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専門医が指南!【逆流性食道炎】を治す法~胸やけ・胃酸のこみ上げ・のどのつかえが楽になる

 

急増する逆流性食道炎は薬を飲むと治まるがやめると再発するやっかいな病気

東邦大学教授・医学博士 島田英昭

病気胸やけ、呑酸、つかえ感、胸痛が4大症状

 逆流性食道炎とは、胃液や胃で消化される途中の食物が食道に逆流して、食道が炎症を起こす病気です。

 私たちが口にした飲食物は、食道を通って胃に運ばれます。胃の中では、胃酸や消化酵素などが含まれた胃液が分泌され、胃液と食べ物が混ざり合い消化されて腸に送り出されます。

 胃酸の主成分は強酸性の塩酸ですが、胃壁を保護する粘液が分泌されているため、胃酸で胃自身がダメージを受けることはありません。しかし、食道にはそのような粘液が少ないため、胃酸にさらされると傷ついて炎症を起こしやすいのです。

 逆流性食道炎の4大症状は、胸やけ・呑酸・つかえ感・胸痛です。

 胸やけは、食後やお酒を飲んだあとに下から上に向かって胸が熱くなり、みぞおちあたりがチリチリと焼けるような感じがします。

 呑酸は、胃液が口やのどにまで逆流してくること。逆流性食道炎に特有の症状で、酸っぱい、苦いものが胃からこみ上げてきて、「熱い痰のようなものがのどにからまる感覚」と表現する人もいます。

 つかえ感は「食べ物がのどにつかえるような感じ」で、症状が重い場合には「食べ物がのどを通らない」という人もいます。

 胸痛は、食道が締めつけられることで生じ、胸が締めつけられるように痛みます。

 上にチェックリストがありますが、該当した人は、逆流性食道炎の可能性が高いと言えます。

 逆流性食道炎は、かつては胃の手術をした人か、高齢者に多い病気でした。ところが、1990年代後半から比較的若い人も多く発症するようになり、患者数が急増しています。今や日本人の5~10人に1人がかかっていると推計され、「新国民病」とまで呼ばれています。

 高齢者では、加齢による影響で5~10年かけて逆流性食道炎を発症する人も多いのですが、若者や中高年の場合は、食生活の乱れ、特に夜遅くなってからのドカ食いが大きな原因です。

薬を飲むとだいたいは症状は治まるが……

 逆流性食道炎は、基本的には命にかかわるような病気ではありませんが、不快症状があると「おいしく食事ができない」「快適に眠れない」ことなどからストレスにもつながり、日常生活に支障をきたします。

 また、患者のうち3%は、かなり重症といわれ、慢性のせきやぜんそくなどを合併したり、ごくまれに食道腺ガンが発生したりすることもあるので、放置してはいけません。

 問診で自覚症状があり、内視鏡検査などで食道に炎症が見つかると逆流性食道炎と診断され、症状に応じて薬が処方されます。

 薬物治療の目的は、逆流そのものを抑えるよりは、胃酸の分泌を抑制したり、胃酸の酸度を弱めたりして、逆流による食道へのダメージを減らすことにあります。

 薬物療法で第一選択薬とされているのは「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」です。これは胃酸を分泌する胃壁のプロトンポンプという部分の機能を阻害する薬で、服用すると約24時間は胃酸の過剰分泌を抑えられます。

 PPIよりも効果が弱いですが、胃酸の分泌を抑えるには、「H2ブロッカー」という薬もあります。

 最初はPPIまたはH2ブロッカーを毎日、4~8週間くらい服用するのが一般的です。これを初期治療といいます。

 軽症であれば、PPIの初期治療で80~90%、H2ブロッカーで40~70%の人が、治癒するか、治癒しなくても症状が消失します。

 生活に支障がないからと治療を受けずにきた人も、試しに1週間くらい薬を飲むと、あまり自覚していなかった症状がスッキリして、その効果に驚くことも多いものです。

 初期治療で効果が見られなければ、薬の量が増やされたり、別の薬に変わったり、食道や胃の蠕動運動を改善する「消化管運動改善薬」や、食道の粘膜を保護する「粘膜保護薬」、胃酸を中和する「制酸薬」などと併用したりして、服薬を続けることになります。

