食べる順番を変えるだけで血糖値が降下
糖尿病の治療は、よほど進行していない限りは、まず食習慣と食事内容の改善から始まります。しかし、患者さんからは、「食事療法は難しい」「最初は食事指導通りにがんばったけど、続けられなかった」という声をよく聞きます。
実際に、食事療法の継続率は約 28%というデータがあり、7割以上の患者さんは続けられずに挫折してしまっているのです。
その理由は明確です。食べる量を減らしたり、これまで好きだった食べ物を制限したりするというストレスは、極めて大きなものです。
加えて、日本糖尿病学会が勧めている食品交換表を用いた食事療法は、カロリー計算や単位計算がめんどうなのです。これでは食事療法が続かないのも無理はありません。
そこで私たちは、誰にでも無理なく続けられる食事療法はないだろうかと研究を始めました。その結果、極めて簡単で、なおかつ効果の高い方法を発見しました。
それは、食事のときに「食べる順番」を変えるだけ。食べる順番を
①野菜
②たんぱく質(肉・魚類)
③ご飯(麺・パン類)
とする、ただこの1点を守るだけの方法です。私たちはこれを「食べる順番療法」と名づけました。
食物繊維がブドウ糖の吸収を抑えてくれる
食べる順番を変えるだけで、なぜ血糖値が下がるのでしょうか。
私たちがご飯などの炭水化物(糖質)を食べると、糖質が腸管で消化・吸収されてブドウ糖となり、血液中に送られます。ブドウ糖が血液中にどの程度あるかを示したのが血糖値です。
炭水化物を食べると、血糖値が急上昇します。しかし、ご飯より先に野菜を食べると、食物繊維が腸管でのブドウ糖の吸収を抑えてくれるのです。これにより、血糖値の急上昇が抑えられます。
実際、私たちの実験でも、ご飯、野菜の順に食べた患者さんに比べ、野菜を先に食べた患者さんのほうが血糖値の上昇が緩やかでした。
血糖値の変動の幅が大きくなると、上がった血糖値がなかなか戻らなくなったり、血管を傷つけたりなど、糖尿病やそのほか血管の病気の原因になることもあります。食事の後の血糖値の上昇をなるべく緩やかにすることが、健康的な生活を送るためには大事なことなのです。
さらに、野菜を先に食べると、インスリンの分泌が少なくても、血糖値の上昇が抑えられることもわかりました。この点も重要です。
すい臓から分泌されるインスリンは、ブドウ糖がエネルギーに変えられるときに必要なホルモンです。通常、血液中のブドウ糖は一定の量になるよう調整されていますが、食べすぎなどによって血液中のブドウ糖が多くなりすぎたり、インスリンがうまく働かなくなったりすると、血糖値が上昇してしまいます。
糖尿病の患者さんは、インスリンが出にくかったり、効きが悪かったりするので、なるべく少量のインスリンで血糖値が安定するのは、とてもいいことなのです。
また、野菜を先に食べておくことで、炭水化物が小腸に入ったときに、インスリンの分泌を促進する消化管ホルモン「インクレチン」が分泌されることもわかっています。
食べる順番療法のやり方
以下の順番で食べます。
①野菜
サラダ、温野菜、煮物、炒め物、冷凍野菜なんでもOK!
ひじき、海藻類、枝豆もOK!
※果物、イモ類、カボチャ、ポテトサラダ、マカロニサラダなど糖質を多く含むものは除く
②たんぱく質(おかず)
肉類、魚介類、大豆、大豆製品、納豆、牛乳、乳製品
③ご飯
ご飯、パン類、麺類、イモ類
食べる順番を変えるだけで、これまで食べていたものを我慢することも、複雑なカロリー計算も必要ありません。
この手軽さのおかげで、食べる順番療法の患者さんの継続率はなんと98%。ほとんどの患者さんが継続できているのです。
そして、もっとすごいのはその効果です。食べる順番療法を実践した患者さんの97%でヘモグロビンA1cの低下が見られました。継続できるだけでなく、糖尿病の状態もたいへんよくなっているのです。
①野菜 ②たんぱく質 ③ご飯 の正しい食べ方
それでは、「野菜」「たんぱく質」「ご飯」の食べ方について、詳しく見ていきます。
最初に食べる「野菜」についてですが、基本的にはどの野菜を食べてもOKです。サラダでも、めたものでも、蒸したものでも、煮物でも何でもOK(ただし、煮物は汁に含まれる糖分に注意)。コンビニやスーパーで売っているカット野菜や総菜、冷凍野菜もOKです。
仕事で外出している人は、簡単にサラダが手に入らないこともあります。その場合は、トマトジュース、野菜ジュースでもOKです(ただし、フルーツジュースはNG。野菜ジュースもフルーツが含まれていないもののみ)。
サラダには、少量であればドレッシングをかけて食べてもだいじょうぶです。おいしく、楽しく継続できることが、最もたいせつなことなのです。
気をつけたいのは、「一見、野菜に見えるが糖分の多いもの」です。イモ類、カボチャ、ポタージュスープなど。これらは糖質が多いので、ご飯と同様に最後に食べるようにします。
