り巡らされています。
そのため、筋膜がこわばって動きが悪くなると、細胞の外にある水分がリンパ管に取り込まれにくくなって、むくみが発生します。
そのときのむくみは水のようにサラサラしたものではなく、溶け始めたゼリーのような材質になっています。
タオルを脚で挟むエクササイズでは、太ももの内側にある内転筋が収縮すると同時に、おしりの外側にある中臀筋や背中の広背筋が伸展した状態で30秒ほど保たれます。
このときに、重なった筋膜の面と面がずれて動き、リンパ管への入り口が長時間広がります。こうして、細胞の外にある、ゼリーのような流れにくい水分が回収されるのです。
②顔とあごのゆがみが解消する
顔がゆがむ原因は、体の軸がゆがんでいることにあります。
私たちは2本の足で立ち、体重の約10%の重さの頭が最も高い位置にあるという、非常に不安定な構造をしています。
体の軸がゆがみ、骨盤や肩の高さが水平ではなくなると、体は頭を傾けることでバランスを保とうとします。頭だけでバランスが取れないくらい体の軸がゆがんでいると、あごをずらしてバランスを取ろうとします。
こうしてあごの位置がずれ、左右がアンバランスになっていくのです。
タオルを脚で挟むエクササイズで体の軸を整えることを優先すれば、頭とあごの傾きが修正されて、顔のゆがみも解消されます。
顔への効果を高めるには、エクササイズの前にあごのストレッチを行うといいでしょう。
③ 基礎代謝が上がり、やせやすくなる
体の軸が整って体幹が安定すると、手足を動かせる範囲が広がります。こうして日常生活でも筋肉をたくさん使えるようになれば、筋肉量は増えていきます。
筋肉はエネルギーを大量に消費する組織なので、筋肉量が増えただけでエネルギー消費量も増えます。安静時に消費される必要最低限のエネルギー量である基礎代謝も上がって、やせやすい体に変化するのです。
【顔のゆがみ解消に効果的なあごのストレッチ】
①下あごの右側に手のひらを当て、下あごを左方向に動かして30秒間キープ
②下あごの左側に手のひらを当て、下あごを右方向に動かして30秒間キープ
ゆっくりと行うことがポイント
顎関節症に限らず、全身の痛みには筋膜のこわばりが関係しています。
その原因は、体を動かさないこと。例えばいすに座って長時間パソコンで作業を行ったり、スマートフォンを操作したりすると、筋膜がこわばって首や肩が痛むのです。
ですから、できるだけ体をこまめに動かすことが大事です。すでに痛みが現れているときは、鎮痛剤を飲んででも運動したほうが、早くよくなります。
加えて、ゆっくりと体を伸ばしてから30秒以上維持したときに、筋膜のこわばりは解消します。
反動を使った1~2秒の動きでは逆効果という研究データもあります。タオルを脚で挟むエクササイズでもかかとをゆっくりと上げ下げし、つま先立ちを30秒維持するように心がけてください。