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【インスリン節約ダイエット】糖質制限との違いは?カロリー制限なしで減量できる理由

食べながらやせる「炭水化物インスリンモデル」とは

「1日の総カロリー数を1500㎉以内に抑えないと」「油ものや甘いものを我慢しなきゃ」……ダイエットしたい人は少しでも摂取カロリーを減らそうと涙ぐましい努力をされています。これは、50年以上前より続く「エネルギーバランスモデル」説により、高カロリー食が肥満の原因と考えている人が多いからです。

しかし、私に言わせると、これはまったく無駄な努力。最新の研究によれば、カロリー制限は長期的にみれば「百害あって一利なし」。まったく間違ったダイエット法と言わざるを得ないのです。

このようなカロリー制限をしなくても、無理なくやせる方法があります。それが最新の医学的知見に基づき、2021年9月に米国栄養学会が提唱した「炭水化物インスリンモデル」によるダイエット法です。

医師としてカロリー制限ダイエットに疑問を抱く

私は総合内科専門医、循環器専門医として、また、200社以上の産業医として、30年以上にわたり、生活習慣病を抱えた人を対象に食事指導や運動指導をしてきました。

産業医というのは、健康診断で「肥満」と診断されたかたが、将来的に糖尿病、高血圧などの生活習慣病になることを未然に防ぐために何をすべきか、いっしょに考えていく予防医学の専門医です。

生活習慣病の予防や改善に非常に有効なのが「減量」です。

しかし、生活習慣病予備軍の人に、いくら「食べすぎに気をつけて」「カロリー制限をしてください」「運動もしないといけませんよ」と勧めても、ほとんどの人は守れません。また、仮に守れた人でも、最初の数カ月は体重が落ちるものの、多くの人はやがてリバウンドして、以前よりも太ってしまうのです。

「こんな食事指導の方法は、間違っているのではないか」。私がそう思ったのは、今から20年前のことです。実はこの頃、私自身が肥満傾向にあり、理想体重よりも20㎏近くオーバーしていました。

当時は仕事が忙しく、ストレスも多く、食生活も乱れていました。朝食は食べず、夜も遅い時間に食事をして、暴飲暴食でストレスを解消する日々。不摂生がたたり、ついには心臓病を発症してしまい、これを機にダイエットを決意しました。

それからは、国内外のダイエットに関する医学的文献に目を通し、ダイエットの研究を始め、さまざまなダイエット法を自ら実践して効果を確認することを繰り返しました。そんな試行錯誤の末、私は2つのことを発見しました。

それは、
①従来のカロリーを制限するダイエットでは、3カ月程度で体重は減るものの内臓脂肪はあまり減少せず、筋肉量が減り、代謝も落ちてかえって太りやすい体質に変化する。1年以内に80%以上の人が、元の体重以上にリバウンドする
②カロリー制限と糖質制限では、同じように体重が5㎏減少しても、体脂肪の減量率に差がある。カロリー制限では、筋肉量の減少が大きな割合を占め、糖質制限では内臓脂肪の減少率が高い。このことから、内臓脂肪を減らすにはカロリー制限ではなく、食後の血糖値の上昇を抑え、インスリンの分泌量を抑えることがカギとなる

という2つの点です。それぞれについて詳しく解説していきます。

カロリー制限が失敗する理由

摂取カロリーと消費カロリーの差が、脂肪の蓄積の原因であるという理論を「エネルギーバランスモデル」と言います。現在のほとんどのダイエット法はこの理論に基づいていますが、エネルギーバランスモデルには大きな問題が2つあります。

まず一つ目に、カロリーを優先して肉や乳製品などのたんぱく質を控えると、体がたんぱく質不足に陥って、筋肉量が減り、基礎代謝が低下することです。基礎代謝が落ちると、1日に消費するカロリー量も減り、やせた体を維持、またはもっとやせようとすると、よりいっそうのカロリー制限が必要になります。

そして、二つ目に、カロリー制限を続けていると、食欲を亢進させ、脂肪の蓄積を促進するホルモン「グレリン」が過剰に分泌されることです。カロリー制限ダイエットでリバウンドするのは、単に意志が弱いからではありません。グレリンの作用によるものなのです。