また、ポテトサラダ、マカロニサラダも、糖質が多く、ここで言う「サラダ」には当てはまりません。
そしてもう一つ、注意したいのが果物です。果物も野菜と同類と考えがちですが、果実には果糖とブドウ糖・ショ糖が多く含まれているので、血糖値を上げやすい食品の一つです。ここでは、野菜と同様には扱いません。
果物は、糖質・脂質の多いお菓子と同様、昼食後3時間くらい経ってから、間食として食べるようにすると、夕食後の血糖値に影響を与えにくくなります。
おかずとご飯はなるべく別に食べる
野菜を食べきったら、次に「たんぱく質(おかず)」を食べます。おかずは、なるべくご飯といっしょに食べないようにします。ご飯の食べすぎを防ぐためです。
ただ、ご飯だけでは味気なくて食べられないという人は、おかずを少しだけ残しておくといいでしょう。
たんぱく質のおかずは、大きく「肉類」「魚介類」「大豆・大豆製品」「牛乳・乳製品」の4つに分けられます。納豆もここに含まれます。揚げ物や脂身の多い肉など、控えたほうがより効果的なものはありますが、まずは食べる順番を変えるだけでもかなりの効果はあるはずです。
最後に食べるのは、糖質が多く含まれているご飯(麺・パン)です。
「血糖値を上げないためには、糖質(炭水化物)を取らない」という考え方もありますが、それは一時的に数値を低下させるだけであり、長期的に考えるとあまりお勧めできません。血糖コントロールをうまく続けるには、炭水化物を毎食とったほうがいいでしょう。
また、効果を急いで、野菜だけ食べるというのも、筋肉の低下を招いて、健康面ではマイナスです。極端なことをしなくても、野菜→たんぱく質→ご飯の順で食べれば、確実に効果は現れてきます。
「よくかむ」ことでさらに効果が高まる!
食べる順番療法の効果を高めるために、ぜひもう一つ、行ってほしいことがあります。それは「よくかむ」ことです。
「早食いは芸のうち」などと言われることもありますが、食べる順番療法にも、健康維持にも大敵です。
早食いをすると、食物繊維が腸内に入ってすぐに炭水化物が入ることになります。これでは食物繊維が腸内でブドウ糖の吸収を抑制する時間がなく、血糖値の急上昇を抑える効果が望めないのです。
野菜は、少なくとも5~10分かけて食べる必要があり、そのためには、ゆっくりよくかんで食べるのがいちばん効果的です。
「30回かんで食べる」などと指導する人もいますが、数えながら食べるのもたいへんですので、私たちはこう伝えています。
「口に入れたものがなくなってから次の一口を」
これを意識するだけで、よくかんで食べられるようになります。ただし、一口の量を多くしすぎないように気をつけてください。
よくかんで食べると、その間に満腹中枢が刺激されて、食べすぎる前に「もうおなかいっぱい」というサインが脳に届きます。自然と食べすぎを予防することになります。
肥満の人に早食いが多いのは、早食いのせいで、脳から満腹サインが届く前に食べ終わっている、つまり食べすぎているからなのです。
15㎏やせて血糖値が正常化!
実際に、食べる順番療法を実践した人の症例をご紹介します。
ある40歳の男性は、来院時、身長168㎝、体重102㎏、空腹時血糖値が284㎎/㎗、ヘモグロビンA1cが13・8%もありました。通常なら、即入院治療が必要なほどの重度な糖尿病です。
しかし、どうしても仕事を休めないというので、食べる順番療法を実践してもらいました。
スーパーで売っているカットキャベツを活用し、食事では最初にキャベツを食べ、次に弁当のおかずを食べて、最後にご飯を食べるように変えました。
すると、まず体重が落ち始めました。102㎏あったのが、15㎏も減って87・2㎏になったのです。
そして、1カ月後にはヘモグロビンA1cも顕著に下がってきて、5カ月後には6・1%と正常値まで下がりました。
このかたは一人暮らしで、食事はいつも外食か市販のお弁当でした。それでもスーパーのカットキャベツを食事の最初に食べることで、ここまでの効果が出せたのです。
また、東京都足立区では、糖尿病患者を減らし、重症化させないことを目的に、野菜からよくかんで食べることを区民に推進しています。その結果、健康寿命は、5年間で男女ともに約1歳伸びて、小学生を対象とした調査では、虫歯が減ったことがわかりました。
高血糖は、糖尿病になった際の怖い合併症のほかに、近年の研究では、がんや認知症、シミ、シワなどの老化にも深く関わっていることがわかってきました。
100歳まで健康な体を維持するためには、血糖コントロールが必要不可欠なのです。
食べる順番療法なら、好きなものを食べながら誰でも血糖値をコントロールすることできます。食事の楽しみを減らすことなくできる食事療法をぜひ実践してください。