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【動脈硬化の真犯人】とは?6000人の血管データでわかった血管の新常識

突然死の要因は動脈硬化

 昨日まであれほど元気だった人が突然亡くなる「突然死」は、年齢に関係なく起こりうることです。近年、比較的若い芸能人やスポーツ選手などが、血管障害に関わる病気で突然死したという話をよく聞きます。

 3年前、人気俳優の大杉漣さんが急性心不全で急逝され、世間を驚かせました。5年前には、芸人の前田健さんも心不全で突然死されています。「まだお若いのに、なぜ?」と思われたかたも多いのではないでしょうか。

 また、歌手の櫻井和寿さん、星野源さん、KEIKOさん、アナウンサーの大橋未歩さんなど、若くしてやクモ膜下出血など、脳血管の病気を患うかたも増えています。

 これらの脳や心臓の病気は、血管が詰まることが原因で発症します。血管が詰まる主要因は「動脈硬化」です。一般に、動脈硬化とは動脈が硬くなり、もろくなった状態のことだと思われています。

 実は、そうではありません。血管壁の内側に、脂質の塊である「プラーク」が堆積した状態のことを動脈硬化と言うのです。プラークは、お粥のようにジュクジュクした状態であることから、日本語では「熟種」と呼ばれています。

 プラークが厚くなると、血管の内腔が狭くなって血流が悪くなったり、ひどい場合には詰まって血流が途絶えたりします。その結果、脳梗塞や狭心症(※1)、心筋梗塞(※2)などの血管障害系の病気が起こるのです。

※1心臓の筋肉(心筋)に供給される酸素が不足するため、胸部に一時的な痛みや圧迫感が起きる病気
※2心臓が酸素不足になり壊死する病気

動脈硬化の常識は誤解ばかり

 これまでの動脈硬化の医学的な常識は、実は間違いばかりです。例えば、動脈硬化は、「加齢や高血圧・糖尿病などの生活習慣病が要因となり、血管壁の内側に、コレステロールがプラークとなってへばりつくことで起こる」と言われています。

 また、一度血管内に蓄積したプラークは取り除けない、進行した動脈硬化は元の健康な血管には戻らないというのも医療の常識でした。

 そのため、動脈硬化を防ぐには、薬で「悪玉LDLコレステロール」を下げて、高血圧を改善し、動脈硬化が進行しないようにすることがたいせつだといわれてきたのです。

 でも、これはおかしいと思いませんか?加齢や生活習慣病が原因なら、なぜ20~30代で生活習慣病のない若者が、脳梗塞や心筋梗塞で突然死するのでしょう。

 それは、LDLコレステロールがプラークの原因ではないからです。ちなみに、高血圧が原因で動脈硬化になるわけでもありません。年を取ると、確かに血管は硬くなります。しかし、肌が老化しても肌としての役割は果たせるように、「血液を流す」という血管本来の役目は、硬くなった血管でもじゅうぶんに果たせるのです。

 こうした動脈硬化の常識をなぜはっきり否定できるのかというと、私は10年以上にわたり、およそ6000人の患者さんの血管エコー検査を行い、約5万回分の膨大なデータを分析し続けたからです。

 私はもともと肝臓の専門医でした。そんな私がなぜ動脈硬化の研究をしているのかというと、ある肝臓ガンの患者さんが心筋梗塞で倒れたことがきっかけでした。

 実は、私の父も心筋梗塞により62歳で突然死しています。そうしたこともあり、私は、その患者さんの肝臓エコーのついでに、頸動脈の検査も行いました。心筋梗塞を発症するほど、頸動脈にプラークがたまっているのだろうと予測したのです。

 ところが、頸動脈には何も異常がありませんでした。私は驚きながらも、何気なく頸動脈の下の右鎖骨下動脈も検査してみました。すると、そこにプラークがみっちりたまっていたのです。

 私がこれまで学んできた医学では、右鎖骨下動脈のプラークについての話は出てきませんでした。「もしかすると、この場所のプラークを調べれば、心筋梗塞の発症を予測できるかもしれない」。専門外だった私が、動脈硬化の常識を覆す一歩でした。

T‐max値が10㎜を超えると死に近づく

 以降、先述の通り、膨大なデータをもとに研究を重ね、現在では全身8カ所の血管エコーを撮影して解析する「T‐max」という独自の検査法を開発しました。この方法により、体の総プラーク量を概算することができるようになっています。

 総プラーク量がわかると、脳梗塞や心筋梗塞を完璧に防げるようになるうえ、もっと踏み込むと、その人の寿命までわかるようになりました。

 T‐maxにより8カ所すべての血管を検査し、場所ごとの最も高い4カ所の最大値の合計を「T‐max値」と言います(下図参照)。このT‐max値により、一人の人間の動脈硬化の進行度をデジタルな数字で表現できるようになりました。

 これまでの研究から、T‐max値が10㎜を超えると、ほぼその人の寿命になると判断できるようになりました。これは年齢は関係ありません。若者だろうが、高齢者だろうが、T‐max値が10㎜を超えると、命の危険が極めて高まるのです。

 下の表は、当院で行ったT‐maxの症例4762名分のデータから、年代別に平均値を算出したものです。
 これを見ると、男性は70代ですでにT‐max値が10㎜に達します。男性が女性より短命なのは、女性ホルモンの関係ではなく、男性のほうが女性より10年早くT‐max値が10㎜に達するからなのです。

 年齢とともにT‐max値が上がっていくのは寿命と相関していますが、単に加齢によってT‐max値が上がるわけではありません。長年、食生活を変えなければ、そのぶん血管内にプラークが蓄積されるためです。
 これは逆に、食生活を変えていけば、年を取ってもT‐max値を上げることなく、血管を健康に保ち、突然死を完璧に防げることを意味します。