薬を飲むのをやめると82%の人が再発している

 薬の服用で、逆流性食道炎の約8割、非びらん性胃食道逆流症で約5割の人に症状の改善が見られます。

 ただし、残念なことに、薬で症状が改善したあとに服薬を完全に中止すると、6カ月間で82%の人に症状が再発したとのデータもあります。実際、勝手に薬をやめて3~4カ月たつと再発して来院される患者さんも少なくありません。

 副作用も気になります。酸分泌抑制薬は消化の促進や殺菌を担う胃酸の分泌を抑えるため、骨粗鬆症や、食中毒や食道カンジタなど、感染症のリスクを高めると指摘されています。

「ずっと飲み続けても安全な薬」とは考えず、主治医の指示に従って、適切な量を適切な期間服用する、という考え方がよいでしょう。

 逆流性食道炎の発症には、胃酸の過剰な分泌や逆流を招くような生活習慣が深く関わっています。そのため再発防止には、食事をはじめ生活習慣の改善が不可欠なのです。

根治には生活習慣の見直しが必要で「寝る前3時間は食べない」が最も簡単で効果的

東邦大学教授・医学博士 島田英昭

食生活を改めると3カ月でかなりよくなる

 内臓脂肪型肥満で、夕食にドカ食いする食習慣の人は、食生活を改めて減量すると3カ月くらいでかなりよくなります。これは、逆流を引き起こす要因の一つである「内臓脂肪による胃の圧迫」が減るためです。

 おなかの内臓は、横隔膜と腹壁、骨盤底筋に囲まれた腹腔という空間内に収まっています。前かがみの姿勢やベルトやガードルなどによるおなかの締めつけでおなかに圧がかかり、腹圧が上昇します。