カロリー制限中にストレスがたまるのは食欲を増やすホルモンが過剰に分泌されるため

カロリー制限を続けてしばらくすると、先述の基礎代謝の減少から、体重が落ちにくくなる停滞期を迎えます。この停滞期は、カロリーを制限しているのに体重がなかなか落ちない苦しい期間です。この時期に大量に分泌されるグレリンに負けて、カロリー制限を緩めてしまうと一気にリバウンドします。

しかも、基礎代謝が落ちていますから、食べる量が以前と同じでも体重はどんどん増え続けます。また、一度カロリー制限を行うと、グレリンの過剰分泌は1年以上続くというデータもあります。

カロリー制限で一度はダイエットに成功しても、時間が経つとリバウンドする理由はここにあるのです。

インスリンの分泌こそが太る要因だった

そこで私がお勧めするのは、カロリー制限や厳しい糖質制限に頼らない「インスリンを節約する」という食事のとり方です。これは「炭水化物インスリンモデル」説に基づく最新のダイエット法で、私は「インスリン節約ダイエット」と呼んでいます。

インスリンとは、食事により血糖値が上昇すると、すい臓から血液中に分泌され、血糖値を下げて、血中の血糖値を一定に保つように働くホルモンです。

インスリン節約ダイエットとは、食べたいものを我慢するのではなく、食べ方を工夫することで、食後の血糖値の上昇を抑え、インスリンの分泌を節約してやせるという、食べながらやせられる画期的なダイエット法なのです。

ではなぜ、インスリンを節約するとやせられるのでしょうか。それはズバリ、インスリンの分泌が太る原因だからです。

インスリンの働きによって細胞に取り込まれた糖は、エネルギーとして使われれば問題ないのですが、余ってしまうと筋肉や肝臓にグリコーゲンとして蓄えられるか、中性脂肪に変換されて体脂肪として蓄えられます。つまり、インスリンの分泌をなるべく抑えることができれば、体脂肪も増えないわけです。

実際に、インスリンの分泌が多いほどBMI(※)が高くなることがわかっています。

※肥満指数。肥満や低体重の判定に用いる。体重(kg)÷身長(m)の2乗で算出される値

このインスリン節約ダイエットを実践するようになってから、私はスルスルとやせていき、半年で18㎏の減量に成功しました。その後、20年間、リバウンドしていません。

あるとき、このダイエット法がほんとうに効果があるのか、試してみたくなりました。そこで、食後の血糖値を気にしない食生活を続けた結果、2カ月で7㎏も体重が増えたのです。その後、再びインスリン節約ダイエットに戻すと、3カ月で7㎏の減量に成功しました。

私は産業医として、働く人にもこのインスリン節約ダイエットを勧めています。カロリーを気にしなくていいし、甘いものや油ものなど、食べてはいけないものが何もないからストレスなく長期的に続けやすいと、とても好評です。

食後の血糖値の上昇を抑え、インスリンの分泌を減らせば、脂肪の蓄積を防げる!

糖質制限よりもっと楽にやせられる

「インスリンを節約するとは、糖質制限のことですか?」とよく聞かれます。確かに、糖質制限食はインスリンを最も効果的に節約できますので、非常に高いダイエット効果が得られます。しかし、糖質制限は長期的に継続しづらいといった問題があります。

インスリン節約ダイエットは、単なる糖質制限ダイエットではありません。食べ方を工夫することで、糖質制限を行ったときと同程度に血糖値の上昇を抑え、糖質制限を行わなくても同じダイエット効果が得られるいいとこ取りの手法なのです。

食べたいものを我慢しないため、ストレスフリーなのが続けやすいポイントになっています。

もう一つ、インスリン節約ダイエットの特徴は、「健康的にやせられる」ということです。

カロリー制限でやせると、たんぱく質や脂質が不足するため、減量に成功しても、皮膚に張りがなくなり、シワも増え、実際の年齢よりも老けた印象になります。美しくなりたいとせっかくダイエットをしても、これでは意味がありません。

一方、インスリン節約ダイエットでは、たんぱく質、脂質、そして炭水化物も含め、栄養素をじゅうぶんに摂取できますから、健康的にやせることができるわけです。

次の記事で、具体的なインスリン節約ダイエットのやり方について詳しく解説していきます。

この記事は『ゆほびか』2022年8月号に掲載されています。