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【100歳まで元気に働くには】ギネス認定!92歳の現役総務課長の健康の秘訣

今に集中して生きるのが
92歳まで現役の秘訣

世界最高齢の総務部員にギネス認定!

私は1930年(昭和5年)大阪生まれ、大阪育ちの浪速っ子で、今年の5月で92歳になりました。今でも平日の午前9時から午後5時半までフルタイムで勤務しています。

勤務先は大阪市西区にある「サンコーインダストリー株式会社」という、ねじ専門商社で、「総務部長付課長」として働いています。

現在の主な仕事内容は、経理事務とTQC(全社的な品質管理)活動事務局の運営です。

今年で勤続66年。会社からは、「100歳まで現役で頑張ってください」と言われていますし、私もそのつもりです。

2020年11月には、「世界最高齢の総務部員」としてギネス世界記録に認定されました。この世界一の称号は、私にとって想定外の出来事で、大きな励みになりました。

これも一日一日を地道に積み重ねた結果です。多くの仲間たちに恵まれて、会社とともに成長できたことは、私の貴重な財産になっています。

私はかつて新卒採用のプログラムやツールを作る仕事を任されていました。今でも、新入社員研修で仕事の基本について講義したり、創業者の奥山好太郎、現会長(2代目社長)の奥山泰弘、現社長の奥山淑英という3代にお仕えしている“語り部„として、会社の歩みについて語ったりしています。

現会長より11歳年上で、勤続年数も長いことから、私にしかわからない経緯も少なくないからです。

2020年、「世界最高齢の総務部員」としてギネス世界記録に認定された玉置さん。認定式では「積小為大」という言葉で感想を述べた

家族を守らなければという義務感が原動力に

私がサンコーインダストリーに入社したのは1956年(昭和31年)、25歳のときでした。実は、今の会社は、私にとって3社目の職場です。そこに至るまでには、次のような紆余曲折がありました。

私が15歳だった1945年(昭和20年)、約4年間続いた太平洋戦争が終わりました。くしくもこの年、一家の大黒柱だった父親が亡くなりました。56歳の若さでした。

父は生まれつき小柄で体が壮健なほうではなく、戦時中の徴兵検査では「丙種合格」となり、今だから言えることですが、幸いにも戦地に送られることはありませんでした。

丙種合格とは、身体検査の結果、「甲種」「乙種」に次いでの合格ではあるものの、現役には適さず、「国民兵役」に編入されるものです。

父は「聯合紙器株式会社」(段ボールで知られる「レンゴー株式会社」の前身)で働き、終戦の年に定年を迎えたのですが、終戦にともなう膨大な残務処理に追われているうち、それまでの度重なる無理がたたり、定年後に亡くなってしまったのです。

15歳の私の下には12歳の妹、それに8歳と5歳の弟がいました。当時、母は39歳でしたが、お嬢様育ちで体も丈夫でなかったことから、「父に代わって、私が頑張らないと一家が路頭に迷ってしまう」という義務感が私に芽生えたのです。

あのときの義務感は、今日まで私が働くうえでの原動力になっています。

大阪府内の商業高校を卒業した私は、すぐに働き始めました。

最初の職場は、学校の推薦で入った生命保険会社でした。総務部に勤務しましたが、いろいろと事情があって3年で退職しました。

その次は紡績会社に勤務。ここでは労務管理の仕事を任されていました。ですが、他社との合併で、会社が大阪府から三重県に移ることになり、小さい弟たちがいて大阪を離れられないことから、退職せざるを得ませんでした。

そして、従姉妹の紹介で入ったのが現在の勤務先、サンコーインダストリーというわけです。

「今を生きる」ことに集中する

2020年、「世界最高齢の総務部員」としてギネス世界記録をちょうだいしましたが、私は認定式の直前まで認定されたことを知りませんでした。

認定式でいきなり感想を聞かれ、驚きながら口をついて出たのは、「積小為大」という言葉でした。これは江戸時代の思想家、二宮尊徳の言葉で、「小さな努力の積み重ねが、大きな成果につながる」という意味です。

私は92歳の今も働いていますが、それは一日一日の積み重ねの結果でしかありません。はじめから、90歳を過ぎても働き続けようと思っていたわけではありません。

ただし、私には長年のモットーがあります。それは「今日頑張れたら、明日も頑張れる」というもの。

私は50年ほど、毎朝30分のヨガを続けています。ヨガでは瞑想もしますが、その極意は「今を生きることに集中する」ということ。明日がどうなるかを考える前に、今日を精いっぱい頑張ればいいのです。

今日の頑張りは、きっと明日につながります。だから、明日も頑張れるに違いない。私は長年、そう思い続けています。

寝て起きたら、また新しい日が始まります。その繰り返しで一日一日をリセットして、新たな気持ちで「今を生きる」ことを実践しているだけなのです。

私は、今日は昨日の続きではないと思っています。朝起きた瞬間、「まだ眠たい、二度寝しようかな」とか「着替えて会社に行くのがしんどい」などと思ってしまう人は、昨日がまだ終わっておらず、リセットできていないのかもしれません。

