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【炭水化物インスリンモデル】最新のダイエット理論で糖尿病の原因「肥満」を解消

「正常値ギリギリ」はもう糖尿病が進行中?

「健康診断で血糖値が高めだったけど、まだ正常値ギリギリだったので大丈夫だろう」
「太り気味、肥満と指摘されているけど、健康診断の数字は異常なしなので気にしていない」

こう考えている人が意外と多いのではないでしょうか。しかし、これは産業医の視点から見ると間違った考え方と言えます。

一般的な健康診断で検査する血糖値とは、「空腹時血糖値」のことです。実は、空腹時血糖値が正常値を超えているというのは、ほとんど糖尿病と言っていいレベルまで進んだ状態と言えます(空腹時血糖値の正常値は100㎎/㎗未満)。

糖尿病の段階として、空腹時血糖値が高くなる前に、まず「食後血糖値」が大きく上がります。食後は誰でも一時的に血糖値が高くなりますが、通常であればインスリンが分泌され、食後約2時間以内には正常値に戻ります。

しかし、糖尿病の前段階になると、食後30分から1時間後の血糖値が150㎎/㎗を超えて急上昇し、時間が経っても血糖値が下がりにくくなります。

食事をしてから2時間後に測った血糖値が140㎎/㎗以上ある場合、「食後高血糖」とされます。こうなると糖尿病への階段を上がり始めたということになります。しかし、通常、食後血糖値はなかなか測る機会がありません。

この状態が続くと、ついには空腹時血糖値も正常値に収まらなくなってきます。つまり、「健康診断で血糖値が正常値ギリギリだった」という状態は、長期間にわたって食後血糖値が高い状態が続いており、すでに糖尿病は進行していると考えて間違いないのです。

自覚症状がないのが糖尿病の怖いところ

糖尿病の怖いところは、進行しても自覚症状がない点です。健康診断で「血糖値が高いですよ。食事に気をつけてください」と言われても、痛みも不調もないので、皆さんなかなか真面目に取り組みません。

そうして不摂生を続けていると、糖尿病は知らない間にどんどん進み、ついに症状が出たときにはほとんど手遅れ……これが糖尿病の怖さなのです。

重度に進んだ糖尿病は、「3大合併症」という重篤な病気を引き起こします。糖尿病神経障害(※1)、糖尿病網膜症(※2)、糖尿病腎症(※3)と呼ばれるものです。また、動脈硬化の原因となり、脳卒中や心臓病を引き起こすこともわかってきました。いずれもQOL(生活の質)を著しく落とし、命の危険にもかかわる重大な病気です。

※1 糖尿病によって引き起こされる神経障害のこと。しびれや痛みを感じたり、その逆に感覚がなくなったりする ※2 糖尿病が原因で目の中の網膜という組織が障害を受け、視力が低下する病気 ※3 糖尿病により腎臓の機能が落ちる病気

糖尿病は、かなり進行するまで自覚症状が出ませんが、症状が出たときには命がなくなっているかもしれない。そういう病気なのです。

私自身も20年前は理想体重より18㎏もオーバーしており、ついには心臓病を発症してしまいました。

このままでは命の危険もある……そう感じた私は、まず減量に真剣に取り組もうと決心しました。

やせることは糖尿病の予防につながる

私は総合内科専門医として、また、200社以上の産業医として、生活習慣病を抱えた人を対象に食事指導や運動指導を行ってきました。

30年以上にわたり、年間5万人以上の健康指導をしている医師として、ある一つのことを確信しています。それは、「肥満の人は、健康診断の数字は正常でも、10年後にはかなりの高確率で糖尿病か糖尿病予備軍に至る」ということです。

肥満に当たる人は、空腹時血糖値は正常の範囲内でも、食後血糖値を測ると多くの人が正常値を超えていると思われます。肥満の時点で、すでに糖尿病の第一ステージに上がっているのです。

