朝食をとると心臓病を防ぐうえ、やせやすくなる
ここでは、心臓や血管を若々しく元気に保つために、生活面で気をつけたいことを見ていきましょう。
食生活の乱れ、とりわけ深夜のドカ食いは、心臓や血管に大きな負担をかけます。
最近、20~30代の若い世代にも心臓病が増えていますが、その原因の一つは、食事や睡眠など生活習慣の乱れにあるのではないか、と私は考えています。
今の70代以上の高齢者の多くは、夜10時を過ぎたら主食は食べませんし、早く就寝します。
ところが、若い世代は24時間営業のフードサービスが当たり前で、深夜でも食事はガッツリとるのが当然と考えている人が多いようです。
また、深夜までスマホを見たりネットサーフィンをしたりして、夜更かしをするのが当たり前の日常になっています。
こうした生活習慣の乱れは動脈硬化を促進し、血管や心筋への負担を増やし、心臓が病気になりやすい方向へと進ませます。
深夜のドカ食いとともに食生活で気をつけたいのが、朝食をきちんととることです。アメリカで行われた大規模追跡調査によると、朝食をとらない人は、朝食を毎日とる人に比べ、心臓や血管の病気による死亡率が87%も高かったといいます。
朝食をとる健康上のメリットは、たくさんあります。
人間は体内時計のリズムによって、体温、血圧、ホルモン分泌などを調整していますが、朝食には、この体内時計のリズムを整える役割があるのです。
そして、太りにくくなることも挙げられます。
朝、食事をとると胃腸が活動を始め、体温が上昇します。その状態を維持するためにエネルギーが消費されるので基礎代謝が上がり、太りにくくなるのです。
肥満は心臓病の代表的なリスク因子ですから、朝食は心臓病のリスクを減らすことにつながるのです。
さらに、朝食を抜くと、昼食後の血糖値が上がりやすくなることが知られています。糖尿病はもちろん、血糖値の急上昇はそれだけで血管に大きな負担をかけるので動脈硬化を招きやすくなり、心臓病の大きなリスクになります。
心臓を守る食事法の基本は「ドカ食いをやめ、腹八分目の食事を1日3回規則正しくとること」と心得てください。
最近は、糖質制限ダイエットを始めたという患者さんも増えています。肥満の解消は心臓を守るために重要なことではありますが、極端な食事制限まで行う必要があるかといえば、疑問です。
食事は人生の楽しみの一つであり、厳しい食事制限で楽しみを失うことは、精神的に大きなストレスを受けることになります。ストレスも、心臓病の大敵です。
そのため、極端な食事制限は、患者さんにはお勧めしていません。
私自身が実践し、患者さんにも勧めているのは、1週間で食事のバランスを取ること。
肉・卵・乳製品、野菜や果物など、幅広い食品をバランスよくとるようにし、とり損ねた食品は次の食事や翌日の食事で補う、食べ過ぎたら次回以降の食事は少し量を控えるなどして、調整すればいいのです。
イライラせずにゆったり過ごす
フランスの研究チームが約3000人の健康な成人を対象に20年間にわたる追跡調査を行った結果、「眉間のシワが深い人は、シワがなかった人に比べて心臓や血管の病気で死亡するリスクが9・6倍に高まる」ということが明らかになりました。
眉間のシワと心臓病の因果関係は不明ですが、この研究報告は、心臓を守るための心がけを考えるうえで大いに参考になるものだと思います。
私たちが眉間にシワを寄せるのは、イライラしたり、怒りや不安を感じたり、困ったりしたときです。いずれもストレスや緊張を感じ、交感神経が高まった状態です。
交感神経が優位になると、心拍数を増加させて血圧を上昇させる神経伝達物質のアドレナリンが大量に分泌され、心臓に負担をかけます。
つまり、眉間のシワが深い人は、頻繁に交感神経が高まっている状態にさらされており、それだけ心臓にダメージを与えている、と解釈することができます。
シワ以外にも、貧乏ゆすりや、髪をかきむしる、机を指で叩くなど、私たちがストレスを感じているときに出るしぐさはいろいろあります。
まずは、自分がストレスを受けてイライラしたときにどんなふうな傾向が体に現れるのかを知っておき、そのしぐさが出たときは早めにイライラを解消するように努めれば、交感神経が高まった状態を短くすることができます。
その結果、心臓にかかる負担を減らせるのです。
ストレスを解消し、リラックスする方法は人によりさまざまです。
好きな音楽を聴いていると心が安らぐ人もいれば、親しい友人に電話で話を聞いてもらうとスッキリする人もいます。
ストレッチなど、適度に運動するのもいいでしょう。
自分がホッとひと息つけるのはどんなことをしているときか、意識して探してみましょう。
そのストレス解消法を一つでもいいから日々実践することが、心臓を守ることにつながります。
心臓も鍛えられる!