 その圧力が胃などの消化管にかかることになります。風船が押しつぶされるように胃に圧がかかり、胃の内容物や胃酸が食道まで上がってきて、逆流が引き起こされるのです。

 腹腔内の臓器の周囲につく内臓脂肪が多い状態は、それだけで腹圧を高め、胃を圧迫して胃酸の逆流が起こりやすくなります。

 したがって、肥満の人は、ダイエットをして内臓脂肪を減らすことが、逆流性食道炎の改善と再発予防に重要なのです。

夜10時にビールを飲んで11時に寝るパターンは最悪

 逆流性食道炎の症状を誘発する最大の引き金となるのが、食事です。逆流が最も起きやすいのは、就寝中と食後2~3時間。食習慣の改善は、まず夜の食事の見直しが必要です。

 食後は、胃液の逆流を防ぐ下部食道約筋が一時的にゆるむ現象が起こりやすく、胃にものがたくさんあれば、逆流もしやすくなります。

 したがって、寝る前は食べないこと。夕食は就寝の3時間前までには食べ終わり、それ以降はおなかに食べ物を入れないのが理想です。

 脂肪分や食物繊維が多い食べ物など、胃の滞留時間が長いものを控え、消化のよい食事を適量とることを心がけてください。

 朝昼はしっかりと食べ、夕食は軽めにするのがお勧めです。

 炭酸飲料は腹圧を上昇させるうえ、ゲップが出やすく、それによって逆流が起こりやすくなります。アルコールは食道が酸にさらされる時間を長くして、症状を悪化させます。

 いずれも避けるのが得策ですが、飲みたい場合は早めの時間に飲むこと。夜10時にビールを飲んで11時に寝るようなパターンは、最悪です。

 食事の塩分や糖分が多いと、食道の粘膜が接する液体の浸透圧が高まり、食道が刺激されて胸やけなどの症状が現れます。

 加えて、胃の中で食べ物が停滞する時間が長引き、胃酸の分泌量も増えます。チョコレートなどは、糖分に加え脂肪分も多いため、控えたほうがよい食品です。

 酢やオレンジジュースなど酸っぱいものは、胃液の分泌を過剰にし、空腹時にとると逆流を引き起こします。寝起きや胸やけのあるときは、避けたほうがよいでしょう。

 炭水化物は、逆流性食道炎を明らかに悪化させるわけではありませんが食べすぎはいけません。夕食にご飯を食べすぎると血糖値が上昇し、余分な血糖が体脂肪に変わり、肥満や脂肪肝につながるからです。

 喫煙は、一般的には消化管活動を悪くする方向に働きますが、逆流性食道炎だけを考えた場合は、明らかに悪化させるわけではありません。

 ストレスから暴飲暴食したり、激辛料理や甘すぎるお菓子などの刺激物を欲したりする人も多く見受けられます。ストレスを食生活に持ち込まないことがたいせつです。

 日常の姿勢も、逆流性食道炎に影響します。ネコ背の人や前かがみの姿勢をとることが多い人は、おなかにかかる圧力が大きくなるため、胃液が逆流しやすくなります。

 ネコ背の人があお向けに寝ると、胃のほうが食道よりも高くなるため、逆流したものが胃に戻ることができず、食道に停滞してしまいます。

 これを防ぐには、上体を5度くらい高くした姿勢で寝るか、体の左側を下にして横向きで寝るとよいでしょう。

 草むしりやぞうきんがけなど前かがみの作業は、食後3時間以上たってから行うか、時間を短めにするなどして、おなかを圧迫する姿勢が続かないようにしましょう。

 ちなみに、高齢者に逆流性食道炎が急増している要因の一つに、ピロリ菌の感染者が減少していることが挙げられます。

 ピロリ菌は胃ガンの原因になりますが、ピロリ菌感染者は胃粘膜が荒れて元気を失っているため、胃酸の分泌が減り、逆流や食道の炎症が起きにくいのです。

 胃潰瘍の治療などでピロリ菌を除菌した人は、胃酸の分泌が盛んになるので、逆流性食道炎に注意が必要です。

薬で感じたスッキリ感を生活習慣の改善で目指す

 私の臨床での印象では、50歳以上では軽症も含めると2割程度の人に逆流性食道炎があるのではないかと感じます。

 食道に炎症があっても自覚症状がない人はたくさんいます。少しくらいの胃もたれや胸やけは普通のことだと思い、市販の胃腸薬を飲んですませる人も多いのです。

 軽い不調を感じていても、それをあたりまえと思い込んでいて、病気の症状と気づかないケースも多々あります。

 検査で逆流性食道炎が見つかり、治療を受けると「食事がおいしくなった」「こんなに快適なんだ!」と驚かれる人も多いのです。

 そうした患者さんたちには、まずは薬を飲んだときのスッキリ感を覚えてもらい、薬を飲まなくてもその快適な状態を維持できるように、生活習慣の改善を指導しています。

 軽症の逆流性食道炎では、炎症や自覚症状が改善したら治療は終了しますが、以降も2年に1回は内視鏡検査を受けることをお勧めしています。

薬の服用は2カ月まで!便秘を改善する30分のゆっくりウォーキングもお勧め

おおたけ消化器内科クリニック院長 大竹真一郎

便秘だと胃への圧も高まり胃液が逆流しやすい

 逆流性食道炎は、胃酸を含む胃液がなぜ逆流するのかという根本的なメカニズムがまだ解明されていません。そのため、薬などで症状を一時的に抑えることはできても、症状を完全になくすことは困難です。

