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ベストセラー精神科医が語る【1時間長く寝る】だけで集中力、記憶力、生産性が極限まで高まる理由

日本人は世界一睡眠時間が少ないうえに睡眠不足を自覚していない人が多い

日本人の睡眠の最大の問題点は、睡眠時間が足りていないこと。日本は、世界で睡眠時間が最も短い国。経済協力開発機構(OECD)の調査によると、日本の睡眠時間はOECD加盟30カ国中ワースト1位。世界平均よりも61分も短いのです。

必要な睡眠時間を確保できていないことを「睡眠不足」といい、一般的には睡眠6時間未満が睡眠不足とされています。厚生労働省の調査によると、睡眠時間が6時間未満の人の割合は、男性で36・1%、女性で39・6%。7時間以上の睡眠は、男性29・5%、女性25・7%。

男性の30~50代、女性の40~60代では、睡眠6時間未満の人が4割を超えています。つまり、日本人の約4割が睡眠不足であり、健康的な睡眠がとれている人は、3~4人に1人しかいないのです。

ただし、睡眠不足の人は現実にはもっと多いと考えられます。というのも、これらの睡眠調査は自己申告に基づいており、就寝から起床時刻までの間を睡眠時間としていますが、寝つきや寝起きに時間がかかるため、実際の睡眠時間は、それよりも15分~30分程度短いからです。

スマホの睡眠アプリで1週間記録をとってみる

睡眠は、何時間眠ったかの「量」だけでなく、良質な睡眠がとれているかという「質」も重要です。たとえ睡眠を8時間とっていても、「睡眠の質」が悪く、前日の疲労がじゅうぶんに回復していなかったり、日中の眠気に悩まされたりするならば、それも睡眠不足です。

しかし、睡眠不足は自分ではなかなか気づきにくく、睡眠が足りていない人ほど「じゅうぶんな睡眠がとれている」と思い込んでいます。

そこでお勧めしたいのが、スマホの「睡眠アプリ」を利用して、自分の睡眠の量と質を客観的に評価してみることです。睡眠アプリの代表的なものには、「Sleep Meister 」や「熟睡アラーム」などがあります。これらのアプリは、就寝中の体動(寝返り)を感知して、睡眠状態を計測します。

熟睡アラーム 販売元:株式会社 C2 端末:iPhone /Android 価格:無料(一部有料) 

睡眠サイクルを記録し、アラームは眠りの浅いタイミングで鳴らす。睡眠(睡眠時間、睡眠効率、睡眠の質)といびき(いびきの時間、音量)の両方をチェックできる。データはクラウドサー保管することも可能。3600円/年か480円/機能制限がない有料サービスもある

睡眠には、浅い眠りの「レム睡眠」と、深い眠りの「ノンレム睡眠」があり、睡眠に入ると最初にノンレム睡眠が出現し、およそ90~100分の周期で、レム睡眠とノンレム睡眠が交互に現れます。

ノンレム睡眠の中でも、深い睡眠段階に入ると、寝返りがほとんど見られなくなります。睡眠アプリは、この「睡眠が浅いほど体動は多く、睡眠が深いほど体動が少ない」という睡眠の原理を応用して、睡眠状態を測定しているわけです。

Sleep Meinster 発売元:Naoya Araki 端末:iPhone 価格:無料              

睡眠サイクルを記録し、アラームは眠りの浅いタイミングで鳴らす。入眠時の自動停止する音楽プレイヤー機能、寝言(物音)の録音機能もある。「アルコール」「カフェイン」「入浴」などの行動メモ機能により、就寝前の行動と睡眠サイクルの関係を把握しやすい。

睡眠アプリは、医療機器ほど厳密なものではありませんが、「布団に入ってから寝つくまでの時間」「深い睡眠が多いのか」「中途覚醒(睡眠中に目が覚めること)の有無」などは、かなり正確に測定できます。

下のグラフは、私の睡眠データです。自分の睡眠の状態が、グラフや数字で「見える化」され、「お酒を飲んだ夜は睡眠の質が悪くなる」「運動した日は眠りが深くなる」といったことが一目でわかり、睡眠改善のモチベーションも上がります。

樺沢紫苑先生の睡眠グラフを発見!

「Sleep Meister」で計測した。上は、深い谷が4〜5個あり、睡眠潜時(就寝から入眠までの時間)が短く、途中覚醒がない「いい睡眠」の例。下は飲酒後に寝た「悪い睡眠」の例で、深い谷が少なく、後半の睡眠が浅く、中途覚醒がおおいのがわかる

自分が何時間眠れているか、良質な睡眠がとれているかどうかを知るために、1週間くらい睡眠アプリで記録をとってみるとよいでしょう。

食べ過ぎの意外な原因は睡眠不足。よく寝るだけで自然にやせていく理由

ご飯大盛り1杯を余計に食べている計算

国内外の多くの研究により、睡眠時間7時間前後(6.5〜7.5時間)の人が最も死亡率が低く、それより睡眠時間が短くても長くても、死亡率が高まることがわかっています。

睡眠不足は、生活習慣病をはじめ、さまざまな病気にかかるリスクを高め、寿命を縮めるだけではありません。確実に肥満を招きます。

アメリカのコロンビア大学の研究によると、7時間睡眠を1とした場合、肥満の人の割合は、5時間睡眠で50%増え、4時間睡眠で73%アップするという結果になりました。

また、スイスのチューリッヒ大学が27歳の男女約500人を13年間追跡した研究によると、睡眠5時間以下の人は、睡眠6〜7時間以下の人に比べ、年間BMI(肥満指数)の上昇率が約4倍、つまり、4倍も太りやすいことがわかりました。実際睡眠不足の人は、そうでない人に比べ、BMIが平均4.2も高かったのです。睡眠不足は肥満の原因となるのです。

