専門医が警鐘!食後の血糖値が急激に上がる「血糖値スパイク」は突然死を招く
健康診断では通常、空腹時の血糖値を測定します。検査で「血糖値に異常なし」という結果が出ると、たいていの人は「私には糖尿病の心配はない」と思うでしょう。
しかし、実はそれだけでは安心できません。「血糖値スパイク」と呼ばれる血糖値の異常が、見逃されている可能性があるのです。近年の研究で、この血糖値スパイクが、体のいたるところにダメージを与え、健康寿命を縮めていることがわかってきました。
血糖値スパイクとは、グルコーススパイク、または食後高血糖とも呼ばれ、普段の血糖値は正常でも、食後の短時間だけ血糖値が急激に上昇する現象のことを言います。
ここで「食後の短時間は、誰でも血糖値が上がるのでは?」と誤解されているかたもいますが、健康な人は食後でも血糖値はほとんど上がりません。すい臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きによって、血液中の糖が速やかに筋肉の細胞などに取り込まれ、血糖値が適正な範囲(110㎎/dl未満)に調節されるからです。
ところが、インスリンが分泌されるタイミングが遅れたり、インスリンの効きめが悪くなったりすると、食後に血糖値が急上昇します。これが、血糖値スパイクです。
2016年10月8日に放送された「NHKスペシャル」では、この血糖値スパイクがテーマとなり、大きな反響を呼びました。番組では、血糖値スパイクが生じている人は日本全体で1400万人以上いると推定していました。また、ある調査では、40代以上の男女の約2割に血糖値スパイクの症状があるという結果も出ています。
血糖値スパイクの人は、食事のたびに血糖値が乱高下します。ただし、血糖値スパイクそのものには、自覚症状はありません。食事の後に気分が悪くなるから血糖値スパイクというわけでも、何も症状が出ないから血糖値スパイクでないとも限りません。そもそも糖尿病も、血糖値が正常値を大きく超えて上がらないと自覚症状は出ません。
しかし、急激な血糖値の乱高下は、確実に血管にダメージを与えます。これが繰り返されると、血管が硬く、もろくなる動脈硬化の進行が加速することがわかってきました。
血糖値スパイクが繰り返し起こると、血管内に活性酸素が大量に発生し、血管壁の細胞が傷つきます。すると、その修復のために集まった免疫細胞が、傷ついた血管壁の内側に入り込んで壁を厚くし、血管の内側が狭くなっていきます。これが動脈硬化です。
動脈硬化が進行すると、心臓や脳の大きな血管が詰まりやすくなり、脳梗塞や心筋梗塞など突然死を招く病気のリスクが高まります。糖尿病で高血糖の状態が続くと動脈硬化が進むことは以前から知られていましたが、一時的な食後高血糖でも動脈硬化を悪化させてしまうのです。
また、大規模な疫学調査の結果、血糖値スパイクのある人は、健康寿命が短くなることも判明しています。空腹時血糖値が正常でも、血糖値スパイクのある人では、死亡リスクが約1・5~3倍に跳ね上がるのです。
認知症の原因物質が脳に蓄積される
さらに、最近の研究で、血糖値スパイクが認知症の発症に関与している可能性も出てきました。
血糖値スパイクが起きている人の体内では、血液中の糖が細胞にうまく取り込めない状態になっているため、すい臓から大量のインスリンを分泌して、なんとか血糖値を正常レベルに戻しています。
これと同じ状態をネズミで再現する実験を行った結果、血中にインスリンが多い状態にしたネズミでは、記憶力が低下したのです。脳を調べてみると、アルツハイマー型認知症の原因物質と考えられているアミロイドという異常なたんぱく質の蓄積が進んでいました。アミロイドβが脳に蓄積すると、神経細胞が死んでしまいます。
このように血糖値スパイクは、老化を加速させ、さまざまな病気の引き金となる可能性があります。
また、血糖値スパイクは、すい臓の機能の低下を示す最初のサインでもあります。すい臓ががんばって大量のインスリンを分泌している間は、食後だけの一時的な高血糖で済みます。
しかし、その状態が続くと、すい臓はやがて疲弊し、インスリンの分泌量が低下してきます。そうなると、高血糖の状態が続くようになり、糖尿病を発症するのです。
したがって、血糖値スパイクを糖尿病の前段階ととらえて、適切な対策を講じることがたいせつです。
血糖値スパイクのリスクは、年を取るだけで高まっていきます。加齢とともに、インスリンを分泌するすい臓の働きも、インスリンの効きめ自体も、少しずつ弱くなっていくためです。
このようにほんとうは怖い血糖値スパイクですが、実は毎日の生活習慣を少し変えるだけで、簡単に予防・改善することができます。次に、私の勧める血糖値スパイク対策法を紹介します。
専門医も実践! 血糖値スパイク対策は「食事は野菜を先に食べる」「食後に体を動かす」