 胃酸の分泌を抑える薬を服用し、逆流する酸を薄めて食道に及ぼす被害を少なくするのが基本治療となります。

 しかし、胃酸は本来、食べ物を消化する上で必要不可欠なものです。胃酸の分泌を抑える薬は、逆流性食道炎の症状緩和には効果的ですが、食中毒のリスクを高めたり、カルシウムなどミネラルの吸収を妨げて骨を弱くしてしまうなどのデメリットもあります。

 高齢者の場合は、骨粗鬆症から骨折、寝たきりの生活になり、認知症を発症することもあります。とりあえず症状が治まるからといって、長期間ダラダラと薬を飲み続けるのは望ましくありません。

 一方で、栄養が偏った食事や生活習慣の乱れも、胃液の逆流に影響を及ぼします。

 そこで私は、2カ月間を目安に薬を服用して症状を抑えながら、その間に患者さんたちに生活習慣の改善に取り組んでもらい、薬が必要のない状態に持っていくことを目標に治療を行っています。

 生活習慣の改善でまず必要なのは、食事内容の見直しです。

 食べすぎや飲みすぎ、早食い、寝る前の食事、脂肪分が多い食事、高浸透圧食(味が濃いものや甘いもの)、刺激が強い食べ物(激辛料理や香辛料が多い料理、熱すぎる食べ物など)、炭酸飲料やアルコール飲料などは、胃もたれや胸やけの原因になったり、胃酸の増加を招いたりして、逆流性食道炎を悪化させます。自分の食生活全般を見直して、逆流性食道炎に悪影響を及ぼす因子をできるだけ取り除いていくことがたいせつです。

 運動も絶対必要です。胃腸の働きが悪いこと、特に便秘は、逆流性食道炎と深い関連性があります。便がたまると腸の中で渋滞が起こり、腸につながる胃への圧も高まるため、胃液が逆流しやすくなります。

 便秘は、2017年の「慢性便秘症診療ガイドライン」では「本来、体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。

 毎日便通があっても、軟便であっても、スッキリ、しっかりと便が出ていなければ、れっきとした便秘なのです。

 便秘を解消するには、腸の働きを活発にして便をスムーズに移動させる必要があります。適度に体を動かすことは、外から腸を刺激して機能を高め、便秘の解消と逆流性食道炎の改善につながるのです。

激しい運動は胃腸の働きを止めてしまうので逆効果

 では、どのような運動が、逆流性食道炎の改善に効果的なのでしょうか。マシントレーニングや速い速度のランニング、格闘技などの激しい運動は、体を緊張・興奮状態に導く自律神経の交感神経の働きを高め、胃腸の動きを止めてしまうので、望ましくありません。

 ウォーキングやストレッチ、ヨガなどのリラックスしながらできる運動がお勧めです。

 まずは今の生活にプラス30分歩くことを目標に、ウォーキングを実行してみてください。買い物など外出のときにわざと遠回りする、通勤時は一つ前の駅で降りて歩くなどの工夫で片道15分余計に歩くようにすれば、目標はクリアできるでしょう。

 ウォーキングは、息が上がりすぎない程度のペースが理想です。のんびりペースで楽に呼吸ができる強度の運動は、体をリラックス状態に導く自律神経である副交感神経の働きを高め、胃腸の動きもよくします。

 また、歩く振動が腸を刺激し、便を押し出すために必要な腹筋や腸腰筋も使われるので、便秘の改善が期待できます。

 ウォーキングを習慣にすることでネコ背が改善され、横隔膜も鍛えられるので、胃にかかる圧力が軽減し、逆流性食道炎が起こりにくい体になります。

 おうちの中では、運動に不慣れな人でも楽にできる「つかまり立ちスクワット」がお勧めです。ウォーキングだけでは下半身の筋力強化はなかなか難しいですが、つかまり立ちスクワットを取り入れることで、排便に必要な下半身の筋力を効果的に鍛えることができます。

 逆流性食道炎は「今のままの生活では危ないよ」という体からの警告です。これを機に、ぜひ食生活や運動など、生活習慣を見直すようにしてください。