睡眠不足になると、食欲を増進させるホルモンのグレリンが増え、食欲を抑制するホルモンのレプチンが減ります。このホルモン変化は、食欲が25%高まることに匹敵します。

しかも、睡眠不足の脳では、合理的な意思決定をつかさどる前頭前皮質と島皮質という部分の活動が低下し、衝動に関する扁桃体の活動が活発になります。つまり、睡眠不足になると「食べたい!」という衝動は強まり、食欲を我慢することが困難になるため、食べ過ぎから肥満になるのです。

「睡眠と食欲」に関する11の研究を分析したイギリスのロンドン大学の研究では、睡眠が6時間以下の人は接種カロリーが1日に約385kcal増えることが明らかになりました。 

385kcalはご飯茶碗約1.5杯分以上に担当し、これを運動で消費するには、約30分のジョギングか1時間のウォーキングが必要です。それだけのダイエット効果が、睡眠時間を7時間しっかりとるだけで得られるのです。やせたければ睡眠不足を解消するのがいちばんです。

脳は寝ている間に老廃物の洗濯をしている

睡眠時間が6時間以下の人は、そうでない人と比べて、がんが6倍、脳卒中が4倍、心筋梗塞が3倍、糖尿病が3倍、高血圧が2倍、カゼが5・2倍、認知症が5倍、うつ病が5・8倍、自殺が4・3倍に増えます。睡眠不足は病気になるリスクを高め、寿命を縮めてしまうのです。

 中でも注目したいのは、睡眠不足と認知症の関係です。

認知症を引き起こす原因で、最も多いのがアルツハイマー病です。その原因物質が、「アミロイドβたんぱく質」(以下、「アミロイドβ」)です。神経毒性が強いアミロイドβが脳内にたくさん蓄積すると、神経細胞が死にはじめ、記憶障害などの症状が現れます。

アミロイドβは、認知症を発症する20年以上も前から脳にたまり始めるといわれています。

しかし、私たちの脳には、老廃物を洗い流してくれる「お掃除システム」が備わっています。夜間の睡眠中に、脳内のグリア細胞(神経細胞を補佐する細胞)が収縮して隙間ができ、そこに脳脊髄液が勢いよく流れ込み、脳の老廃物を洗い流します。毎晩、寝ている間にジェット水流による洗濯が行われているようなもので、睡眠中は日中と比べて10倍も多くの老廃物が排出されます。

このお掃除システムは、深い睡眠ほど活発に働きます。つまり、7時間以上の睡眠をキープし、深い睡眠をしっかりとっていれば、アミロイドβが脳に蓄積するのを防ぎ、アルツハイマー病を予防できるのです。

アメリカ国立衛生研究所が行った研究によると、40歳の健康な男女を30時間眠らせずに、その脳をPET(精度の高い画像診断機器)で調べたところ、アミロイドβの蓄積が認められました。わずか1晩の徹夜でも、40歳という若い人でも、脳内にアミロイドβが蓄積したのです。

認知症の有病率は、80歳を超えると5人に1人以上、90歳を超えると5人に3人以上に急増します。将来、認知症になりたくなければ、今から毎晩、質のよい睡眠をしっかりとることがたいせつです。

6時間睡眠を14日続けると脳は48時間徹夜した状態に

私は毎晩必ず8時間は睡眠をとることにしています。なぜなら、睡眠がしっかりとれていると、仕事のパフォーマンスが劇的に向上するからです。執筆できる文字数や文章のクオリティでいうと、睡眠不足と睡眠が足りているときでは、朝の3時間の仕事量が2倍くらい違います。

睡眠時間を削ると、集中力、注意力、判断力、実行機能、即時記憶、作業記憶、数量的能力、数学能力、論理的推論能力、気分、感情など、ほとんどすべての脳機能が低下することが明らかになっています。

6時間睡眠を14日間続けると、48時間徹夜したのと同程度まで認知機能が落ちるという研究結果もあります。これは、日本酒を1~2合飲んだときの酔っ払い状態での認知機能に相当します。

つまり、毎日6時間睡眠の人は、徹夜明けやお酒を飲みながら仕事をしているのと同じくらい低いパフォーマンスで日々仕事をしているということになります。

医学雑誌『ランセット』に掲載された研究によると、睡眠不足の医師は、じゅうぶんな睡眠をとった医師に比べて業務を完了させるのに14%も長く時間がかかり、ミスをする確率は20%も高くなりました。睡眠が足りていないと、仕事の効率や生産性が悪くなり、集中力、注意力が低下してミスも増えてしまうのです。

睡眠中に記憶の整理・定着が行われるため、日中に覚えたことを記憶として定着させるには、6時間以上の睡眠が必要です。試験や勉強の成績を上げたいなら、まずしっかり眠ることがたいせつなのです。

多くの人は、睡眠不足のせいで仕事のパフォーマンスが落ち、仕事が終わらず残業せざるを得なくなり、睡眠時間を削る——という悪循環に陥っているように思えます。

仕事がはかどらない、ミスが多い、疲れやすい、イライラするなどの悩みは、睡眠不足が原因かもしれません。「いい睡眠をとる」ことが、自分の能力を最大限発揮できるようになる究極の仕事術なのです。