アルコールの依存性は違法薬物と同じくらい強い
「酒は百薬の長」といいますが、それはほんとうなのでしょうか。確かなのは、アルコールは違法薬物と同じくらい依存性の高い薬物だということです。
薬物の依存性の強さは、薬物自己投与装置を使った実験で調べることができます。
この装置は、実験動物がレバーを押すと自分に薬物が投与されるしくみになっていて、依存症になった実験動物は薬物が欲しいあまり、ひたすらレバーを押し続けます。
アカゲザルを使った実験では、当初はレバーを100回押すと薬物が出てくる設定にし、その設定回数を徐々に上げていくと、依存症になったアカゲザルは、アルコールを求めて1600~6400回もレバーを押し続けました。
これは違法薬物であるモルヒネと同等、覚せい剤より少し劣る程度の依存性の強さです。
アルコールを摂取すると、脳内では強烈な快楽をもたらすドーパミンや、不安や苦痛をやわらげるセロトニンやオピオイドといった神経伝達物質が分泌されます。
その快感を求めて「もっと飲みたい」とはまっていき、精神的な依存が形成されます。お酒とは、100円で脳の快楽が合法的に手に入る「薬物」なのです。
どんな薬物にも、必ず副作用があります。アルコールの副作用には、急性アルコール中毒に代表される急性のものと、慢性のものがあり、慢性の副作用は過剰摂取の積み重ねから、じわりじわりと気づかないうちに少しずつ進行していきます。
例えば、「わかっちゃいるけど、やめられない」というのは、すでに依存症という副作用が進行している状態。
依存性が強まり、飲酒が習慣化するうちにアルコールに対する耐性ができて飲む量が増えていき、健康を害したり、飲酒が原因で仕事や人間関係に支障をきたしたりと、さまざまな問題が現れます。
「アルコール依存症は特別な人がなる病気」と思われがちですが、決して他人事ではないのです。

「飲み過ぎは万病のもと」と考えるのが正しい
現在、国内のアルコール依存症の患者数は約100万人ですが、その手前の予備軍まで入れると1000万人以上。これは糖尿病や花粉症の患者数に匹敵する人数で、女性のアルコール依存も増えています。
長期・大量飲酒は、しだいに体の健康問題として現れてきます。私のところにくるかたは、崖っぷちどころか、崖を転がり落ちる途中で必死にしがみついているような、満身創痍の状態の人がほとんどです。
飲酒をやめられないために家庭が崩壊し、仕事も失い、肝硬変などの病気も進行し、禁酒しなければ命も危ない、という人も少なくありません。
治療では、完全にお酒を絶ち、シラフで生活できるまで「回復」することがゴールになりますが、治療後は患者さん自身の意思で禁酒生活を続けていかなくてはなりません。
そのためには、強制的な断酒など外的要因だけでは無理で、内的要因、つまり、本人の気づきが不可欠です。
飲酒のメリットとデメリットを正しく理解し、「飲めないなら死んだほうがまし」という考えから「シラフだから幸せになれる」という考えへと価値観を転換し、自分で自律的に断酒のための行動を取れるようになるまで支援するのが、私たちの役目です。
治療に入る患者さんたちには、「数年後には、今日が新しい人生の出発点だったと思えますよ」と声をかけています。

上の欄に示した通り、大量飲酒が直接的・間接的な原因となっている病気は多岐にわたります。WHO(世界保健機関)も「アルコールの有害な使用は世界の健康問題で最大のリスク要因の1つである」と勧告しています。「飲み過ぎは万病のもと」と考えるのが正解でしょう。
いくら健康に気をつけている人でも、問題の根っこに飲酒習慣があるということは、見逃しがちです。
特に、晩酌が習慣になっている人や、コロナ禍(か)で家飲みが増えた人などは、この機会に、自分のお酒の飲み方を見直してみることを強くお勧めします。
お酒をやめると体にはメリットしかない

