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【インスリン・オフ療法とは】食事療法との併用で糖尿病歴が長い患者もインスリンから離脱できた!

インスリンをやめる方法を医師が知らない

 すい臓でインスリンを作ることができない1型糖尿病の人は、外からインスリンを補う必要がありますが、糖尿病患者の大多数を占める2型糖尿病では、インスリンの自己分泌能力は残っています。

 ただ、すい臓が疲弊してインスリンの分泌量が落ちている、あるいはインスリンが効きにくい体の状態になっているため、血糖値が高いままになってしまうのです。これらが改善されれば、インスリン注射をやめることも可能です。

 しかし、糖尿病の治療ガイドラインには、インスリンのやめ方は記されていません。「やめると数値が悪化するから続けなくてはいけない」と書かれています。医学部でインスリンのやめ方を教わることはなく、インスリンをやめるための治療を行う医師もほとんどいません。

 インスリンをやめられないのは、単に医師がその方法を知らないからです。また、インスリンの副作用の一つに、肥満があります。

 人間は、血糖値が下がると「おなかがすいた」と感じます。インスリンを打つと強制的に血糖値が下がるため、激しい空腹感を覚えます。

 すると、その反動で、意識的・無意識的に血糖値がすぐ上がるような食べ物、つまり糖質をドカ食いしてしまいます。

 ドカ食いした糖質は、インスリンの働きによって体脂肪に変換され、肥満になります。

 内臓脂肪が過剰に蓄積すると、脂肪細胞からインスリンの働きを妨げる悪玉物質が分泌されます。

 その結果、インスリンが効きづらくなり、さらに投与量を増やさなければいけない——という悪循環に陥るのです。

離脱率100%の「インスリン・オフ療法」

 糖尿病の患者さんの食事療法として「タンパク脂質食」を指導したところ、高血糖が改善する人が続出しました。

 そこで私は、食事療法をベースにした「インスリン・オフ療法」という新しい治療法を考案しました。

 これは、食事療法と薬をうまく組み合わせることで、インスリンが少なくても、血糖値が良好に保たれるような体の状態に変えていく治療法です。インスリン注射を行っている人は、インスリンがやめられるようになることを目標にします。

 インスリン・オフ療法による当院の脱インスリン率(インスリン自己注射をやめることができた人の割合)は、現在のところ100%。

 2014年から5年間の累積データでいうと、インスリンを自己注射していた2型糖尿病患者さん84例の全員が、脱インスリンに成功しています。インスリン離脱後も、糖尿病の合併症は出ていません。

 なるべくすい臓に負担をかけないで低インスリン状態を保つインスリン・オフ療法では、従来の標準的な糖尿病の薬物療法とは異なる考え方で、薬を用います。

 糖尿病の治療薬は、大きく分けると、次の4種類があります。

①すい臓に作用してインスリン分泌を促す薬

②腸からの糖の吸収を遅らせて食後の急激な血糖値の上昇を抑える薬

③尿中に糖を出して血糖値を下げる薬

④インスリンの働きを改善する薬

 従来の薬物療法では、①のインスリン分泌を促す薬がメインで使われていますが、インスリン・オフ療法では、すい臓にできるだけ負担をかけずに、低インスリン状態を保つことを目的に、薬を処方します。インスリン分泌を促す薬は、すい臓を疲弊させ、インスリンの自己分泌能力の低下を招くからです。

 インスリン分泌を促す薬を避けることは、糖尿病の服薬患者さんが安全にタンパク脂質食を実践する上でも重要です。

 インスリンの自己注射や、インスリン分泌を促す薬で最も恐ろしいのが「低血糖」です。

 血糖値が異常に下がると、強い空腹感、体のだるさ、冷や汗、顔面が青白くなる、頭痛、吐き気といった低血糖症状が現れます。ひどくなると意識を失い、命に関わる危険もあります。

 強制的にインスリンを分泌させるSU剤やグリニド薬などの薬は、タンパク脂質食と併用すると、低血糖のリスクが高まるので、自分が服用している薬をきちんとチェックした上で、食事療法を行う必要があります。

 タンパク脂質食は、糖質の摂取量が少ない食事なので、食後に血糖値が急上昇することをかなり抑えることができます。

 血糖値を下げるためにすい臓がインスリンを多量に分泌する必要もなくなるので、すい臓にかかる負担を減らせます。

 インスリン・オフ療法では、これに加え、腸からの糖の吸収を抑える薬や、血液中の余分な糖を尿中に排出する薬などを必要に応じて処方することで、体内のインスリンが少なくても血糖値が良好に保たれるような体の状態にしていきます。

いつから始めても遅くない

 インスリン・オフ療法は、いつから始めても遅すぎるということはありません。

 これまで私が経験した症例では、糖尿病予備軍や軽度の糖尿病の人はもちろん、糖尿病歴が長く、長年インスリン注射を続けて投与量がどんどん増えてしまった患者さんも、インスリン・オフ療法でインスリンから離脱できています。

 例えば、ある40代男性の患者さんは10年来の2型糖尿病で、1日に合計97単位のインスリンを打っていましたが、インスリン・オフ療法を始めて6カ月後には、完全にインスリンが必要なくなりました。

 112.8㎏あった体重は98.5㎏になり、半年で14.3㎏もの減量に成功。

 ヘモグロビンA1cは8・5%から6・5%に改善し、現在もインスリンなしで元気に過ごしています。

 軽度の糖尿病の人では、薬を使わず、高タンパク脂質食の食事療法だけで血糖値が改善するケースも多数あります。

命を永らえるための食事、薬、主治医選びを

 厚生労働省の調べによると、糖尿病とその予備軍は、合計およそ2000万人。日本人の6人に1人が、血糖値に問題を抱えている計算です。

 繰り返しますが、2型糖尿病は、糖質の多い食事が原因で発症します。予防・改善するには、食事の見直しが欠かせません。

 糖尿病は、合併症以外にも心身のさまざまな病気の発症リスクを高めます。

 糖尿病の人は、それ以外の人と比較して、男女ともに寿命が短いことが統計的にも明らかになっています。糖尿病を治すことは、自分の命を守るためにも必要なことなのです。

 糖尿病の人は、まず食事の見直しと改善を行った上で、薬やインスリンを含めた治療法を主治医に相談しましょう。

 今は糖尿病治療が目まぐるしく変化し、新旧が入り乱れた過渡期にあります。糖尿病の本質をよく理解し、本当に糖尿病がよくなる治療を提供してくれる医師を選び、自分の命を任せる主治医を選ぶことが、皆さんの今後の人生を大きく左右します。