50歳を過ぎると歩き方が高齢化する
「歩き方」でその人の年齢を推測するのは、よくあることです。ひざを曲げてペタペタと歩くのは、「高齢者っぽい」印象を与えますが、ひざを伸ばして大股に歩くと若々しく見えます。
こうした歩き方と実際の年齢を照らし合わせたのが「歩行年齢」です。アシックスではNECソリューションイノベータ株式会社と協同で、3Dセンサに向かって歩くだけで、自分の歩行年齢がわかる「歩行姿勢測定システム」を作りました。
それにより膨大なデータを集積して解析した結果、20~50歳の間では、歩行姿勢にほとんど差がありませんでした。
しかし、50歳を境に歩行が変わり、人によって大きな差が出てくることがわかったのです。まず、いちばん大きく変化するのは、「歩行速度」です。
男性・女性を問わず、50歳くらいを境に急激に歩くスピードが落ちる人が増えます。また、歩幅も50歳を過ぎると狭まってきます。
腰の曲がりが出始めるのも50歳頃からです。さらに、歩隔(正面から見たときの両足のあいだの距離)も、50歳を過ぎると徐々に広がってきます。
年齢を重ねるほど筋力が落ち、バランスを取る能力が衰えてくるので、足を左右に開くことで安定させようとするのです。これが、「歩き方の高齢化」です。
歩き方の高齢化を防ぐ方法は、歩行に対する意識を高くすることです。実際、80歳になっても30歳のように若々しく歩かれているかたもいて、そうしたかたは運動や歩行に対する意識が高い傾向にあります。
50歳を過ぎたら、それまでとは意識を変えて、歩くトレーニングをしていく必要があるわけです。もちろんそれ以前からトレーニングを始めれば、歩行の高齢化をさらに防ぐことが期待できます。
まずは、歩き方から変えていきましょう。私たちは、筋力の低下とともに、より楽で安定した歩き方をするようになる傾向があります。
歩隔を広げてつま先を持ち上げずにペタペタとすり足で歩くのは、無意識に筋力の衰えを歩き方でカバーしようとしているからです。
しかし、楽に歩こうとすると姿勢はどんどん悪くなり、さらに筋力が衰えていくという、負のスパイラルに陥っていきます。
ふだん歩くときでも、体にある程度の負荷をかけてやれば、筋力は維持され、いくつになっても元気に歩くことができると考えられます。
私たちが考える理想の歩行姿勢は、「やや速く颯爽と歩くイメージ」です。部位別に説明すると、頭は、あごを引いて、少し遠くを見ます。
体幹は、肩を開いて背筋を伸ばし、腰が曲がらないように意識しましょう。腕は、ひじを軽く曲げて、体の後ろに引くイメージで大きく振ります。
このとき、肩に力が入り過ぎやすいので、リラックスすることを意識しましょう。そして、腕振りとともに歩幅を大きくすることを意識すれば、自然とひざを伸ばして歩くようになり、歩行速度も上がりやすくなります。
ウォーキングに早歩きを取り入れよう
では、多くの人が「80歳になっても30歳のように若々しく歩ける」ように、しなやかで力強い体を手に入れるには何が必要でしょうか。
その答えは、強度の高い運動方法(歩き方)を適度に取り入れることです。その運動方法(歩き方)は、ベースとなる筋力と持久力によって異なります。
まず、ふだんあまり歩かず、運動もしない人は、最初は歩くのを習慣化することから始めましょう。10~15分程度でよいので、週4回以上、歩くようにします。
10分なら買い物や通勤時間でもクリアできます。慣れてきたら、少しずつ歩く速度と時間を伸ばしていきます。このとき、普通歩きと早歩きを交互に繰り返す「インターバルウォーキング」を取り入れましょう。
3分ごとに、普通歩きと、できる限りの早歩きを繰り返します。20分程度から始め、最大45分を目安に時間を伸ばしていきましょう。
少なくとも週に20分以上、強度の高い早歩きを取り入れると、筋力と持久力をバランスよく鍛えられることが先行研究でわかってきました。
また、最終的には、早歩きの速度は、「時速7㎞」で歩くことを目標としましょう。私たちは、時速5~7㎞を目安にした早歩きを「ファストウォーキング」と呼んでいます。
