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【2型糖尿病】医師が提唱する「脱インスリン」とは?膵臓の脂肪を減らす食事と運動のポイント

2型糖尿病患者の8割はインスリンを分泌

希望者の83%がインスリン注射から離脱

北海道北見市にある私のクリニックには、全国から「インスリン注射をやめたい」と言う、糖尿病の患者さんがよく相談に訪れます。つい先日も、若い患者さんが二人、来られました。

「インスリン注射を始めたら、一生やめられない」。そう思っている人は多いでしょう。

しかし、インスリン注射はやめられます。実際、当院では、これまで多くの患者さんが注射から離脱しています。

私はずっと前から、インスリン注射はしないほうがいいと考えてきました。また患者さんからも、
「インスリン注射はしたくない」
「やめたい」
という声をよく聞きます。

しかし、その声になかなか応えることができないでいました。

そんな状況を変えるきっかけになったのが、今から14年ほど前に出会ったAさん(70代・男性)という患者さんです。

リハビリ病院に入院していたAさんは、退院後、北海道を離れ、関東に住む息子さん一家の近くの介護施設に入所することを希望していました。Aさんはインスリン注射を1年以上、20単位も打っています。
注射は、本人または家族、もしくは看護師でないと、打ってはいけないことになっています。ところが、入所予定の介護施設には、看護師がいなかったのです。

「これは困った」と、私のところに相談に見えました。

当時は、インスリン注射を1年以上20単位も打っていたら、膵臓からインスリンが分泌されていないというのが定説でした。

そこで私は、本当にインスリンが分泌されていないか調べるために、AさんにCPR検査(後述)を行いました。すると、膵臓からしっかりインスリンが出ていることがわかったのです。

インスリンが出ているなら、インスリンの効きをよくする飲み薬を使えばいい。そう考え、新しく出たばかりの、当時は画期的な薬だったインスリン抵抗性改善薬を使ってみることにしました。結果、それがうまくいき、Aさんはインスリン注射から飲み薬に切り替えられたのです。

以来10年以上、私は希望する患者さんがインスリン注射をやめるためのお手伝いをしています。その際、必ず行うのが、Aさんにも行ったCPR検査(Cペプチド検査)です。
「CPR」は、膵臓でインスリンが分泌される直前にインスリンと分離される物質で、インスリンの分泌を知る指標になります。24時間にわたってためた尿から、CPRを測定します。

驚いたことに、2型糖尿患者のほとんどに、十分な量のCPRが検出されました。インスリン注射を打っている人でも、インスリンは分泌されていたのです。

そこで私はインスリン注射をスパッとやめて、インスリンの作用を高める複数の飲み薬に切り替えました。

それによって、当院ではこれまで83%の人がインスリン注射からの離脱に成功しています。

インスリン注射をやめられるとわかると、患者さんの顔がパッと輝き、明るくなる

インスリンは飲み薬より49%も死亡率が高い

私がこれほどまでにインスリン注射からの離脱にこだわるのは、インスリンに少なからぬ弊害があるからです。

インスリンは量を間違えて多量に打つと、死亡することもある怖い薬です。また、インスリン注射を打った後、食事がとれなかったり、食事の量が少なかったりすると、低血糖を起こすことがあります。

血糖値は、多少高くてもそれほど危険なことはありません。しかし、下がりすぎると、命の危機にさらされることがあります。意識を失って昏睡状態に陥ったり、心血管系の病気や脳血管障害を発症させたりする原因になるのです。

その代表的な病気が、心筋梗塞です。心筋梗塞は、心筋に血液を送っている血管(冠動脈)が閉塞して、心筋が酸素不足になる病気です。突然死を起こすこともあり、発症したときが死ぬとき、という恐ろしい事態を引き起こします。

こういう重大な弊害があるにも関わらず、日本でインスリン注射が使われているのは、それが儲かるシステムになっているからです。

だから、CPR検査を行う病院やクリニックがほとんどないばかりか、患者さんの血糖値が安定していても、医師から「やめてみましょう」と言われることはないのです。

また、日本では血糖値を厳格にコントロールして、ヘモグロビンA1c(※1)を7%未満に維持するよう指導されており、インスリンへの依存が強い傾向があります。

しかしそれを覆すような研究結果が、海外で相次いで報告されました。

一つは2008年2月にアメリカで報告された「アコード試験」です。これは心血管疾患を発症させやすい、肥満などのリスクを持った糖尿病患者約1万人を対象に行った臨床試験です。

