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【元気な心臓】を作るキホン~血液と血管のケアをして心臓を若々しく保つ

上皇陛下の心臓手術を執刀 

 私は心臓血管外科医として、これまで約9000人の患者さんに、心臓外科手術を行いました。その成功率は99・5%以上です。

 2012年2月には、当時78歳でいらした上皇陛下(当時は天皇陛下)の心筋症(※1)の手術も担当させていただきました。

※1…心臓の筋肉(心筋)に供給させる酸素が不足するため、胸部に一時的な痛みや圧迫感が起きる病気

 心臓は全身に血液を循環させる「ポンプ機能」がほぼすべての役割といってもいいほど、シンプルな臓器です。シンプルな分、病気になる原因やしくみ、改善のための「答え」がほぼ解明されており、ガンなどと比べると、心臓病は実はさほど難しい病気ではないのです。

 もともと心臓病は、高齢者に多い病気ですが、近年は若い世代や中高年にも、心筋梗塞(※2)や狭心症などの心臓病が増加傾向にあります。

※2…心臓が酸素不足になり壊死する病気

 それは、暴飲暴食や寝不足、ストレスなどによって、血液と血管の状態が悪化したことが原因の一つと考えられています。

 血液は、全身の細胞に酸素や栄養を運搬することと、二酸化炭素や老廃物を回収することが大きな役割です。生活が乱れていると、血液はコレステロールなどで汚れ、きれいに流れなくなってしまいます。

 血管は、心臓から送り出された血液を体のすみずみに運ぶことが役割です。ストレスなどの負荷がかかると、血管は収縮しますし、老化などから硬くなってしまいます。

 収縮したり血管が血液の汚れによって詰まったりして、酸素の供給が止まってしまうと、 脳で4分、心臓なら3時間で細胞が酸欠によってします。

 つまり、血管のトラブルによる血液の渋滞は、まさに命取りになる危険性をはらんでいるのです。

血管を衰えさせる要因

 では、どうすれば血液と血管を元気にして、心臓を若々しく保つことができるのでしょうか。

 その答えは「動脈硬化を進行させないこと」に尽きます。

 動脈硬化とは、わかりやすくいうと血管の老化現象で、血管の壁にコレステロールが付着するなどの要因で動脈の弾力性が失われて硬くなり、血管の内側が狭くなって血液が流れにくい状態になります。

 動脈硬化を促進させる危険因子は、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高LDLコレステロール血症)、肥満、喫煙などです。

 血圧が高いと、血管にも大きな圧力がかかることになり、それだけ動脈にも負担となり、傷つきやすくなります。

 傷ついた部分にコレステロールが入り込んで(ドロドロの脂肪の塊)を形成し、動脈硬化が起こりやすくなるのです。

 また、高血圧そのものが心筋梗塞や脳卒中を引き起こす引き金にもなります。

 血糖値が高い状態が続くと、糖でドロドロの血液が血管に負担をかけて、動脈硬化が進みます。

 血液中の糖分が増えると、コレステロール値がそれほど高くない人でも血管内に粥腫ができやすくなり、突然、心筋梗塞を起こすこともあります。

 コレステロールの中でも「悪玉」と呼ばれるLDLコレステロールは、血管内壁に入って酸化され、動脈硬化の大きな要因となります。

 喫煙は体内に活性酸素を増やし、血管内壁に入ったコレステロールの酸化を促進する上、血管を収縮させて高血圧の要因となります。

 肥満で内臓脂肪が多くなると血液中のLDLコレステロールや中性脂肪が増え、動脈硬化のきっかけになるほか、高血圧や高血糖を招き、動脈硬化を促進させます。

 20歳の頃に比べ体重が20㎏以上増えている人は、要注意。食生活を見直しての減量を強くお勧めします。

若さを築くのは元気な心臓

 心臓と血管の老化を防ぐ基本は、生活習慣を見直して、血圧や血糖値、コレステロール値、体重などを適正に保つことです。

 加えてストレスも心臓の大敵なので、日々の生活の中でストレスをうまく処理できるように努めましょう。現在、コロナで神経をとがらせている人も多いと思いますが、心配しすぎてもよくありません。

 私たちは日々「110歳までトラブルなく動き続けられる心臓」を目指して、手術や治療に取り組んでいます。

 70代や80代で心臓手術を受ける患者さんも増えていますが、術後、心臓への不安が消えて生き生きと過ごされている患者さんたちを見ると、「若さを築いているのは元気な心臓」だと実感します。

「人生100年時代」を謳歌するためにも、意識して心臓と血管の健康を心がけていただきたいと思います。