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【肝臓の脂肪を減らす歩き方】週150分の早歩きを6カ月続けよう

「運動不足」の定義をご存じですか?

現在、基礎疾患(※)のない脂肪肝については、有効な治療薬はありません。脂肪肝を改善するにあたって、私は内科疾患のリハビリ専門医として、食事療法に加えて、運動療法を推奨しています。

※慢性の呼吸器の病気、心臓病(高血圧を含む)、腎臓病、肝臓病(肝硬変など)、インスリンや飲み薬で治療中の糖尿病または他の病気を併発している糖尿病、血液の病気(鉄欠乏性貧血を除く)、免疫の機能が低下する病気(治療や緩和ケアを受けている悪性腫瘍を含む)

ただし、脂肪肝の場合、軽い運動では効果が得られず、しっかり運動していただくことが必要になります。「自分は毎日散歩をしているから運動不足ではない」と考えているかたもいるかもしれませんが、とぼとぼと歩いている状態では脂肪肝を改善する運動にはなりません。

WHO(世界保健機関)は、「中強度の運動が週150分に満たない状態」を運動不足と定義しています。

「中強度の運動」とは、心拍数が上がる強度で、ジョギングや筋トレ、自転車をこぐといった運動があてはまります。

ウォーキングであれば「なんとか会話ができる程度の早歩き」と考えてもらえばよいでしょう。

運動不足によって病気になるリスクは、喫煙と同程度であることもわかっています。タバコを吸っていなくても、運動していなければ、脳卒中、心筋梗塞、糖尿病、乳がん、子宮がんなどに罹患するリスクが高くなるのです。

日本では、1/3の人が運動不足であると言われています。また、日本では、年間約5万人が運動不足を危険因子とする病気などで亡くなっているという報告もあります。

WHOは、世界行動計画で、運動不足の人を2025年までに10%減らし、2030年までに15%減らすことを目標としています。

しかし、ここ数年は、コロナ禍の在宅勤務や外出自粛などで、運動不足の人が増えており、病気になるリスクが高くなっていると言えます。

早歩きでもジョギングでも筋トレでも効果は同じ

脂肪肝について言えば、そもそも運動習慣がある人のほうが脂肪肝にかかりにくいという報告があります。

水田敏彦:NAFLD/NASHのリハビリテーション。治療 2017;99:670-674.より改変

すでに脂肪肝がある人も、WHOが定める「運動不足の解消」をすれば、つまり、「中強度の運動を週150分」行う習慣を身につければ、脂肪肝は改善されます。

なぜなら、それを裏付ける研究報告が多数あるからです。

久留米大学医学部整形外科・橋田竜騎らは、非アルコール性脂肪肝疾患(いわゆる脂肪肝)に対する有酸素運動(ウォーキングやジョギング)とレジスタンス運動(いわゆる筋トレ)の効果を示す文献を検索し、有効とされる12件の記事を比較分析しました。

張恵傑らは中国・厦門で、中等度の運動(早歩きなど)と、強中等度の運動(ジョギングなど)とで、肝臓の脂肪の減りぐあいの違いを調べました。

これらの研究から、次のようなことが明らかになっています。

脂肪肝の運動療法は、
①週150分以上の時間をとって、
②中等度 (ややきつい早歩き程度)の運動強度で、
③有酸素運動(ウォーキングやジョギング)とレジスタンス運動(いわゆる筋トレ)のいずれか、または組み合わせで、
④6カ月以上継続して行うことが理想的であると。

これはまさに、WHOが定める「運動不足の解消」と言えます。

さらに、アメリカ・ミズーリ州のワシントン大学医学部・サリバンらの研究では、食事療法をしなくても、つまり、体重が減らなくても、16週間の運動療法を行ったところ、有酸素運動(ウォーキングやジョギング)、レジスタンス運動(いわゆる筋トレ)、有酸素運動+レジスタンス運動のいずれのグループも、肝臓の脂肪を約10%減らす効果が明らかになりました。

脂肪肝の人が運動を習慣にすると
食事療法なしでも肝臓の脂肪は減る

の脂肪肝患者が、食事制限はせずに週5日、1日30〜60分の運動療法を16週間続けたら、体重減少はなかったにもかかわらず肝臓の中性脂肪は約10%減った。有酸素運動だけでも、レジスタンス運動だけでも、有酸素運動とレジスタンス運動の組み合わせでも、その効果は変わらなかった

Sullivan S. Kirk EP. Mittendorfer B. et al: Randomized trial of exercise effect on intrhepatic triglyceride content and lipid kinetics in nonalcoholic fatly liver disease. Hepatology. 2012;55(6):1738-1745. より改変

少しきつめの早歩きでも、インターバルをとりながら行う筋トレでも、継続して行えば、それだけで肝臓の脂肪は減らせるわけです。

「週150分の早歩き」は配分しても同じ効果が得られる

とは言え、これまで運動習慣がない人が、週150分の中強度の運動を行うのはなかなか大変です。

最初は1日5分、10分といった短い時間でいいので、徐々に週150分に近づけていくといいでしょう。

ジョギングや筋トレをいきなり行うのはハードルが高いと思いますし、ケガをしてしまう可能性があるので、お勧めは早歩きです。

中強度の早歩きの目安は、「歩きながらなんとか会話はできるが、歌は歌えない程度の息切れぐあい」と考えるといいでしょう。

コツは、歩幅を広くとることです。歩幅を意識して、かっこよく歩きましょう。

ただしケガを防止するため、歩き始める前にストレッチなどの準備運動をしてから行ってください。

改善効果を得るためには、6カ月は継続する必要があるため、続けられる運動を選ぶことも大切です。
「1日30分の早歩きを週5回」「1日50分の早歩きを週3回」といったやり方でもかまいません。

「平日に行って土日はお休み」「平日に1回と土日に行う」など、ライフスタイルに合わせて、週150分をこなしましょう。

通勤している人は、降りる駅の1駅前で降りて、1駅分を早歩きするといった方法もお勧めです。

「忙しくて週150分も時間がとれない」というかたは、強度を上げて時間を短くすることでも同じ効果が期待できます。

運動療法では、頻度、強度、時間、種類の組み合わせによって、患者さんの運動内容を決定します。

体力のある人なら早歩きをジョギングに変えて強度を強めるなど、臨機応変な対応をお勧めしています。

また、「1回30分」を「15分×2回」に分けるなど、頻度を増やしても大丈夫です。
 続けることが大事なので、自分に合ったスタイルで実践しましょう。

脂肪肝を撃退する「週150分早歩き」のやり方

線維化を抑えるか不明だが他病気の予防・治療になる

脂肪肝改善のための運動療法の推進については、まだ新しい研究分野で、ようやく日本肝臓学会でリハビリテーション運動療法の部門が立ち上がるという段階です。

また、運動療法によって脂肪肝の中の脂肪がなくなることはわかっていますが、肝硬変の原因となる繊維化までを抑え、肝臓がんのリスクを減らせるかどうかまではまだわかっていません。

一方、運動習慣がある人は脂肪肝になるリスクが低いこともわかっており、運動することで中性脂肪が減り、肝機能はよくなります。

これから研究が進み、肝臓病治療のための運動療法が確立していく可能性は大いにあります。

また、運動することは脳卒中、心筋梗塞、腎臓病、高血圧、糖尿病といった、深刻な病気の予防・治療にもなります。

「週150分の運動習慣」をぜひ身につけていただきたいと思います。

この記事は『ゆほびか』2023年2月号に掲載されています
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