この試験では、血糖値を厳格にコントロールして、正常値(ヘモグロビンA1c6・0%未満)を目指すグループと、比較的緩やかにコントロールして7・0~7・9%に保つグループに分けて、追跡調査を行いました。

ところが、血糖値を厳格にコントロールしたグループの方が22%も死亡率が高く、アコード試験は打ち切りとなったのです。そして、血糖コントロールは、ヘモグロビンA1cが7・0%になるくらいが最も望ましいという結論に達しました。

厳しすぎる血糖コントロールは、患者さんにとって大きなストレスになります。またインスリンを大量に使って血糖値を正常化すると、低血糖を誘発しやすくなります。そういうことが、死亡率が上がった原因ではないかと推測されます。

2年後の2010年、アコード試験の結果を裏づける衝撃的な論文が、イギリスの医学誌『ランセット』に掲載されました。

それは、インスリンと2種類の飲み薬で治療を受けている4万8000人のカルテのデータに基づいて、20年近くかけて行ったイギリスの調査です。

対象者の血糖値と死亡率の関係を調べたところ、死亡率はヘモグロビンA1cが7・1%のときに最も低くなり、それを境に上昇に転じました。そして、ヘモグロビンA1cが6・0%まで下がると、死亡率は52%まで上がったのです。

また、インスリン治療を受けた人と、飲み薬の治療を受けた人で死亡率を比較すると、インスリン治療は飲み薬よりも49%も死亡率が高かったのです。

誰もが、血糖値は低い方がよく、正常域まで下げれば長生きできると思っていました。ところが、そうではなかったのです。

それでもなお、血糖値は厳格にコントロールしなくてはいけないのでしょうか? インスリン治療は有効なのでしょうか? 医師も患者さんも、もう一度、糖尿病の治療を見直していただきたいと思います。

革新的な薬の進歩によりインスリン離脱は容易に

昨今、新しい薬が次々に開発され、安全でよく効く薬が出てきました。その代表的な薬が、GLP-1受容体作動薬とSGLT-2阻害薬です。

GLP-1は小腸から分泌されるホルモンで、膵臓にあるGLP-1受容体と結合してインスリンの分泌を促し、血糖値を下げます。

この薬は、食事をして血糖値が上昇したときにインスリンの分泌を高めるので、インスリン注射のように低血糖を起こすことはありません。また、食欲を抑えるので、肥満も予防できます。

SGLT-2阻害薬は、腎臓(尿細管)からの糖の再吸収を阻害し、糖を尿から排泄して血糖の上昇を抑える薬です。

最新の研究では、透析(※2)を遅らせる作用があることもわかりました。この薬も、単独で使えば低血糖などの副作用はありません。低血糖が起こらなければ、心筋梗塞や脳梗塞の死亡率も低減します。

※2 腎臓の働きの一部を人工的に補う治療法。血液を体内から取り出し、老廃物・余分な水分を取り除き、浄化して体内に戻す治療

もちろんインスリン注射は、1型糖尿病のように自前のインスリンがまったく分泌されないかたや、血糖値が高くてどうしようもない患者さんには必要な薬です。

私は今、約1200人の糖尿病患者さんを診ています。その中には難しい患者さんもいて、緊密に連絡を取り合いながら血糖値をチェックしています。

糖尿病治療で必要なのは、こうした患者さんの顔が見える、きめ細かい指導だと思っています。それが患者さんのストレスを減らし、血糖値を安定させることにもつながっていると思っています。

