脳と足は関連が深いと研究から判明
私はこれまで、胎児から100歳を超える高齢者まで1万人以上の人たちの脳をMRI(磁気共鳴画像法)画像で観察・分析し、脳の機能と成長について研究してきました。
長年の研究からわかったのは、脳は死ぬまで成長を続けるということ。人は何歳になっても自分の脳を自分で理想どおりに育てていくことができるのです。
そして、脳と「足」は、実はとても関連が深いということもわかりました。
脳には1000億個を超える神経細胞が存在していますが、記憶に関わる細胞集団、運動に関わる細胞集団といったぐあいに、同じような働きをする細胞同士が集まって集団を構成しています。
私は、場所によって機能が異なる脳を1枚の地図に見立て、その働きごとに住所を割り振りました。これを「脳番地」と呼んでいます。脳番地は、左脳と右脳に各60ずつあります。
足を動かす脳番地は、頭のつむじの真下あたりにあります。足の脳番地の大きさは、大人では通常、1円玉の半分くらいですが、これは人によってさまざまで、足をよく使う人は、2倍くらいの大きさになることもあります。
例えば、元プロボクシング世界チャンピオンの具志堅用高さんは、多くの人々の脳画像を見てきた私も驚くほど、足の脳番地が大きかったです。ボクシングは細かいステップワークが重要なので、自然と足の脳番地も鍛えられたのでしょう。
脳番地を鍛えるには、その脳番地の機能に関連するさまざまな情報を吸収して経験を積み、使い込むことが必要です。情報が入ってくることで休眠中の未熟な神経細胞が刺激を受け、樹木が枝を伸ばすように、脳神経が太く大きく広がっていきます。
また、脳の働きは、脳番地同士の連携によって成り立っています。例えば、散歩しているときも、足を含め全身を動かすことに関係する運動系脳番地に加え、目からの情報収集を担う視覚系脳番地、聴覚に関わる聴覚系脳番地など、複数の脳番地が連携して働いています。
このように、異なる脳番地同士のつながりを強くすることも、脳の機能を強化するうえで、たいへん重要です。
足を動かす脳番地を鍛えることは、私たちの健康にとっても大きな意味があります。
足腰の筋力や運動系脳番地が発達していれば、高齢になっても転倒や骨折のリスクを低く抑えることができます。そのうえ、足を動かす脳番地の周辺は、頭頂部なので血流が届きにくく、を起こしやすい場所です。足の脳番地を積極的に使っていると、頭頂部まで血流が活発になるため、脳梗塞の予防にもつながります。
足の脳番地を鍛える3つのメソッド
では、足の脳番地を鍛える効果的な方法について説明しましょう。
●脳トレ足もみ
足の指先から足の太ももまで、足全体をマッサージすることは、たいへん有効です。自分の体を手でさわってもみほぐすことは、皮膚感覚を司る脳番地に刺激を送り、「ここに足がある」と脳にしっかり認識させることにつながります。
皮膚感覚を司る脳番地は、体を動かす脳番地と隣接しており、互いに連携しながら同時に成長するので、皮膚感覚が敏感になると運動系脳番地も鍛えられるのです。
●綱渡り歩き
脳にとってよい刺激になるのは、日常とは違う、無意識にはできない動きをすることです。「綱渡り歩き」もその一つです。これは写真のように、床を綱渡りしているイメージで歩くというものです。
しっかりと意識しながら歩かないと進めないため、脳が鍛えられます。また、足の小指を踏みしめてバランスを取りながら歩くため、転倒予防のトレーニングにもなります。
●ユラユラ体操
足の小指は、ふだんあまり意識していませんが、実は全身のバランスを取りながら歩くのに大きな役割を果たしています。加齢とともに転倒しやすくなるのは、足の小指の筋力が衰えるためです。
左右の足の小指に、交互に体重を乗せながら、体をユラユラさせる「ユラユラ体操」も同時に行っておくと、さらに強い足を作れます。
足をもんだり、鍛えたりすることは、いつまでも自分で歩ける強い足腰の礎になるだけでなく、脳梗塞や認知症を防ぐ効果も期待できます。ぜひこれらを生活の中に取り入れてみてください。