高麗手指鍼は内臓の不調にも効果的
私の鍼灸院では、現代医学では治療が難しい腎臓病を中心に、頸椎症、脊柱管狭窄症※1)や椎間板ヘルニアなどの腰痛、高血圧、耳鳴り、難聴など、さまざまな症状の患者さんが来院されています。
※1 腰椎の脊柱管が狭くなり、神経が圧迫され痛みが出る病気
地元からの患者さんは3%未満、多くは北海道から沖縄まで、全国からいらっしゃいます。年齢も、小学生から90歳を越えるかたまで幅広く、延べ10万人以上を治療してきました。
その中で、特にここ数年増えているのが頸椎症です。原因として考えられるのが、パソコンやスマホの操作やゲームです。同じ姿勢で長時間うつむきっぱなしだと、頸椎(背骨の首の部分)が変形して、首・肩・背中の激痛やこり、手足にしびれが生じてくるのです。
近年は、若い人だけでなく、高齢者でもスマホ中毒になる人が増えています。また、電車に乗っていても、ほとんどの人がうつむいてスマホの画面をのぞき込んでいます。この状況を見ても、頸椎症は今後ますます増えていくと予想されます。
いずれにしても、当院を訪れる患者さんの多くは、現代医療ではよい結果を得られなかったり、いろいろな療法を試してみたがよくならなかったり、というかたです。
しかし、そのようなかたも、「高麗手指鍼」を中心とした治療で症状が改善されているのです。
高麗手指鍼とは、1975年に韓国の柳泰佑先生が創案した鍼療法です。柳先生は、両手と手の指に全身すべての臓器に相応する点が存在することを発見されました。高麗手指鍼では、病気や不調に対応した手指の「相応点」に鍼を刺します。
高麗手指鍼の特徴は、手指だけへの施術で、体の深部にある内臓の不調にもアプローチできる点です。私は長年、体に鍼を刺す一般的な鍼灸治療を手がけてきましたが、内臓疾患については限界を感じていました。
しかし、高麗手指鍼と出会い、驚くほどの効果を目の当たりにして以来、手指への鍼灸治療をメインに施術するようになったのです。
高麗手指鍼は、体の不調に対応した手指のゾーンに、鍼やお灸で刺激を与え、全身の臓器の血流と自己治癒力を引き上げ、体を「本来あるべき姿」へと戻していきます。
手指を刺激すると、足先から全身がポカポカと温かくなり、内臓の血流や温度も上がり、炎症も治まっていきます。腎臓病などの慢性疾患や、頸椎症などの急性疾患も含め、数回の施術で驚くほど改善するかたもいらっしゃいます。
その場で高血圧が改善したケースも!
今、腎臓病の話をしましたが、当院を訪れる患者さんの約6割が腎臓病です。通常の鍼治療では、腎臓病の改善は難しいのですが、高麗手指鍼は、一般の鍼灸治療では難しい内臓の不調の改善を得意とします。
そのほか、うつや不眠などの精神的な不調、自律神経失調症、更年期障害、婦人病、アトピー性皮膚炎など、現代医療でも治療が難しいとされる症状にも効果があります。
また、生活習慣病にも有効で、高血圧のかたがその場で10㎜Hgくらい下がったり、心拍数が落ち着いたりなど、即効性にも優れています。
コロナによる緊急事態宣言中は、県をまたぐ外出が自粛ムードでしたから、地方の患者さんは治療に来ることが難しい状況でした。
そのような患者さんたちには、私は高麗手指鍼の考え方を元にした「高麗式手もみ」による手指のセルフケアをお勧めしました。そのおかげで多くのかたが通院できない間も症状を悪化させずに済みました。
ある新規の予約を受けた頸椎症の患者さんは、予約当日までの1週間、私がお勧めした手もみでセルフケアしたところ症状がほぼなくなった、ということもありました。
このように高麗式手もみは、体や内臓の痛みや不調に優れたセルフケアになります。ただし、腎臓病に関してはセルフケアだけでは難しく、通院治療が必要です。
本場の韓国では、高麗手指鍼がセルフケア法として広く根づいています。そのため、手を刺激するグッズも多く、どこの家庭にも必ず一つぐらいは置いてあるほどです。
高麗手指鍼の原理に従えば、薬や道具がなくても、自分の指さえあれば、不調に即座に対処できます。
例えば、めまいや耳鳴りが起きたら、中指の爪の両脇を挟み込むようにもむと、しばらくすると症状が和らぐはずです。寒い季節に出やすい肋間神経痛(※2)も、爪を立てて人さし指のつけ根を刺激すると、楽になると思います。
※2 肋骨に沿って走る肋間神経が痛む病気
押して痛いところが悪いところ
高麗式手もみのやり方については、後編でご紹介しますが、手もみを行う前に、まず手を温めましょう。もむ前に手を温めることで、効果がさらに高くなります。カイロや温熱器、ぬるま湯で温めてもいいですし、温かいお茶のペットボトルやホットの缶コーヒーを両手で挟んで温めてもOKです。
基本的な手もみのやり方は、指で手のひら全体をもみ、痛みが強かったり、硬くなったりしている部分があったら、そこをつまようじのお尻で軽く押すように刺激します。
すでに気になる症状が出ている人は、下にある「手と全身の相関図」で自分の症状に対応する手指のゾーンを確認し、そこを全体的にもみほぐしてください。
セルフケアの場合、刺激する点は図ほど厳密に考えずに「このあたり」程度として、その近辺をまんべんなくもむのがお勧めです。
てのひらが体の全面、手の甲が背面に対応する。図は相応点を示しているが、もむときは点にこだわらずそのゾーンを全体にもみほぐす。手のひらの中指の先端から手首にかけてのゾーンは、内臓に対応する相応点が集まるので、このゾーンを中心にもみほぐす。
高麗式手もみは症状があるときのほか、寝る前に行うのが効果的です。疲れがたまっている夜に行うと、寝ている間に自然治癒力が高まり、翌朝の体調に違いが出ます。
手もみは副作用がいっさいありません。子どもから高齢者まで誰でも手軽に行えることも長所です。
私は20年以上、高麗手指鍼の研究と治療に取り組んできました。その過程で、病院にさじを投げられた病気や痛みで悩むかたがたが健康を取り戻すのを何度も見てきました。今のような時代だからこそ、セルフケアが求められています。高麗式手もみを健康に役立ててください。
(後編に続きます)