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【樺沢紫苑】スマホ漬けを脱する脳習慣④制限をすることが楽しみや喜びにつながる

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熱中、没入する状態がドーパミン的幸福の最高峰

 娯楽には「能動的娯楽」と「受動的娯楽」があります。

 能動的娯楽の代表例は、将棋・囲碁・チェスなどのボードゲームや、楽器の演奏、ダンス、スポーツ、読書など。能動的に取り組み、集中力と、目標設定やスキルの向上を要する遊びです。

 集中力を高めるトレーニングになり、自己成長を加速させる有意義な娯楽とされています。

 受動的娯楽の代表例は、テレビ、スマホ、ゲームなど。受け身で楽しむことができ、集中力もスキルも必要なく、疲れていてもできます。

 能動的娯楽と受動的娯楽では、得られる幸福感がまったく違います。能動的娯楽をする時間が長い人はフローに入りやすく、受動的娯楽を多くする人はフローに入りにくいとされています。

 フローとは、仕事や遊びに熱中して、時間を忘れて完全に没入している状態のこと。フローの状態では、ドーパミン、オキシトシンに加え、エンドルフィン、ノルアドレナリン、アナンダミドの5種類の脳内物質が分泌されているそうです。

 エンドルフィンは、強力な鎮痛作用を持つ脳内麻薬。

 ノルアドレナリンは、集中力を研ぎ澄ます物質。

 アナンダミドは、「至福」の意味を持つ脳内麻薬。

 これらの脳内物質が一斉に出るのですから、フローは究極の幸福状態と言っても過言ではありません。ドーパミン的幸福の最高峰でしょう。

 受動的娯楽をしているときは、マインドワンダリングになりやすいのも、問題です。これは心がさまよっている状態のことで、スマホやテレビをぼーっと見ていて、気づいたら何時間もたっていた——というときが、まさにそれです。

 マインドワンダリングは、集中力を下げる脳の使い方。目と脳だけが疲れ、なんの気休めにもストレス解消にもならず、無為に時間を過ごしているだけです。

スマホやゲーム、テレビを見るとき、「なんのためにやるの?」「ほんとうにやりたいこと?」「自分にとって必要?」「ほんとうに楽しい?」と自問してください。

「なんとなく、ただヒマだから」が答えなら、単なる時間の無駄遣い。やらないほうがいいです。

仕事だけでなく遊びのToDoリストを作るといい

 同じテレビやスマホ、ゲームでも、自分の向き合い方しだいで、受動的にも能動的にも変わります。能動的娯楽として楽しむには、漫然とやらず、目的や目標を決めて取り組み、さらにアウトプットと組み合わせることがコツです。

 アウトプットの方法はいろいろありますが、手軽なのは、自分が見た番組や情報の内容を、感想を交えて人に話すこと。アウトプットすることで学びが強化され、自己成長につながります。

 私は、仕事だけでなく遊びのTODOリストも作っています。観たい映画や映像コンテンツをリストアップしておき、時間が空いたら、その中から観ることにしています。

 普通だと「やることないな」と思いながらテレビやスマホをぼーっと眺めている時間が、このリストのおかげで、観たかった映画が観られるワクワクの時間に変わります。

 テレビを録画しておき、あとで見たい番組だけ選んで見る。時間ができたら読みたい本を1カ所に並べておく。時間が空いたらやりたいことを手帳にメモしておく。そんなひと工夫で、時間を有効活用できます。

 スマホやゲームと上手につきあうには、時間術を取り入れるのがお勧めです。仕事も遊びも含めた全ての「やるべきこと」「やりたいこと」を見える化し、優先順位をつけ、1日の時間軸にどう組み込むか考え、予定を立てます。

 計画したスケジュールの中で、自分はスマホやゲームにどれくらいの時間を割きたいのか、じっくり検討してみてください。

 時間管理ができるようになれば、自分がほんとうにやりたいこと、自分がいちばん好きなこと、楽しいことをする幸せな時間が増え、人生に対する幸福感や満足感、充実感は確実に高まっていきます。

回数や時間の制限は幸福度、満足度を高める

 私は最近、15分砂時計を使った仕事術を考案しました。何か1つやる作業を決め、砂時計をセットした15分間、その作業だけに専念します。

 人間が非常に「高い集中力」を持続できる時間は15分が限界で、通常の集中力は45分しか持ちません。集中力の単位である15分に区切って「これだけをやる!」と決めて仕事を片づけると、脳のスイッチが入って仕事がものすごくはかどります。

 これは、マインドワンダリングとは対極の「今」に集中するトレーニングにもなるので、家事をするときなどにも試してみてください。

 ちなみに、回数や時間を制限すると、好きなことをしたときの喜びが増すことがわかっています。1週間、チョコレート断ちした人たちは、好きなだけチョコを食べていた人たちよりも、チョコを食べたあとの幸福度、満足度が高かったのです。

 ドーパミン的幸福は劣化しやすく、より強い刺激を求めてエスカレートしがちですが、制限しながら楽しむことで幸福感の目減りを防ぎ、依存症になることを防ぎながら細く長く楽しむことができます。

 「スマホやゲームの使用を制限する」と言うとつらそうに聞こえますが、楽しみや喜びを増幅するための装置として、制限を使うこともできるのです。

 スマホやゲームをやめる必要はありません。「やめる」より「自分がほんとうにやりたいことをやる」ことにフォーカスして、スマホやゲームの使い方を見直してみてください。

(おわり)

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