しかし、裏を返すと、肥満を解消できれば糖尿病のリスクをかなり下げられるということになります。

働く人の生活習慣病の予防・改善を目的とするダイエット方法について、予防医学専門医である産業医の立場から国内外のダイエットに関する医学的文献に目を通し、自らもダイエットの研究を行い、さまざまなダイエット法を実践して効果を確認することを繰り返しました。

そして、ついにカロリーを制限せずに、食べたいものを食べながら、激しい運動もせずに自然とやせられるダイエット法にたどりついたのです。それは、私が「インスリン節約ダイエット」と命名し、後の202 1年9月、米国栄養学会が最新の医学的知見に基づき提唱した「炭水化物インスリンモデル」に基づくダイエット法です。

カロリー制限はむしろ太りやすい

炭水化物インスリンモデル、すなわちインスリン節約ダイエットの画期的な特徴は、「カロリーを気にしない」点です。

生活習慣病の患者さんに対して、これまで「エネルギーバランスモデル」に基づいたカロリーを制限する食事指導が行われてきました。エネルギーバランスモデルとは、摂取カロリーと消費カロリーの差が脂肪の蓄積の原因であるという理論です。

しかし、エネルギーバランスモデルには大きな問題が二つあります。

まず一つは、「カロリー制限を行っても長期的にはダイエットできない」ということです。米国や英国での大規模な疫学調査では、摂取カロリーと肥満との間には関連がないことが立証されています。

私の経験でもカロリー制限を行うことで、3カ月後には一定の減量は可能ですが、1年後の健康診断の結果を見ると、ほとんどの人が元の体重以上に肥満が進行してしまっています。減量の内容についても、減ってほしい内臓脂肪量よりむしろ筋肉量の減少が著しい傾向にあります。

つまり、カロリー制限をしても生活習慣病を目的としたダイエットはできないのです。

二つ目の問題は、「カロリー制限は非常にリバウンドしやすい」という点です。

生活習慣病の予防・改善のためには、長期的にダイエットを継続することが重要です。カロリー制限によるダイエットでリバウンドするのは、決してその人の意志が弱いからではありません。

摂取カロリーを抑えるためには、高カロリーな肉や乳製品などのたんぱく質を控えることになります。すると、体がたんぱく質不足に陥って筋肉量が減り、基礎代謝が低下して太りやすい体質に変化してしまうのです。

また、カロリー制限を続けていると食欲を亢進させ、脂肪の蓄積を促進するホルモン「グレリン」が過剰に分泌されることもリバウンドの大きな原因です。

カロリー制限を続けてしばらくすると、先述の基礎代謝の減少から、体重が落ちにくくなる停滞期を迎えます。この時期に大量に分泌されるグレリンに負けて、カロリー制限を緩めると一気にリバウンドします。

しかも、基礎代謝が落ちていますから、食べる量が以前と同じでも体重はどんどん増え続けます。また、一度カロリー制限を行うと、グレリンの過剰分泌は1年以上続くというデータもあります。

カロリー制限で一度はダイエットに成功しても、時間が経つとリバウンドする理由はここにあるのです。

カロリー制限ダイエットは一時的にやせても、結果的に大リバウンドしやすい

医師の私も18㎏やせた最新手法

炭水化物インスリンモデルに基づくインスリン節約ダイエットでは、カロリー制限や厳しい糖質制限を必要としません。先ほど「食後に血糖値が上がると、インスリンが分泌され、血糖値が正常値に戻る」という話をしました。このインスリンを節約する、つまり食後の血糖値の上昇を抑えることを目標に定めます。

インスリンとは、食事により血糖値が上昇すると、膵臓から血液中に分泌され、血糖値を下げて、血中の血糖値を一定に保つように働くホルモンです。

インスリン節約ダイエットとは、食べたいものを我慢するのではなく食べ方を工夫することで、食後の血糖値の上昇を抑え、インスリンの分泌を節約してやせるという、食べながらやせられるストレスフリーなダイエット法なのです。

また、そもそも食後血糖値の上昇を防ぎますから、糖尿病予防にも高い効果が期待できます。

私自身、インスリン節約ダイエットを行うことでスルスルとやせていき、半年で18㎏の減量に成功しました。我慢をしませんので続けることが苦になりませんし、20年間、リバウンドもしていません。