それでは、「血糖値スパイク」を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。血糖値の上がりやすさは遺伝や生まれ持った体質に関する部分もありますが、日頃の生活の中で気をつけることで、じゅうぶん対策が可能です。ここでは、私自身が日常生活で実践している方法を含めて、簡単で効果の高い血糖値スパイクの対策を紹介します。
【対策1】食事は野菜を先に食べる
まず重要なのが、食事のとり方です。血糖値を下げると言うと、一時ブームになった糖質の多い食品を控える「糖質制限食」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。
ただ、私は糖質は脳にとって唯一のエネルギー源なので、極端な糖質制限をする必要はないと考えます。ちょっとした食べ方の工夫で、血糖値スパイクは防ぐことができます。
まず、ぜひ実行していただきたいのが、野菜や海藻類を最初に食べる「ベジタブルファースト」です。これらの食品に多く含まれる食物繊維の作用により、後から食べる主食の糖質がゆっくりと吸収され、食後血糖値の急上昇を防ぎます。外食やコンビニ食のときも、野菜サラダや海藻の酢の物を1品追加して、最初に食べるだけでOKです。
野菜や海藻類を食べたら、次はおかずを食べ、できればご飯は小盛りに。こうして食べると、自然に糖質の摂取量も減らせます。早食いの人は、よく噛んでゆっくり食べることを心がけましょう。そうすることで満腹感が高まり、食べすぎを防ぐだけでなく、腸からインスリンの分泌を促すホルモンが出るので、食後の血糖値の上昇を抑えることにもつながります。
【対策2】朝昼夜の食事を抜かない
やってはいけないのは、食事を抜くことです。食事を抜くと、次の食事で血糖値が上がりやすくなります。朝は忙しいからと朝食を抜く人も多いと思いますが、朝こそしっかり食べてください。朝はきちんと食べ、昼は普通くらい、もし食事を控えるとしたら、夜を少なめにするのが理想です。
そして、夜遅く食べるのは避けてください。特にやってはいけないのが、食べた後にすぐ寝てしまうこと。そうすると血糖値がなかなか下がらないうえ、使われなかったエネルギーが脂肪として蓄えられ、肥満の原因にもなります。
おやつを食べた後はすぐ体を動かす
【対策3】食べたら30分以内に動く
「食べた後はすぐ動く」ことが血糖値スパイクを防ぐ上では重要です。できれば、食後15分~30分以内に体を動かすようにしてください。食後に散歩などの軽い運動を行うことで、血液中の糖が筋肉へ運ばれてエネルギーとなって使われるので、血糖値が下がります。
例えば、私は昼食に出かけた後、研究室のある9階まで階段を上がって戻ることにしています。
このときの運動は、散歩でなくても、掃除でも洗濯でもなんでもけっこうです。掃除や洗濯を済ませて食事をして、ゆっくりテレビを見るのではなく、先に食事をしてから掃除、洗濯などで体を動かすのが血糖値スパイクを防ぐ生活習慣です。例えば、朝食後にすぐ掃除をする、昼食後にすぐ買い物に行く、夕食後にすぐ犬の散歩に行くなど、ちょっと生活を変えるだけで血糖値の上昇を防ぐことができます。
おやつに甘いお菓子を食べても構いませんが、必ず「食べたら動く」を徹底してください。家事や運動をしたご褒美におやつを食べるのではなく、先にご褒美のおやつを食べてから家事や運動をするのが、血糖値を上げない生活習慣です。
また、運動の効果は、食後高血糖を防ぐだけではありません。運動をした日はしなかった日に比べて、1日の血糖値上昇を全体的に抑えることができます。軽い運動を習慣づけることによって、健康な人も糖尿病予備軍の人も糖尿病の人も、血糖値が上がりにくい体になります。しかも、インスリンが効率よく働くようになり、分泌されるインスリンの量も少なくて済むようになるため、すい臓にかかる負担を軽減できるわけです。
運動といっても、スポーツジムに通ったり、ランニングしたりといった本格的な運動でなくてもだいじょうぶです。日常生活のなかでこまめに動くこと、そして買い物でもなんでも1日20分以上を目安によく歩くだけでも全然違います。
【対策4】太らないこと
食事と運動に関係することですが、「太らないこと」も重要です。肥満がインスリンの働きを悪くして、高血糖状態を招くからです。
目安は20歳のときの体重です。見た目はさほど太っていなくても、20歳の頃よりも体重が増えている人は要注意。私は50歳の今でも20歳のときの体重をキープしています。
肥満の2大原因は食べすぎと運動不足ですから、食べすぎを避け、適度に体を動かして、ウエイトコントロールに努めましょう。
【対策5】ストレスをためない
心身にストレスがかかると、交感神経の働きが高まり、血糖値を上げるホルモンが分泌されます。ストレスはためこまないようにリラックスできる時間をつくりましょう。
以上の点に気をつければ、血糖値スパイクは起きにくくなります。特に食事と運動面には気を付けて、毎日の生活習慣に取り入れてください。