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【骨盤底筋群】に働きかけて尿もれを予防・改善する簡単ヨガ~カリスマ医師が解説!

尿もれがあるだけで生活の質は著しくダウン

 日本の女性の平均寿命は87.5歳。毎年のように過去最高を更新しています。長生きはすばらしいことですが、一方で困ることも起こってきます。その一つが、尿もれです。

 尿もれで命を落とすことはありませんが、尿もれがあるせいで外出ができなくなるなど、自分の思うような人生を生きられないという点で、著しく生活の質を低下させます。

 時間もお金も体力もあるのに、尿もれがあるだけで、したいことができない。そんなつまらない人生になってしまいかねません。

 この尿もれに対し、何かできることはないかと女性たちが声を上げ、「骨盤底筋群」という筋肉が注目されるようになったのは、わずか10年ほど前のことです。

 では、なぜ長生きすると、尿もれに悩む女性が増えるのでしょうか。

 そのカギを握るのが、骨盤とその周囲についている骨盤底筋群です。まず、骨盤と骨盤底筋群の役割について、ご説明しましょう。

 手のひらをお尻の中央に、中指をお尻の割れ目に沿うように当てると、仙骨という逆三角形の骨に当たります。仙骨は、背骨とつながっている骨です(下の図参照)。

 また、骨盤の左右の骨は、足を動かす大腿骨という骨とつながっています。つまり、骨盤というのは、上半身と下半身をつなぐとても重要な骨になります。

 骨盤の役割はそれだけではありません。四足歩行の動物は、背骨が地面と平行にあり、内臓は背骨の下に横一列に並んでいます。ところが、人間は二足歩行のため、背骨や内臓が地面に対して垂直の位置にあります。当然、重力の影響を受けて内臓は下がりやすく、落っこちそうな状態であり、それを支えているのが骨盤です(下の図参照)。

骨盤は内臓の重みを支える役割もしている

 内臓を支えるという役割を考えれば、骨盤に穴はなく、閉じているのが望ましいのですが、骨盤には開けておかなければならない穴がいくつかあります。

 排尿するための尿道、排便するための肛門、そして女性の場合は、赤ちゃんが通る腟も必要です。

 この穴を塞ぐ役割をするのが、骨盤底筋群という筋肉群になります。骨盤底筋群は、生理用のナプキンが当たるところに分布しています。

 骨盤底筋群には、三つの穴を取り巻いている筋肉があります。尿道と腟はセットで、お尻の穴は単独で、8の字状に取り囲まれています。

 この穴の中で、人生のある一時期だけ、大きな変化があるのが腟です。出産のとき、赤ちゃんの頭を通すため、プリンスメロンよりも大きく引き伸ばされます。

 当然、周囲の筋肉も大きく引き伸ばされます。その影響をもろに受けるのが、腟とセットで同じ筋肉群に取り巻かれている尿道です。このため、出産後しばらく、尿もれに悩まされる女性は非常に多いのです。

エストロゲンが激減する産後と更年期が危ない

 出産時に大きく引き伸ばされた骨盤底筋群は、その後、徐々に戻っていきます。しかしながら、元通りに戻るわけではなく、フワーッと、ゆるく戻っているだけなので、産後しばらくは物理的に尿もれしやすい状態と言えます。

 さらに出産後は、女性ホルモンの「エストロゲン」が欠乏します。妊娠中は胎盤がエストロゲンを産生しますが、産後、胎盤は外に排出されます。妊娠中たっぷりあったエストロゲンは、ほぼゼロになります。

 エストロゲンには、筋肉の減少を防ぎ、筋力を維持する働きがありますが、生理が戻るまでの半年~1年くらいは、エストロゲンなしの生活になります。これも、産後の女性が尿もれしやすい理由の一つです。

 これと同じような状況に置かれるのが、閉経後の女性です。

 更年期以降、エストロゲンは急速に減少し、閉経後はわずかしか体内に存在しません。また、分娩によってダメージを受けた骨盤底筋群は、加齢やエストロゲン分泌量の低下で筋力を保てず、尿もれしやすい状態になります。