長時間座りっぱなしの仕事で、ふだんから運動習慣のない人は、心臓病になるリスクが2倍に高まるというデータがあります。
運動不足は、心臓にとって大敵。心臓も筋肉ですから、適度な負荷がかかることによって鍛えられます。「運動をしない人は心臓をさぼらせている」といっていいでしょう。
そうした人は、加齢によって筋力が衰えてくると、心臓の筋肉もだんだん粗くなっていきます。
心臓の筋肉を支える構造が脂肪に置き換えられ、筋肉自体がペラペラに薄くなってしまい、心臓のポンプ機能や規則正しさを伝えるペースメーカー機能も衰えてきます。
そうした心臓の衰えは、日常の身体活動にも現れます。
例えば、それまで休みなしで歩けていた距離を歩けなくなった、階段がおっくうになってひと息で上れなくなった、歩く速度が遅くなり、周りの同年代の人たちのスピードについていけなくなった、といった場合は、要注意です。
動悸や息切れなど、典型的な症状が出ていなくても、心臓弁膜症などの心臓病が疑われます。なるべく早くに検査を受けることをお勧めします。
心臓を鍛えるには、心臓に負荷をかけすぎない、適度な強度の有酸素運動が有効です。
適度な運動の目安は、心拍数が1分間に130を超えない程度。ウォーキングやヨガなどがお勧めです。
ヨガはある程度長い時間にわたって軽めの負荷をかける有酸素運動であることに加え、ヨガの深い呼吸によるリラクゼーション効果も、心臓にプラスに働きます。
犬を飼っている人は心臓や血管の病気での死亡リスクが低い
犬を飼うのも一案です。
スウェーデンで行われた研究によると「犬を飼っている人は、飼っていない人に比べて心臓や血管の病気で死亡するリスクが15%~36%低下した」という興味深い結果が出ています。
研究チームは「犬の散歩などで飼い主が体を動かす機会が増えたり、犬とのふれあいが孤独感やストレスを癒したりし、健康によい影響を与えている可能性がある」と分析しています。
心肺機能を高めるならカラオケ
運動習慣のない人は、まずラジオ体操から始めてみてください。
ラジオ体操は、体が硬い人や高齢者も手軽に安全に行えるうえ、約3分間の短い時間の中に、全身の筋肉や関節を大きく動かす運動と深呼吸がバランスよく組み込まれており、運動の入門編としては最適です。
心肺機能を高める意味では、カラオケもお勧めです。
大きな声を出して歌うことで血流がよくなったり、血圧を安定させたり、心肺機能を高めたりする効果が報告されています。
好きな曲を思い切り歌えば、ストレス発散にも役立ちます。カラオケ店に行かなくても、クルマの中や自宅などで、音楽に合わせて歌うだけでもかまいません。
自分の好みや生活スタイルに合わせて、手軽にできることから「心臓・血管が若返る生活習慣」を取り入れていただきたいと思います。