全身の血流改善が緑内障改善のカギ
高齢化社会の進行を背景に、緑内障の患者数は急速に増えました。ある調査によると、2005年度に約54万人だった患者数は、2017年には約107万人と倍増しています。
緑内障は、眼圧が高くなるなどの原因により視神経が障害され、視野が狭くなり、欠けていく病気です。40歳以上の日本人の20人に1人は発症するとされ、年齢が上がるほど発症率は増加します。
眼科医である私は、目の病気を改善するためには、目そのものを治療するだけではなく、体を健康に保つことが、治療の近道だと実感しています。
体の健康を維持するうえで、非常に重要なのは血液循環です。緑内障の患者さんは血流が悪い人が多く、目をはじめ全身の血流障害が緑内障の大きな要因の1つとなっています。
全身の血流が悪いと、網膜の毛細血管の血流も悪くなり、視神経に酸素や栄養素が届きにくくなります。その結果、視神経が損傷しやすくなります。
また、目の組織に栄養を運ぶ房水の巡りも悪くなるので、眼圧が上昇しやすくなり、これも視神経の損傷、すなわち緑内障につながります。
そこで当院では、血流改善を目的として、緑内障の患者さんに、ゆったりと散歩くらいのペースで歩く「眼圧下げウォーキング」をお勧めしています。
ゆったりとウォーキングをすると、リラックスするための自律神経である副交感神経が優位に働き、心身がリラックスした状態になります。すると、血管が開いて、血流がよくなり、眼圧が下がりやすくなるのです。
眼圧が劇的に下がり手術を免れた!
患者さんには、眼圧下げウォーキングを生活習慣にとり入れることで、健康状態がよくなり、眼圧が下がった例が数多くあります。
58歳の男性Aさんは、他院で緑内障の手術を受けました。しかし、「再度手術が必要」と言われてしまい、「手術はもう受けたくない」と来院されました。
2013年10月初診時の眼圧は、右目が36㎜Hg、左目が22㎜Hg(眼圧の正常域は10~21㎜Hg)でした。
Aさんに点眼薬と内服薬を処方するとともに、眼圧下げウォーキング、小食(朝食抜き)、夜9時就寝という生活習慣を指導しました。
Aさんは手術を避けたい一心で、たいへん熱心に眼圧下げウォーキングに取り組み、生活習慣の改善に努めました。
すると2カ月後には、眼圧は劇的に下がって、右目が17㎜Hg、左目が14㎜Hgになりました。2015年3月には、右目が12㎜Hg、左目が9㎜Hgまで下がったのです。
Aさんは、眼圧が正常値にない、手術を免れることができました。しかも、体重も減少し、体調がよくなったと、たいへん喜んでいました。
わずか1カ月半で視野欠損も回復
緑内障でいったん起こった視野の狭窄や欠損は、現在の標準的な治療では回復が難しいとされています。
ところが、眼圧下げウォーキングをはじめとする、生活習慣の改善により、視野狭窄や欠損が回復する例があります。
「眼圧下げウォーキング」を取り入れて、視野欠損も大改善!
59歳の女性Bさんは2013年3月に来院されました。上の図は、右目の視野検査の結果を解析したものです。
上の図は、色の濃い部分が左下に広がり、視野の狭窄が進んでいます。視野検査で重視するのは、視野の欠けている度合いを数値化した「視野欠損度(MD)」という検査値です。
Bさんの3月時点の視野欠損度は8・1dB。中期に近い初期視野欠損のレベルでした。
Bさんに、薬だけでは進行を抑えるのは難しいとお伝えし、眼圧下げウォーキングや小食(朝食抜き)など生活習慣の改善に取り組んでいただきました。
生活習慣の改善に取り組んでいただいて約1カ月半後、5月の視野検査の結果が上の左側の図です。
色の濃い部分が明らかに減少しています。視野欠損度は、6・1dBに低下しました。2という数値の変化は大きく、視野が改善していることが確認できます。
これまで緑内障の治療は、あくまでも薬と手術が主体でした。
近年、九州大学医学部眼科の研究チームと広島大学医学部眼科教授の木内良明先生が、「運動をしない人よりも運動をした人のほうが眼圧は下がる」といった内容の研究発表をしています。
この研究結果は、運動と眼圧の関係を調べた貴重な報告といえるでしょう。
ウォーキングの速さは散歩ペースでだいじょうぶ
昨今、コロナ禍においては、運動不足で血流不足になりがちです。緑内障に悩むかたや、目と体の健康を保ちたい人は、ぜひ、特に道具もいらず、気軽に取り組める眼圧下げウォーキングを生活にとり入れてみてください。
私がお勧めしている眼圧下げウォーキングのやり方は、行うときのコツが、3つあります。
①ゆったりと楽しみながら歩く
血流改善には、鼻歌が出るくらいのゆったりとしたペースで歩くのが効果的です。心身ともにリラックスして、ウォーキングを楽しみましょう。
②小分けにして歩く
まとめて歩くと疲れてしまったり、おなかがすいて食べ過ぎたりしがちです。
例えば、30分ずつ1日2~4回などと小分けし、慣れたら回数を増やしていくようにするとよいでしょう。30分歩くだけでも、体や目の血流はよくなります。
③1日3000歩からスタート!
運動習慣のない人は、無理をせず、1日3000~5000歩程度から始めるとよいでしょう。
効果を得るためには、1万3000歩程度歩くのが理想です。1日じゅう自宅で過ごしていると、洗濯や掃除などで、どんなに家の中で動いても、歩数はせいぜい3000歩程度です。
それでは歩数が足りませんから、できるだけ外に出かけ、地下街、博物館や美術館、デパートなどを歩いてみてください。いい気分転換にもなるのでお勧めです。
緑内障は、失明に至る病の第一位とされるため、診断が下ると患者さんは落ち込んでしまいがちです。
しかし、眼圧下げウォーキングをはじめとした、よい生活習慣を積極的に採り入れることで、緑内障を改善することは可能です。
生活に眼圧下げウォーキングを採り入れ、希望と生きがいを持って、前向きに人生を送っていただけることを願っています。