今は安全で効果の高い飲み薬がいくつもある

超低カロリー食により1年で体重が10㎏減

糖尿病といえば、血糖値にばかり目が向けられがちですが、血糖以外に糖尿病を悪化させるものがあります。

それは、脂肪です。

糖尿病は肥満と切り離せず、肥満の増加が糖尿病の蔓延に拍車をかけています。これは世界的な傾向で、日本も例外ではありません。

肥満は膵臓の働きを弱め、インスリンの分泌を低下させます。

イギリス・ニューキャッスル大学のロイ・テイラー博士は、肥満を解消する超低カロリーの食事療法を開発し、糖尿病への影響を調べました。すると、驚くべき結果が出たのです。それが、イギリスの医学誌『ランセット』(2017年)に載ったのでご紹介しましょう(※1)。

※1 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(17)33102-1/fulltext

調査は、糖尿病歴6年未満の、2型糖尿病患者を2つのグループに分け、A群には超低カロリー食を、B群のコントロール群(対照群)には糖尿病のガイドラインに沿った食事を3カ月間とってもらう、というものでした。

その後、徐々に通常食に戻し、結果を比較しました。なお、超低カロリー食は、1日825~853㎉です。

被験者は149名ずつで、平均体重とヘモグロビンA1cはそれぞれ、101㎏と99㎏、7・7%と7・5%と、AとB両グループに差はありません。

1年後、A群(超低カロリー食)の24%が、15㎏以上の減量に成功しました。ヘモグロビンA1cは46%が6・5%の「寛解」状態になり、糖尿病薬を中止できました。

寛解とは、治ったとは言えませんが、ほぼ同じ状態を維持できているという状態です。

一方、B群(対照群)で寛解に至ったのは4%に過ぎず、15㎏以上の減量はゼロでした。

また、平均体重減少は、A群(超低カロリー食)の10㎏に対して、B群(対照群)は1㎏、ヘモグロビンA1cはA群(超低カロリー食)が0・9%低下したのに対し、B群(対照群)は、0・1%増えていました。

中性脂肪も、A群(超低カロリー食)はB群(対照群)より20%も有意に低下していました。

このことからわかるのは、2型糖尿病でも、発症後そんなに時間が経っていなくて軽度であれば、超低カロリー食で寛解する可能性があるということです。

これまで、糖尿病は一生つき合っていかなければならない病気とされていましたが、その概念が変わる可能性が見えてきたのです。

肝臓と膵臓にたまった脂肪が糖尿病を誘発

テイラー博士が考案した超低カロリー食のベースにあるのは、「ツインサイクル仮説」という理論です。

これは博士が2008年に提唱したもので、「肝臓と膵臓に過剰に蓄積された脂肪がインスリンの分泌やインスリンの反応性を阻害し、糖尿病を引き起こしている」というものです。

内臓脂肪と糖尿病には深い関係があったのです。

しかし肝臓の脂肪(脂肪肝)はよく知られているものの、膵臓の脂肪はあまりなじみがないでしょう。

超音波検査をすると、脂肪肝のある人は、たいてい膵臓も白く光っています。これは脂肪が沈着しているからで、膵臓に脂肪が沈着すると、膵臓の機能が低下し、インスリン分泌能も落ちてしまいます。糖尿病にとって、かなりまずい状態です。

私は、糖尿病の患者さんには、できるだけ膵臓の画像を見てもらいます。血液検査は数字の羅列なので、数値が悪くても実感が伴いませんが、画像で見ると脂肪が蓄積しているのがはっきりわかります。「これは脂に気をつけなければ」と、嫌でも自覚できます。

内臓脂肪は、食事と運動で体重を落とせば、減ります。肝臓や膵臓の脂肪がなくなれば、テイラー博士の論文にあったようにインスリン抵抗性も改善していくことが期待できます。

糖尿病を改善する運動と食事のポイント


そこで、やっていただきたいのが、食事と運動の見直しです。ここではざっくりとしたポイントをご紹介しましょう。

食事のポイント

日本人の肥満は、欧米型の肥満と違ってそこまで太っていないので、超低カロリー食をする必要はありません。1日1600㎉を目安に、規則正しい食事をするのが基本です。その上で、次のことを心がけてください。

