歯周病菌が心臓病、脳梗塞の原因に
私は歯科医師の立場から、「血管の老化防止には口の健康が第一」といつも申し上げています。なかでも、最も注意すべきなのが歯周病です。
歯周病は、口の中だけの病気と考えているかたも多いと思いますが、歯周病菌は、歯肉の血管から全身に流れ、さまざまな病気を誘発します。
例えば、歯周病菌が血管に侵入すると、血管内で慢性的な炎症が起こり、血管の内壁が厚くなって、動脈硬化を引き起こしてしまいます。
そして、動脈硬化によって血管内にプラーク(※こぶのような塊)ができると、血栓が発生し、心筋梗塞や脳梗塞が起こる可能性が高くなり、命にまで危険を及ぼしてしまいます。
歯周病の人は、そうでない人と比べて、心臓病のリスクが2~3.6倍というデータがあります。さらに、歯周病が進行した人が心筋梗塞を発症すると、死亡率は2倍になるという報告もあるのです。
そのほか、歯周病によってリスクが上がる病気は、脳卒中、糖尿病、誤嚥性肺炎、メタボリックシンドローム、関節リウマチ、子宮内膜症、骨粗鬆症などがあげられます。
実際、糖尿病の人は、歯周病にかかっている人が多く、歯周病は網膜症や腎症のように糖尿病の合併症だと言われるようになりました。
歯周病があるとリスクが高まる病気
歯周病菌は、歯肉の血管から全身に流れ、さまざまな病気の原因になる。また、飲み込むと、一部は胃を通り抜け、腸内細菌のバランスを崩すことも指摘されている
こうして歯周病と全身疾患の関連性が認識されるようになり、国も歯科健診を重視しています。昨年、政府が発表した「骨太方針2022」では、2025年から毎年の国民皆歯科健診の義務づけを目標にしています。歯の健康を維持することで、病気を予防し、健康寿命を延ばし、医療費を削減することを目指しているのでしょう。
厚生労労働省の調査によると、30~50歳の約40%、50歳以上の約55%が中程度以上の歯周病になっていることがわかっています。
血管の老化防止には、まず歯周病菌を減らすことが基本なのです。
歯周病菌は胃をすり抜け腸内環境を乱す
歯周病菌は、腸内環境にも影響を及ぼします。
これまで、唾液に含まれた歯周病菌は、飲み込んでも強い酸性を持つ胃で死滅すると考えられてきました。しかし、その一部は腸まで到達し、腸内細菌のバランスを乱すことがわかってきました。
腸内には、善玉菌、悪玉菌、日和見菌(※そのときの状況により善玉菌にも悪玉菌にもなる腸内細菌)が存在しますが、悪玉菌が優位になると、腸の働きが悪くなり、便秘や免疫力の低下、自律神経の乱れなどを招いてしまいます。
さらに、腸内環境は血管とも密接な関係があります。
腸の周りには太い血管が通っていて、腸が不調になれば、有害物質が発生し、それが血管に流れ込むのです。そのため、血管の健康のためには、腸内環境を整えることが大事で、歯周病菌は大敵なのです。
最近では、歯周病菌によって大腸がんのリスクが増加するのではないか、という指摘もされています。
朝、まず口をゆすぐ、歯みがきは朝食前に
朝起きて、水や白湯を1杯飲むことを習慣にしている人も多いと思いますが、唾液に含まれる歯周病菌を飲み込んでしまうと、腸が乱れる原因になります。朝はまず口の中をしっかりゆすいでから水を飲んだり、食事をとったりするようにしましょう。食前に歯みがきをして、歯周病菌を除去するのもお勧めです。
起床時の口内細菌数はウンチの10倍!
よく磨く人の口腔内細菌数は1000~2000億個、あまり磨かない人の口腔内細菌数は4000~6000億個、ほとんど磨かない人の口腔内細菌数は1兆個と言われている。その数は、起床時が最も多くなり夕食後の30倍。よく磨く人の場合でも、唾液1ccの中にいる細菌数は、糞便1gに含まれる細菌数の10倍になるという
「毎日、歯ブラシでしっかり磨いているので、歯周病の心配はない」と考えている人もいますが、歯ブラシだけでは、歯周病の原因となる歯垢を取り除くことはできません。
歯垢の除去率は、歯ブラシだけだと61%、デンタルフロスと併用で79%、歯間ブラシと併用で85%というデータがあります。一方、日本人はデンタルフロスや歯間ブラシの使用者が少ないのが残念です。
朝の新習慣として、口をゆすぐ、食前の歯みがきをする、食後の歯みがきはデンタルフロスや歯間ブラシも使うことをお勧めします。
歯ブラシだけでは落ちない!
歯垢除去率は、歯ブラシだけの場合、61%。歯ブラシとデンタルフロスを併用した場合、79%。歯ブラシと歯間ブラシを併用した場合、85%