 20~40代と60代以降という、まったく異なる年代で同一の症状が起こっているのは、エストロゲンの減少が原因なのです。

 そこで、尿もれを改善するために推奨されているのが、骨盤底筋トレーニングです。

 産婦人科医として、私は産後と閉経後の女性だけでなく、その間にいる、尿もれに悩まされていない年代の女性たちにも骨盤底筋トレーニングが必要だと思っています。

 産後の尿もれが、いずれ治まるというのは事実です。しかし、産後1年以上尿もれのあった人は、閉経以降の尿もれのハイリスク群となります。

 ですから尿もれがない年代からトレーニングを行い、閉経後の尿もれを予防してほしいと思います。

 次項では、骨盤底筋群を鍛えるヨガをご紹介します。

 これは、大きな筋肉群(大殿筋(だいでんきん)やハムストリングス)を鍛えることで、それらとつながっている骨盤底筋群を間接的に鍛えるという方法です。誰にでも実践でき、非常に効果の高い方法です。ぜひお試しください。

骨盤底筋群に働きかけて【尿もれ】を予防・改善するヨガ

 私は解剖学や婦人科学に基づいたヨガを提唱し、女性のさまざまな体の変化や不調、不安などをサポートしています。その中に、骨盤底筋群をトレーニングするヨガがあります。

 尿もれに対して、多くの場合、骨盤底筋を直接鍛えるトレーニング(骨盤底筋体操など)が行われています。それに対して、今回、私がご紹介するヨガは、骨盤底筋を間接的に鍛えるトレーニングです。

 お尻や太もも、体幹などの大きな筋肉を使うことによって、それらの筋肉とつながっている骨盤底筋群を鍛えられるのです。

 寝ながらひざを立ててお尻を上げる「ワイドブリッジ」というヨガで、両ひざを寄せることで内転筋(太ももの内側の筋肉)に、お尻を上げることで臀筋(でんきん)(お尻の筋肉)に力が入ります。これらの動きは間接的に、骨盤底筋群を鍛えます。

 やり方は下に示しますが、ポイントは次の3点です。

①お尻を持ち上げるとき、太もものつけ根を天井に向け押し上げる

 このときお尻がキュッと締まります。太もものつけ根が屈曲していると、お尻に効きません。

②足幅を少し広めにする

 広めのほうが立てたひざが斜めになって、内転筋を巻き込みやすくなります。

③かかとを手の中指に近づけ、なるべく体に寄せる

 かかとが体に近いほうが、お尻によく効かせられます。ひざがつらいかたは、ひざの間にクッションを挟み、クッションを潰しながらお尻を上げます。

 これを1日2回、朝起きたときと寝る前に行うといいでしょう。

ワイドブリッジのやり方

今のあなたが20年後のあなたをつくっている

 骨盤底筋群を鍛えるトレーニングには、「肛門を締める」とか、「ティッシュペーパーを引き上げるイメージで腟を締る」といったものが見られます。

 これでうまくトレーニングができる人もいますが、イメージが伝わりにくく、「よくわからない」という人も多かったのではないでしょうか。

 実際、エコー(超音波画像診断)で腟の引き上げを検査すると、引き上げるどころか、押し下げてしまい、逆効果になっているケースも少なからず見受けられました。

 このように直接的なトレーニングがうまくできない、やり方がわからないという人は、楽に動かせる筋肉を鍛えることで、「ついでに骨盤底筋群が鍛えられちゃっている」というのが理想です。

 どうもうまくいかない、がんばっているのに効果が見られないというかたは、このヨガの併用をお勧めします。

 トレーニングは、最低でも2カ月は続けてください。尿もれのある人は、その回数が減ったり、尿のもれる量が減ったりします。

 また、それ以外の効果も期待できます。例えば、お尻が持ち上がったり、ウエスト周りが引き締まったり、ネコ背が改善したりします。

 それからもう一つ。このヨガに限らず、どんな運動も骨盤底筋群にプラスに働くと言っても過言ではありません。ウォーキングでもなんでもいいですから、体を動かすことが大事です。

 尿もれが心配な人は、尿もれパッドを当ててでも体を動かしましょう。動かないのが最も尿もれの悪化につながります。

 現代は、どんなことをすれば体によいのか科学的にわかってきた時代です。それを賢く選択して続けた人と何もしない人とでは、知らない間に大きな差がつきます。

 閉経後に多くの女性が尿もれになることも、それを予防する方法も、すでにわかっています。ですから、そうならないように、今からできることをやっておきませんか?

 今、選んでやっていることが、間違いなく10年後、20年後のあなたをつくっています。何歳でも、体を動かすのに遅いことはありません。

 理想とする人生を生きるための手段の一つとして、骨盤底筋群を鍛えましょう。