京都の名刹のなかでも歴史が深く、ひときわ神秘的な雰囲気が魅力の鞍馬寺。毎年5 月に開催される秘儀・五月満月祭には1000 人を超える人々が訪れます。40年もの間、鞍馬寺にお勤めしている曽根祥子さんに、鞍馬寺特有の尊天信仰について、そして大人気の五月満月祭について伺いました。
●本記事は『ゆほびかGOLD』2020年6月号の記事を再編集したものです。
●公式サイト https://www.kuramadera.or.jp/
●語り
鞍馬寺学芸員 曽根祥子
②三身一体の尊天を本尊と仰ぐ「尊天信仰」
鞍馬寺ではいわゆる本尊のことを、毘沙門天王、千手観音菩薩、護法魔王尊をあわせて「尊天」と表し、信仰しています。
毘沙門天王は、太陽の精霊にして光明を象徴します。千手観音菩薩は月輪の精霊として月と関わりが深い水(※注2)を表し、また慈愛の象徴でもあります。同じように、護法魔王尊は大地の霊王であり、さまざまな活力の象徴と考えられています。
※注2…鞍馬寺では、月が水のエネルギーを代表すると考えます
それら三身一体の尊天様は、実体があるものではなく鞍馬山が持つ気=万物を生み出す生命エネルギーであり、真理そのものだといいます。
「ご尊天については、エネルギーやパワー、霊気などという言葉で表現されるかたもいます。それはお釈迦様の説かれた法であり、天地の法でもあるという解釈もできます。ご尊天とは単純に目に見える像やお姿ではなく、働き全般のことなのです」
前述の通り、私たちはその働きを光明と慈愛と活力として感じることができます。
「三身が一体であるというのは、三角柱をイメージするとわかりやすいでしょう。
例えば毘沙門天様のほうから見ると、その裏側には観音様と魔王様がおいでになるし、魔王様からみると毘沙門天様と観音様が裏にいらっしゃる。あくまでご尊天は三身一体のものなのです」
それぞれのご本尊は本殿金堂に祀られており、秘仏のため60年に1度丙寅の年のみ開帳されています。
護法魔王尊のご本尊は絵像の秘仏ですが、光明心殿の木像でその姿を拝むことが叶います。
「かつて護法魔王尊影向の杉と呼ばれた大杉権現が、昭和25年のジェーン台風で倒れてしまいました。この影向の杉を護法魔王尊の姿に刻んだお像が光明心殿に祀られています。
天狗姿のお像ですが、不思議なことに15年ほど前から瞳の輝きがキラキラと増してきているのです。参詣の折には、ぜひこの不思議なお姿をご覧になってください」
ご尊天のご加護とは? いのちのふるさと鞍馬山
鞍馬寺のご利益はどんなものなのでしょう?
また、尊天様の働きを感じるとき、具体的にはどんな心地がするものなのかも気になるところです。
「鞍馬山に来ると、みなさんまず『気持ちがいいな』とか『清々しいな』とかお感じになると思います。参拝されると、ご尊天の力を受けて『がんばろう!』と思えたり、あるいは普段の自分を内省してみたくなったり、安らかな気持ちになったりするかもしれません。
ご尊天のうち、護法魔王尊は特に強い浄化のお力をお持ちです。また人々の心身を清浄にし、そこから新しいものを生み出す力を与えてくれる存在でもあります。ですので、ここは新たなエネルギーを得て充電するお山だと考えていただければと思います。
前貫主の信樂香仁がよく言っていたのですが、鞍馬は皆の心のふるさと、いのちのふるさと、安らぎのふるさとであるのです。訪れると、魂が深く癒されるのを感じていただけると思います」
(③に続きます)