私たちが立命館大学スポーツ健康科学部の後藤一成教授と共同で行った研究では、時速7・5㎞以上でのファストウォーキングは、同速度のランニングと同等以上のエネルギー消費量になることがわかりました。
また、ランニングに比べて、足への衝撃も少ないので、筋肉や関節、骨などのケガのリスク軽減が期待されます。さらに、ひざ下のふくらはぎやすねの筋活動量も大きく、血流促進やつま先が上がった歩き方への効果も期待できます。
歩行年齢の老化をストップする!「ファストウォーキング」のやり方
歩きなれていない人は、まず歩く習慣をつける。慣れてきたら、少しずつ歩く速度と時間を伸ばしていく。普通歩きとファストウォーキング(早歩き)を交互に繰り返す歩き方で、最大45分歩くのが目標
早く歩くとエネルギー消費量が急激に増える
「なぜ時速7㎞なの?」と疑問に思ったかたも多いでしょう。ウォーキングは、ゆっくり歩いているときのエネルギー消費量はさほどではありません。
しかし、歩くスピードを上げると、同一速度のランニングに比べ、急激にエネルギー消費が増えることがわかったのです。
限界まで早く歩くと走ってしまいます。歩くよりも走ったほうが楽、と感じる境目が時速7㎞台です。一般的な歩行速度は時速4~5㎞といわれているので、時速7㎞は相当なスピードです。
実際に時速7㎞で歩いてみると、「もう走ってしまいたい」と思うはずです。この速度をキープして歩くことが、体にとって効果の高い運動になります。
女性の場合、男性よりも筋力が弱く、歩幅も小さいので、時速6㎞を目標にしてもかまいません。時速6㎞でいいと言っても、これは1分間に100m進むぐらいの早さです。
75㎝の歩幅で歩いたら、1分間に約133歩になります。これでもたいへんな運動だと思います。
ですので、先述のように、普通のウォーキングの中に、たまに早歩きを入れる、という形なら、日常でも実践しやすいと思います。
3分ファストウォーキングをして、3分普通に歩く、という繰り返しをできるだけ長く、最大でも45分を目安に歩くことが目標です。無理をせず、できる範囲でファストウォーキングを取り入れてください。
足に合った靴を履くと歩くのが楽しくなる
50歳を過ぎると歩き方が変わる話はしましたが、そもそも50歳になると足の形も変わります。
足の裏には、親指と小指のつけ根を結ぶ「横アーチ」、土踏まずの「内側縦アーチ」、かかとと小指を結ぶ「外側縦アーチ」の3つのアーチがあります(上図参照)。
これらのアーチは、着地したときにクッションの役割を果たしたり、蹴り出すときにバネの役割を果たしたりします。
このアーチは、一般的に加齢とともに潰れていきます。これが足の形が変化する原因の一つです。
特に、女性の場合、骨格が華奢なので、足形が変形しやすい傾向にあります。50歳を過ぎてからの変化で特徴的なのは、横アーチが潰れて足の幅が広くなることです。
以前はピッタリだった靴のサイズがなんだか合わなくなった、ということはありませんか?それは足の幅が広くなったことが原因かもしれません。
ほかにも、かかとが内側や前方向に傾いたり、親指の外側への変形(外反母趾)や小指の内側への変形(内反母趾)になったりする人も増えます。
また、かかとの幅も太くなります。これらはアーチの潰れと関係していることが多いのです。靴が合わなくなっていると感じたら、足に合った靴に替えましょう。
足のアーチを維持するエクササイズとして、「タオルギャザリング」をお勧めします(上図参照)。足の下にバスタオルを敷き、足の指を使って、手前に引いていく体操です。
足指のトレーニングをすることで、足裏の筋肉が鍛えられ、アーチの落ち込みを防ぐ効果が期待できます。
また、アシックスでは、こうした足の変化に合わせて、50歳未満と50歳以上に対象を分けて、ウォーキングシューズのシリーズを作り分けています。
また、通常の散歩用からファストウォーキングを実践したい人向けのシューズなど、さまざまな人や目的に合わせたウォーキングシューズをご用意しています。
歩くことに特化したウォーキングシューズを履くと、歩きやすさや心地よさを実感できるかと思います。
皆さんが足に合うウォーキングシューズで、理想の歩き方やファストウォーキングを実践し、いつまでも元気に歩けるよう願っています。