飲酒には、気分をリラックスさせたり、楽しい気分になったり、精神的な効用はありますが、肉体的には百害あって一利なし。お酒をやめるとたくさんのメリットがあります。
①ぐっすり眠れる
アルコールは睡眠の質を低下させます。お酒をやめると熟睡できるようになり、朝の目覚めも爽快です。
②体重が減る
飲酒は食欲を増進させ、食べ過ぎを招きます。お酒をやめるとバランスのとれた食生活が容易になり、自然にダイエットできます。
③肌の調子がよくなる
アルコールが分解される過程で生じるアセトアルデヒドや活性酸素は、内臓や皮膚に炎症を起こし、老化を早めます。お酒をやめると、目に見えて肌の調子がよくなります。
④出費が抑えられる
お酒をやめれば飲み代が節約でき、無駄な出費が抑えられます。
⑤生活習慣病やがんのリスクが減る
前にも説明したとおり、飲み過ぎは万病のもと。飲酒しなければ、がんをはじめ、すべての生活習慣病のリスクを下げ、健康寿命を延ばすことができます。
⑥思考がクリアになる
お酒を飲まなければ朝から頭がクリア。元気に1日を始められます。
⑦時間にゆとりができる
飲み会や晩酌の時間がカットされると、時間にゆとりが生まれます。その余裕時間を趣味や勉強、家族や友人との交流など創造的なことに使えば、人生が充実していきます。
いかがでしょうか?
「飲まない生活もよさそうだな」と思ったら、ぜひ断酒にチャレンジしてみてください。お酒をやめてつらいのは、最初の2週間だけ。脳は3カ月でお酒がない状態に慣れて、酒を必要としなくなります。
「飲まない生活」にするとすぐに実感できる7つのメリット

最後に、自分の飲み方のリスクがどの程度かがわかる「AUDIT」という簡単なテストを紹介します。今、自分はお酒にどれだけ依存しているのかを知るために、ぜひ一度チェックしてみてください。
世界で最も使われている飲み過ぎかどうかがわかるセルフテスト「AUDIT」
次の10の問いに対し、当てはまるものを1つ選んで、選んだ番号を加算していってください。
①お酒をどのくらいの頻度で飲みますか?
⓿飲まない ❶1カ月に1回以下 ❷1カ月に2~4回 ❸1週間に2~4回 ❹1週間に4回以上
②お酒を飲むときはいつもどのくらいの量を飲みますか?
⓿1~2ドリンク ❶3~4ドリンク ❷5~6ドリンク ❸7~9ドリンク ❹10ドリンク以上
■1ドリンク=純アルコール10gを含むアルコール飲料
日本酒 | ウイスキー | ビール | 缶チューハイ | 焼酎・泡盛 | ワイン |
15% | 40% | 5% | 8% | 25% | 12% |
1合(180㎖) | ダブル1杯 | 中瓶1本(500㎖) | 1缶(350㎖) | 1合(180㎖) | グラス1杯 |
2.2ドリンク | 2.1ドリンク | 2ドリンク | 2.2ドリンク | 3.6ドリンク | 1.2ドリンク |
③ 6ドリンク以上飲むことがどのくらいの頻度でありますか?
⓿ない ❶1カ月に1回未満 ❷1カ月に1回 ❸1週間に1回 ❹ほとんど毎日
④過去1年間に飲み始めるとやめられなかったことがどのくらいありますか?
⓿ない ❶1カ月に1回未満 ❷1カ月に1回 ❸1週間に1回 ❹ほとんど毎日
⑤過去1年間に普通だと行えることを飲酒のために行えなかったことがどのくらいありますか?
⓿ない ❶1カ月に1回未満 ❷1カ月に1回 ❸1週間に1回 ❹ほとんど毎日
⑥過去1年間に深酒の翌朝に迎え酒をしたことがどのくらいありますか?
⓿ない ❶1カ月に1回未満 ❷1カ月に1回 ❸1週間に1回 ❹ほとんど毎日
⑦過去1年間に飲酒後、罪悪感や自責の念にかられたことはどのくらいありますか?
⓿ない ❶1カ月に1回未満 ❷1カ月に1回 ❸1週間に1回 ❹ほとんど毎日
⑧過去1年間に飲酒のために前夜のことが思い出せなかったことがどのくらいありますか?
⓿ない ❶1カ月に1回未満 ❷1カ月に1回 ❸1週間に1回 ❹ほとんど毎日
⑨飲酒が原因であなたやほかの誰かがけがをしたことがありますか?
⓿ない ❷あるが、過去1年にはなし ❹過去1年間にあり
⑩家族や友人、医師から飲酒を心配されたり量を減らすように勧められたことはありますか?
⓿ない ❷あるが、過去1年にはなし ❹過去1年間にあり
1~10の質問で選んだ数字を合計してください。
〈診断〉
【7点以下】問題のない飲み方(ローリスク飲酒群)
特に問題ありません。1日の飲酒量は、ビール350㎖またはワイングラス1杯以内をキープしましょう。
【8~14点】有害飲酒レベル(ハイリスク飲酒群)
このままの飲酒量を続けると、健康を害する恐れがあります。お酒の量を今よりも減らすことをお勧めします。
【15~19点】危険な飲酒レベル(依存症予備群)
自分の健康だけでなく家族や職場での生活に悪影響が及んでいることが考えられます。依存症を発生している可能性もあります。禁酒治療の専門医へ相談することをお勧めします。
【20点以上】早急な治療が必要(依存症群)
アルコール依存症を強く疑います。なるべく早く禁酒治療の専門医を受診することをお勧めします。