昨日、何か失敗したとしても、それを翌日まで持ち越してクヨクヨしてもしかたがありません。過ぎたことは、あくまで過去。昨日のことは、もうやり直せないのですから、リセットして前を向いて、今日を懸命に生きるしかないのです。

92歳の今でも毎日ちょっぴり成長している

「今日頑張れたら、明日も頑張れる」と思えるもう一つの理由は、人はいくつになっても少しずつ成長できるからです。筋肉だって鍛えれば、何歳になっても成長できるそうです。

子どもは、お母さんのおなかにいるときから、日々スクスクと成長しています。生まれておなかから出た後も、成長は止まりません。寝返りが打てるようになり、ハイハイをし始め、やがてつかまり立ちをして、自分の脚で立ち上がって歩き始めるのです。

会社員としての成長も、同じようなことです。入社したてで何もわからないところから、日々経験を積み、スキルアップしていきます。赤ちゃんのような急成長ではないとしても、仕事の面では日一日と前進し、成長していると言っても過言ではありません。

私は92歳になる今でも、昨日よりも今日、今日よりも明日のほうが、ちょっぴり成長しているという実感があります。

今日より明日は少しでも成長していると思うからこそ、「今日頑張れたら、明日も頑張れる」のです。

パソコンが導入されると毎日ワクワク働いていた

私が働くうえでの指針をもう一つ挙げるなら、「いつまでも好奇心を失わない」ことでしょうか。

気候変動の研究で2021年のノーベル物理学賞に選ばれた眞鍋淑郎さん(米プリンストン大学上席研究員)は、「最もおもしろい研究とは、好奇心が原動力となった研究だ」とおっしゃっています。

好奇心が重要なのは、私たちの仕事も同じではないでしょうか。何にでも好奇心を持ち、自分なりのアイデアで工夫を重ねていたら、毎日のルーティーンワークですら楽しくなってきます。
「明日はこんなことを試してみよう」という気持ちになれば、明日がやってくるのが待ち遠しくなります。

40年ほど前の1981年、会社にパソコンが導入されたとき、私は51歳でした。

私が担当していた経理事務では、それまで手書きで台帳を記入していたため、どうしても転記や合算の間違いなどが発生していました。パソコンを活用すれば、そうしたミスが減らせるというので、「こんないいものはない!」と興味が湧いて、導入当時は毎日ワクワクしながら働いていたことを覚えています。

また、1983年からはTQC(全社的な品質管理)活動を展開していますが、いってみれば私は、昔から“ひとりTQC活動〟を続けてきたようなもの。好奇心に導かれて仕事の質を上げる努力を続けてきたのです。

こうした、仕事を通じた「自己変革」は、私にとって楽しくてたまらないことなのです。

会社のデスクでパソコン業務をする玉置さん。「エクセル」は達人級に使いこなせるという

健康の秘訣は毎朝のヨガと般若心経、
足腰を鍛える〝BMW〟通勤

毎日決まった時間にバランスのよい食事を

私は長年、病気らしい病気をしたことがありません。

自分の生活が不摂生だとは思いませんが、かといって摂生に努めているわけでもありません。だから、「健康の秘訣はなんですか?」と聞かれると困ってしまいます。

秘訣らしい秘訣があるとしたら、毎日決まった時間にバランスのとれた食事をとるように心がけていること。健康の基本は食事だといいますから、その点で、私は合格点がもらえると思っています。

私は3歳年下の妹と二人暮らしです。二人で役割分担しており、私が外で働いて稼ぐかわりに、妹は家事全般を担当してくれています。食事も妹が用意してくれます。料理上手なんです。

平日の朝食はトースト、季節の果物3種盛り、牛乳、野菜ジュースという簡単な洋食が定番です。休日の朝は、お互いに時間に少し余裕があることもあって、少し手間をかけた和食。私はネバネバ系が大好きなので、白いご飯、納豆、オクラ、豆腐のみそ汁といったメニューが多いです。

昼食は、週2回くらいは、妹がお弁当をつくって会社に持たせてくれます。それ以外は、会社近くのコンビニで買ったお弁当を食べています。もともと少食であまり量が食べられないので、コンビニでは量が少なめのお弁当を選ぶようにしています。

夕食は、仕事を終えて帰ってから、うちで食べています。妹が用意して待ってくれているのです。夕食は和食で、主菜は魚系が多いです。

妹はベジタリアンで肉や魚を食べないので、それ以外にも酢の物やおひたしといった野菜料理をつくっています。私もそれを小鉢でいただいています。だから、栄養に偏りがないのでしょう。

