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80歳からでも脳は育つ! 効率よく脳を刺激し一生成長させる「脳番地別5分脳トレ」(前編)

脳が衰える原因はマンネリ。使わないところが衰える

 私は30年以上かけて、小児から100歳以上の高齢者まで1万人以上の人たちの脳をMRI(磁気共鳴画像法)画像で観察・分析し、脳の機能と成長について研究してきました。そこから確信を持って断言できるのは、「脳は鍛えれば、命尽きるまで成長し続ける」ということです。

 脳の神経細胞は、およそ1歳を過ぎると減少していきますが、実は、それよりはるかに多くの、まだ使われていない未熟な神経細胞が眠っています。

 新しいことを経験したり、考えたりして脳を使っていくと、未成長の神経細胞が枝のように伸びて、脳内の複数の部位をつなぎ、ネットワークが密になっていきます。これが「脳が成長する」ということです。

 知識や情報を記憶する、思考や判断を行う、体を動かす指令を出すなど、脳にはさまざまな機能があり、脳の部位ごとに違う機能を担っています。私は、それらを機能別に8つの部位に分けて、「脳番地」と名付けました(下図参照)。

脳には部位ごとに異なる機能があり、同じような機能をまとめると8つのエリア(脳番地)に分けることができる。8つの脳番地は連携し合って働いているが、脳の使い方は人によって偏りがある。使わない脳番地は機能が衰えてしまうため、日常生活の中で8つの脳番地をまんべんなく使うことが重要

 各脳番地は連携し合って働いていますが、人それぞれに「よく使う脳番地」もあれば、「あまり使わない脳番地」もあります。使わない番地は当然、機能が衰えていくことになりますが、「マンネリ」も、脳を衰えさせる大きな原因です。

 人は同じことを何度も経験すると、脳内では自動的に最短ルートが使われるようになり、何も考えずに行動できるようになります。こうしたマンネリ化が常態になると、脳が活発に動きません。脳を活性化させ、脳の成長を促すには、いつもと違う行動、新しい経験をして、脳に刺激を与え続けることがたいせつです。

脳の疲れは「体が重い」「言葉が出ない」に現れる

 どんな人でも、仕事や勉強などで脳をフル回転させれば、脳疲労の状態になります。

 使いすぎによる脳の疲れは、1日の中でも血圧が高く、ストレスを感じやすい夕方に出ることが多いようです。

 ただし、体は筋肉を酷使したところに疲れを感じますが、脳の場合は、必ずしもそうではありません。脳疲労の主なサインは、「体が重い」「とっさに言葉が出にくくなる」「しゃべるのが億劫になる」「考えがまとまらない」「やる気や意欲が急降下する」など、脳のある場所とは関係のない形で現れます。

 これは、脳には自身の疲労を感知するセンサーがないためです。また、デスクワークで運動系脳や体をほとんど動かしていないのに、体が疲れたと感じるといった具合に、酷使して疲労した脳番地とは別のところに疲れを感じることも多いのです。

 頭脳労働で疲れたときは、体を動かして運動系脳を使うなど、別の脳番地を積極的に使ってあげると、脳疲労が早く回復します。

 また、自分がふだんよく使う脳番地は、ハードに働かせてもあまり疲れませんが、ほとんど使わない脳番地は、神経回路が未発達なため疲れやすく、意外な形で脳疲労が出ることがあります。

 例えば、会話を煩わしく感じるときは、コミュニケーションをつかさどる伝達系脳番地の疲労のように思えますが、実際は、言葉を理解する理解系脳番地が弱いために疲れやすかったり、音声情報を聴き取る聴覚系脳番地が弱いことが原因だったりします。

 スマホやパソコンを見る時間が長い現代人は、視覚系脳番地を酷使しがちで、視覚系脳番地の使いすぎによる脳疲労が多いと思います。

 長引くコロナ禍で外出や人と接する機会が減り、運動系脳番地や伝達系脳番地をあまり使わない生活が続いたことで、これらの脳番地が疲れやすい状態になっている人も多いでしょう。

 脳の機能をまんべんなく使い、鍛えておくことは、疲れにくいタフな脳を育てる意味でもたいせつです。

8つのエリアをまんべんなく鍛える

 体と同様に、脳も使わない部分から衰えていきます。幅広い年代の人たちの脳を見てきた全体的な傾向として、40代までは右肩上がりに脳が成長していきますが、50代以降になると、その人がふだんよく使っている脳番地は成長を続けるものの、使わない脳番地は成長が止まり、衰えていきます。

 中高年の人は「鍛えたところだけ脳が成長する」と心得て、意識して脳を鍛え育てるトレーニングを始めましょう。

 脳の機能は、互いに連携しながら働き、使わない機能は衰えていくので、8つのエリア(脳番地)をまんべんなく鍛えていくことが重要です。脳番地を意識してトレーニングすることで効率よく脳を活性化し、脳を成長させることができます。

 脳の成長は、MRI画像では、神経細胞のネットワークの黒い枝ぶりとなって現れます。脳のトレーニングを行えば、80歳の高齢者でも神経回路の枝が太く大きく広がり、脳は成長していきます。一生涯、脳には成長の余地があり、脳のトレーニングは何歳からでも遅すぎることはないのです。

 私は、脳のトレーニングは単なる老化対策ではなく、「脳にとっての楽しいお勉強」だと考えています。マンネリではない新しい刺激や情報に触れたり、未経験のことができるようになったりすることは、脳にとって大きな喜びであり、新たな機能を学習・獲得して脳が成長していくことは、私たちの人生をより楽しく充実させていくからです。

 本記事の後編では、8つの脳番地別に、日常生活の中で手軽にできるトレーニング方法を紹介します。

 ぜひ心がけていただきたいのが、「おもしろそう!」「どう変わっていくんだろう?」とワクワクした気持ちで、楽しみながら取り組むこと。脳を成長させる栄養素は、「○○したい」という前向きな気持ちと、未知の世界への好奇心だからです。

 自分なりにやり方をアレンジしてもOKなので、毎日の生活に楽しく脳トレを取り入れていきましょう。

(後編に続きます)