❶ 食物繊維をたっぷりとる
 食物繊維は非常に大事です。腸内細菌のエサになって腸内細菌を元気にしたり、血糖値の上昇を抑えたり、コレステロールの低下を助けます。また、便秘の改善や大腸がんの予防にも役立ちます。
 お勧めは、納豆です。3パックで食物繊維は11gと、かなり豊富です。1日の食物繊維の目標値は20g(※2)なので、野菜と合わせてとるとよいでしょう。

※2 厚生労働省策定の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、一日あたりの「目標量」(生活習慣病の発症予防を目的として目標とすべき摂取量)は、18~64歳で男性21g以上、女性18g以上

❷ 揚げ物は極力避ける
 天ぷら、トンカツ、唐揚げ、フライは普段は食べないようにしましょう。
❸ 白いご飯、白いパンをやめる
 精製した白い食品は、血糖値を急速に上げます。穀類は、玄米や全粒粉パンに変えると、血糖値の上昇が緩やかなうえ、食物繊維もとれるので一石二鳥です。
❹ 塩分は控える
 日本人の塩分摂取は一日10gと言われています。これを6g以下に抑えましょう。

食物繊維の豊富な食事で膵臓の脂肪を落とす!

運動のポイント

運動は大事です。私の患者さんで、毎日1万5000歩歩いて糖尿病の薬を全てやめられた人がいました。その努力はすばらしいのですが、そんなに長く歩かなくても大丈夫。次に紹介する運動なら、誰でも無理なくできます。

❶ 20分歩く
 歌うことはできないけれど、しゃべれる程度の速足で歩きます。20分でも脂肪燃焼効果があり、血液循環もよくなります。

❷ 20分の雑巾がけ東京にある心療内科・神経科赤坂クリニックの貝谷久宜理事長から教えていただいた運動です。雑巾がけなら家の中で行えますし、20分もするとヘトヘトになるくらいハードです。終わった後は家じゅうがピカピカになるので達成感があり、家族にも喜ばれます。
それ以外でも、買い物、階段の上り下り、掃除、犬の散歩など、体を動かす仕事は全部運動になります。

こういった普段できることで血糖値を下げることが薬より大事だと、私は考えています。

たまにはケーキを食べたっていい

糖尿病は、血糖値の急激な上昇を抑えるだけでなく、血糖の変動をできるだけ小さくし、安定させることも大事です。それに役立つのが、持続血糖測定器「リブレ」(※3)です。

※3 スマートフォンと連動させて24時間血糖値が測れる器具。主治医に相談するか、ドラッグストア、ネットでも購入可能

血糖値は通常、簡易測定器で指先に針を刺し、一回ずつ測ります。ところがリブレは、腕に小さな装置を貼りつけるだけ。これで24時間持続して、14日間血糖値を測れます。

水にも強いので、入浴中も測定できます。数値は24時間いつでも、スマートフォンで見られます。つまり、点ではなく線として、血糖値の変化を把握できるのです。

これをつけると、血糖値の急激な上昇や夜間の低血糖、また何を食べると血糖値が上がるのかがわかるので、食べるものにも気をつけるようになります。

リブレをしただけで、ヘモグロビンA1cが0・5%ほど下がったという報告もあります。血糖値の管理という点で、非常に有効なのです。

最後に、ストレスについても触れておきましょう。

ストレスをためすぎたり、過剰なストレスにさらされたりすると、血糖値が上がりやすくなります。これは、ストレスによって交感神経(※4)が活発になり、血糖値を上げるアドレナリンやグルカゴンなどのホルモンが増えるからです。また、ストレスが多いとうつ病になりやすく、うつ病から糖尿病になることもあります。

※4 自律神経の一種で、活動時に働く神経

ですから、血糖コントロールが厳しすぎたり、食べたいものも食べずに我慢したりしていると、逆に血糖値が上がってしまいます。これまで見てきたように、ヘモグロビンA1cは7・0%くらいのほうが長生きできるのです。

軽度の糖尿病なら、そんなに厳しくコントロールすることはありません。甘いものが好きな人は、たまにはケーキを食べてもかまいません。

そのときは、ゆっくり味わいながら食べてください。そうやってストレスを解消するほうが、むしろ糖尿病にはプラスになります。

人生を楽しむことも時には必要
この記事は『ゆほびか10月号に掲載されています