妹は私の専属料理人のような存在であり、私の健康を守ってくれている大事な存在です。いつも感謝しています。

毎朝のヨガでは呼吸と瞑想を行う

私は50年ほど毎朝、ヨガを続けています。会社が加入する健康保険組合の研修に、興味本位で参加したのがきっかけでした。

ヨガにもいろいろな流派があります。私が研修会で教わったのは、佐保田鶴治さんという哲学者でもある先生がはじめた流派のヨガでした。

佐保田先生は偶然にも私の親戚でしたので(教室では先生のお弟子さんが教えてくださいました)、これも何かのご縁だと思ってしばらく続けていたら、見事にハマッたのです。

ヨガというと、体を柔軟に使ってアクロバティックなポーズをとるものだと誤解する人も多いようです。本来たいせつなのは、呼吸法と瞑想です。

私はストレッチ程度に体を伸ばすことはできますが、50年もやっているのに、難しいポーズはとれません。呼吸法と瞑想だけでも、ヨガの恩恵は十分得られると思っているのです。

呼吸法といっても、特別なものではありません。ごく簡単です。

鼻から大きく息を吸ったら、いったんおなかの下に空気をためて、それを口から吐きます。吐くときは一度に深く吐き出すのではなく、ハッハッハッというふうに小刻みに吐き切ります。そして最後に、頭のてっぺんで息を止める意識を持つと、脳が活性化されるそうです。

呼吸は全身を動かすエネルギーのもとですから、元気も出てきます。

ヨガの瞑想にはさまざまな方法がありますが、私が実践しているのは、自分にとってラクな姿勢で床にあぐらをかいて座り、背すじをピンと伸ばした状態で目を軽く閉じるだけのシンプルなやり方。それから瞑想に入ります。これでストレスが霧散するのです。

呼吸法と瞑想で計30分前後。心身がシャキッとして、今日も一日頑張ろうという明るい気分になれるので、一度試してみてください。

般若心経で体にエネルギーがあふれる

毎朝、ヨガの瞑想を終えたら、私は『般若心経』を読んでいます。

この流れは誰かに教わったわけではなく、私が自分で考案した独自のメニューです。私のなかでは、ヨガの瞑想と般若心経はひと続きになっています。

ヨガと般若心経がどう関わっているのか、私にはわかりません。ヨガも般若心経も、もとを正せばインドにルーツがありますから、どこかで関わりがあるのではないでしょうか。

私が実践しているヨガの創始者である佐保田鶴治先生も、『般若心経の真実』(人文書院)という本をお書きになっています。

瞑想では、気持ちを鎮めて自分を“無„の状態に持っていきます。そして般若心経では、すべては“空„であるという教えをひたすら唱えるのですから、私にとってはほとんど同じものなのです。

般若心経の唱え方は、会社の禅寺研修で20年ほど通い続けた「黄檗宗萬福寺」というところで教えてもらいました。

般若心経の唱え方には、さまざまなスタイルがあるようですが、私は研修で教わった唱え方が身についています。それは10分くらいかけて、ゆっくり唱えるやり方です。

声をゆっくり出すことで、呼吸も大きくなりますから、体の隅々までエネルギーが満ちあふれる感じがしてきます。

ヨガも般若心経も「よく長いこと続きますね」と感心されることがあります。ヨガをやり般若心経を唱えると気持ちがよくて心が鎮まり、新しい一日のスタートを切るのにふさわしい清々しい気分になります。

ヨガも般若心経も気持ちがいいから、自然に続けられるのです。そして一度、習慣になってしまうと、やらないと気持ち悪くなります。ですから、毎日飽きもせずに続けられるのでしょう。

毎日“BMW”で足腰を鍛える⁉

私が平日、ヨガと般若心経、朝食を終えて自宅を出るのは、午前7時半頃です。それから会社まで片道1時間ほどかけて「BMW」で通勤しています。

BMWといっても、ドイツ製のあの有名な高級車のことではありません(私は自動車免許を持っていません)。BMWとは、「B=バス、M=メトロ(地下鉄)、W=ウォーキング(歩く)」の頭文字をとったもの。

私が妹と二人で住んでいるのは、大阪府北部の豊中市です。自宅を出て、まずは大阪市の中心部まで乗り入れている鉄道(メトロと相互乗り入れ)の駅まで、路線バスに乗って向かいます。自宅からほど近いバス停からの所要時間は、20分くらいです。

メトロに乗ってから、勤務先の最寄り駅(本町駅)まで、乗り換えなしで20分前後で到着します。本町駅から会社までは、徒歩で5~6分ほどです。

以上、片道1時間のBMWが毎日の日課です。仕事が終わったら、今度は逆のルートをたどって「WM B」でうちまで帰ります。一日の歩数は往復の通勤のみで6000歩程度です。

バスでは座れる日もありますが、通勤時間のメトロでは空席がなく、立っていることも少なくありません。こうした毎日の通勤が、私の健康づくりに役立っていると思います。

「老化は足腰から」といわれます。足腰が立たなくなると、現役で仕事をするのも難しくなります。平日、往復2時間のBMWで知らない間に、私の足腰は鍛えられているのでしょう。

たまに「歩くのが速いですね!」と驚かれます。急ぎ足になっているつもりはないのですが、それは足腰がまだ衰えていない証しなのでしょう。

このBMWは、これからもずっと続けたいと思います。

この記事は『ゆほびか』2022年11月号に掲載されています。