インスリン節約ダイエットを指導した人たちにも、カロリーを気にしなくていいし、甘いものや油ものなど、食べてはいけないものが何もないので、ストレスなく続けやすく、効果も高いととても好評です。

そんな夢のようなインスリン節約ダイエットのやり方を次の項で詳しく解説していきます。

血糖値を抑える7つの習慣

食べ物を制限せずに食べ方を工夫する

なぜカロリーを制限せずに、インスリンを節約するだけでやせられるのでしょうか。それは、インスリンの分泌こそが太る原因だからです。

インスリンの働きによって細胞に取り込まれた糖は、エネルギーとして使われれば問題ありません。しかし、余ってしまうと筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられるか、中性脂肪に変換されて体脂肪として蓄えられます(下の図参照)。つまり、インスリンの分泌をなるべく抑えることができれば、体脂肪も増えないわけです。

それでは、具体的なインスリン節約ダイエットのやり方を説明していきますが、まずインスリン節約ダイエットでやせるための7つのルールを覚えておいてください。

❶ カロリーを気にしない
 カロリー制限をすると、必然的にたんぱく質の摂取量が減り、筋肉量も落ちます。その結果、基礎代謝が落ちて、太りやすい体になってしまいます。
❷ 食後15分以内に体を動かす
 食後、すぐに体を動かすことで、食後血糖値の上昇が抑えられ、内臓脂肪を蓄積しにくくなります。
❸ 短期間でやせようとしない
 短期間にやせようとして無理なダイエットをすると、6カ月以内にリバウンドしてしまいます。何㎏やせることを目標とするかにもよりますが、最低半年程度を目標達成の期限に定めましょう。
❹ 食べ方を工夫する
 食べたいものを我慢するのではなく、食べ方や食材の組み合わせを工夫して食べるようにします。
❺ 良質な油をとる
 カロリー制限ダイエットでは大敵の脂質ですが、インスリン節約ダイエットでは糖質と一緒にとることで血糖値の上昇を防ぐ味方になります。オリーブオイルなどの良質な油は積極的にとりましょう。
❻ ご飯(主食)のとり方を変える
 ご飯、パン、麺類などの主食は少なめにして、脂質やたんぱく質をプラスすると、食後血糖値の上昇を抑えることができます。
❼ 水や野菜は食事の最初にとる
 水は食前に、野菜は食事の最初に食べるようにすると、食後血糖値の上昇を抑えることができます。
 この7つのルールを守りながらインスリン節約ダイエットを行うことで、効果は必ず出てきます。

炊き立てご飯よりすしのほうがやせる!

次に、インスリン節約ダイエットの具体的なやり方を紹介します。

インスリン節約ダイエット①
糖質のみを食べない

糖質が多く含まれるご飯、パン、ラーメン、パスタなどを食べるとき、たんぱく質や脂質などをプラスしてください。

例えば、白米だけで食べるよりも、卵かけご飯や肉の入ったチャーハンにする、和風さっぱりパスタよりもチーズやクリームのかかったカルボナーラにする、などです。

糖質のみを食べた場合より、糖質+たんぱく質、糖質+脂質を食べたほうが、カロリーは高くても食後血糖値の上昇は緩やかだったというデータがあります。

さらに効果を高めたい場合、主食の量を控えめにすると、血糖値の上昇をいっそう抑えられます。

インスリン節約ダイエット②
糖質は冷やして食べる

米や小麦、イモ類に含まれるでんぷんの中で、小腸で消化されず大腸まで届くものを「レジスタントスターチ(難消化性でんぷん)」といいます。レジスタントスターチには食後の血糖値の上昇を緩やかにし、満腹感を持続させる作用があることがわかっています。

このレジスタントスターチは、加熱すると構造が変化し、小腸で吸収されやすくなります。しかし、冷めると再び消化されにくい繊維質に変化します。

つまり、炊きたてのご飯よりも冷めたご飯のほうがレジスタントスターチは豊富なのです。熱々ご飯よりも冷めたおにぎりやすしのほうがお勧めですし、温かい麺類よりも冷たい麺類のほうが血糖値は上がりにくいということになります。

