消化吸収されないが健康面でメリットが多い
もずくは海藻の一種で、ワカメや昆布、ヒジキなどと同じく、茶色い色をした海藻の仲間(褐藻類)です。

もずくの名前は、ほかの海藻に付着して育つことから、「藻に付く」という意味の「藻付く」から、「もずく」と呼ばれるようになったといわれています。
日本各地の沿岸に広く分布していますが、特に沖縄県ではもずくの養殖が盛んで、全国のもずく生産量の95%以上を沖縄産が占めています。
もずくのおいしさは、トロリとした独特のぬめりと柔らかな食感にあります。このぬめりは、紫外線や乾燥、微生物や雑菌などの外敵から、海藻自身の身を守るためのもの。
もずくが表面に傷を受けたとき、そこから病原菌が侵入しないようにブロックする役目も果たしています。
ぬめりのある海藻はほかにもありますが、もずくのぬめりは主として「フコイダン」という成分で、ワカメや昆布のぬめりは「アルギン酸」という成分が主体になっているという違いがあります。
フコイダンやアルギン酸などのぬめり成分は、栄養素としては水溶性食物繊維に分類されます。
水溶性食物繊維は、人間の消化酵素では分解されない成分で、体内に入ると水に溶けてゼリー状になり、胃や腸をゆっくりと通過して、消化吸収されないまま、最後は便となって出ていきます。
その過程で、食事で一緒にとった糖質の吸収をゆるやかにしたり、満腹感をもたらしたり、腸内で善玉菌のエサになったり、腸内の余分なコレステロールや老廃物を吸着して体外に排出したりと、私たちの健康にプラスになる多くの働きをします。
つまり、もずくはヌルヌルのぬめり成分に覆われることで外界から身を守り、私たち人間はもずくのぬめり成分が消化吸収されずに腸内で働くことによって、健康面でさまざまなメリットを得ているわけです。
樹状細胞やNK細胞の活性化も促す
フコイダンは100年以上も前に発見された成分ですが、その健康作用について本格的に研究が行われるようになったのは、ここ20年くらいのことです。私自身は、フコイダンの免疫力を高める働きに注目して研究を行っています。
人間の腸は、病気や外敵から体を守る免疫力の要で、全身で働く免疫細胞の約7割が腸管内に集まっています。フコイダンは、腸管内で免疫細胞に働きかけ、その活性化を促します。
私たちの研究では、マクロファージ(病原微生物やがん細胞を食い殺す免疫細胞)の細胞表面にフコイダンが結合し、活性化することがわかりました。
免疫システムの司令塔として働く樹状細胞や、がん細胞などの異常細胞を攻撃するNK細胞といったほかの免疫細胞に対しても、フコイダンが活性化を促すことが報告されています。

免疫が誤作動したり過剰に働いたりすると、花粉症やアトピーなどのアレルギー性疾患につながりますが、フコイダンは免疫が過剰な状態を抑え、アレルギー症状を緩和するとの研究報告もあります。
そのほか、フコイダンに期待される健康作用としては、血糖値の上昇を抑え、血中の中性脂肪やコレステロールを減らす作用、体重の増加を抑える作用、腸内環境の改善・整腸作用、肝機能の向上、抗ウイルス・抗菌作用、肌の保湿、育毛作用などが研究発表されています。
これだけ幅広く多彩な健康機能の可能性が指摘されている食品成分はほかにあまり例がなく、私たち現代人にとって非常に有用な成分だと思います。
最近では、フコイダンと腸内環境の関係に着目した研究も進められているので、腸内環境を整えることによって得られる間接的な健康効果についても、解明されていくのではないかと期待しています。
食事の一品としての量でも健康効果は期待できる
私自身ももずくは好きで、よく食べています。海藻類は健康食材の代表格でもありますし、意識して積極的にもずくをとるのは、いいことだと思います。
特にダイエット中は免疫力が低下しやすく、食事の量を減らすと食物繊維の摂取量も減り、便秘などの腸トラブルに見舞われがちです。
免疫力を高め、腸内環境を整えるフコイダンが豊富なもずくは、ダイエットのサポート役としてもうってつけでしょう。
フコイダンの含有量は、もずく全体の数%程度。ヒト臨床試験で用いられている量のフコイダンを摂取するには、1回にもずくを数十g~100gとる計算になりますが、毎日とるのは大変です。
それでも、普通に食事の一品として、おいしく食べられる程度の量でもじゅうぶん健康効果は期待できると思います。
私はふだん、加工品のもずくを利用することが多いのですが、新物の「生もずく」が出回る時期には新物を食べるようにしています。
塩漬け保存のもずくを加工した市販品も便利ですが、やはり新鮮な旬のもののほうが栄養価も高いと思います。