ご飯を最後に食べると血糖値は急上昇しない

インスリン節約ダイエット③
最初に野菜を食べるベジタブルファースト

7つのルールでも述べたように、野菜は食事の最初に食べるようにします。糖質よりも先に野菜を食べることで、食物繊維が腸管でブドウ糖の吸収を抑え、血糖値の急上昇を防ぐことができます。

野菜の中でも特にお勧めなのは、水溶性食物繊維を多く含む海藻類、キノコ類、アボガド、大豆を含むサラダなどです。

インスリン節約ダイエット④
糖質を最後に食べるカーボ(炭水化物)ラスト

同じ量の糖質、たんぱく質、野菜を食べた場合でも、糖質を最後に食べたほうが食後の血糖値が急激には上がらず、ゆるゆると上昇したという研究データがあります。

理想を言えば、ご飯を最後に食べるのがベストですが、おかずがないとご飯が食べられないという人は、先に野菜とおかず半分を食べ、最後に残りのおかずとご飯を食べてもいいでしょう。これだけでもインスリンをかなり節約できます。

インスリン節約ダイエット⑤
朝食は食べる

私が2007年に行った試験では、肥満で、かつ日常的に朝食を抜いている11人に、生活習慣病の患者さんに用いる170㎉のフォーミュラ食(※)を2カ月間、朝食に摂取してもらいました。

※糖質・脂質を抑え、必要十分量のたんぱく質・ビタミン・ミネラルを含む完全栄養食

すると、そのほかの食事制限、運動指導なしでも、平均1・3㎏の減量が確認できました。さらに、メタボ関連の検査データの数値も改善されていました。

朝食を食べるだけの単独の方法ではそこまで大きなダイエット効果は得られませんが、ほかのインスリン節約ダイエットと組み合わせることで確実に効果は高まります。

ただし、ご飯のみ、パンのみなど、炭水化物だけを朝食にすると太ってしまう可能性が高いので、必ずたんぱく質と食物繊維を一緒にとるようにしてください。

食後すぐの家事はランニングより効果的

インスリン節約ダイエット⑥
食後15分以内にこまめに動く

これも7つのルールで述べましたが、食事を食べたらゆっくりせずにすぐ体を動かしましょう。「食後、安静にする」のは太る習慣なのです。

食事を食べて少し経つと血糖値が上昇し始めますが、食後15分以内に体を動かすことで、血糖値の上昇を抑えることができます。

例えば、食後15分以内に後片づけや掃除をするとか、少し遠くまでランチを食べにいき、食べたらすぐに歩いて帰ってくるなど、わざわざ走りに行く時間を作らなくても、食後15分以内に少し体を動かすだけでとても効果的な運動になります。

インスリン節約ダイエット⑦
毎食30分前に500㎖の水を飲む

毎食の30分前に水を500㎖飲むと食後血糖値が上がらない

イギリスのバーミンガム大学の研究で、毎食30分前に500㎖の水を飲むことで、12週間で平均4・3㎏の体重が減少したことが報告されました。

この理由はまだ詳しくはわかっていませんが、食事の30分前に水を飲むことで、血液が薄まり、食後の血糖値の上昇が抑制されたのではないかと推測されています。

今回ご紹介したインスリン節約ダイエットの方法は、単独では劇的な減量効果はありませんが、複数の方法を組み合わせて毎日実践することで、6カ月後には確実に減量することができます。

ご紹介した方法の中からあなたのライフスタイルに合わせて無理なく実践できる手法をいくつか選んで、あなたのオリジナルのダイエット法を見つけてください。

インスリン節約ダイエットは、糖尿病の初期段階である肥満を解消できることと、そもそも血糖値の上昇を抑える手法でもあるため、糖尿病予防には一石二鳥のダイエット法と言えます。ぜひ今日から実践して、生活の質を落とさずに健康的な体を手に入れてください。

この記事は『ゆほびか10月号に掲載されています