救急隊員からそしてハワイの牧師に
ニューヨークで救急隊員をしていた頃、仕事で訪れていた病院で、キリスト教のチャプレンのかたと知り合いました。チャプレンとは、教会などに属さない聖職者のことです。そのかたは病院で、患者家族との祈りや亡くなった患者の魂の旅立ちの式などを行っていました。
縁あってそのかたのアシスタントを務めるようになったのですが、ある日「日本人との国際結婚が多いハワイで、牧師をしてみては?」と提案されました。そうして私がハワイ・マウイ島で牧師になったのは、20年以上前のことです。
牧師の仕事は、教会での洗礼式や結婚式の他に、例えば海で散骨式をするなど、教会以外で行うものも多くありました。式の目的や内容によっては、その土地を守るシャーマン、その地に昇る太陽を守るシャーマン、月を守るシャーマン、海を守るシャーマン……と、たくさんのシャーマンたちに挨拶に行きます。
ハワイのシャーマンは、もともとポリネシアの島々でカフナ(神官)として先住民を守っており、その後ハワイに移ってきた人たちです。彼らは、祈祷師や呪術師のような役割であるとともに、医師や薬剤師のような専門知識も持っています。
そんなシャーマンたちと接するうちに、「お清めの塩を取りに行く。いっしょに来なさい」などと儀式に誘われるようになり、彼らに同行するように。シャーマンたちの知恵をじかに教わることになったのです。
彼らの考え方の根幹にあるのは、「自然のリズムと調和する」という1本の芯。自然と調和できれば、災害を防ぎ、場の気を整え、争いを避けられるばかりか、人を健康で幸せにできると、彼らは考えます。それは、約2000年も前からポリネシアで受け継がれてきた信念です。
彼らの知恵は、膨大な情報量ですが、文字ではいっさい残っていません。でもその内容には、現代社会で役立つものが多くあります。シャーマンの叡智を現代に役立てたいと考えた私は、その教えを「ハワイアンサイエンス」と名づけ、現在、少しずつ文字にまとめているところです。
1日の中の「四季」とともに生きる
さてここからは、自然と調和し、自然のエネルギーを取り入れながら、心身を癒す方法をご紹介します。
自然との繋がりが希薄になり、心身の健康、自律神経の健康を乱している多くの日本人に、とても有益な知恵だと思います。
シャーマンは、月の満ち欠け、潮の動きなどに合わせて儀式を行い、生活を営みますが、特に彼らがたいせつにするのは、四季のリズムです。
ハワイアンサイエンスでは、1日の中にも四季を見出します。
朝は春。芽吹きや成長のエネルギーが満ちています。何かを始めたり、大事なことを誰かと話し合うのに最適です。また春の新鮮なエネルギーは、新しい自分への変化を促し、今ある痛みや悩みを消し去ります。
昼は夏。じゅうぶんにエネルギーが温まり、何事にも全力で取り組める時間帯なので、一生懸命働き、活動的に過ごすのに適しています。
夕方は秋。エネルギーが静まっていく時間帯なので、その日の活動を終え、クールダウンしていきます。
夜は冬。静寂の時間です。遅くまで働き続けたり、ストレス発散とばかりにハメを外す人も多いですが、本来は、静かに心身を養生するのに向いている時間です。
自律神経を整えるうえで、特に大事にすべきなのは朝と夜の過ごし方です。
朝はできるだけ早起きし、日光を心身の隅々まで取り入れて、1日分のエネルギーを蓄えます。
日が暮れたら、静かに過ごします。テレビもオフにし、できるだけ音を立てない。夫婦や家族の会話も、もめごとなどの場合は朝まで控えます。同居人がいるなどで、ずっと静かにしているのが難しい場合でも、数分でもいいので1人で静寂を味わう時間を作り、心身を養生します。
そうして自然のエネルギーを取り入れるうえで、ハワイアンサイエンスで重要となるのは「借りて、生かして、還す」こと。シャーマンたちは、自然のエネルギーを借り、生かし、還すというサイクルをていねいに続けています。
自然のエネルギーによって心身を健康に保ち、日常の中で、少しでも何かの役に立つことができれば、そのエネルギーは還せたことになります。大きいことを成し遂げる必要はなく、例えば、草花に水をやるなどでもかまいません。自分にできるやり方で、エネルギーを還す方法を考えてみてください。
それから、不必要なほどのエネルギーは最初から取り入れないというのも重要です。ハワイアンサイエンスによれば、エネルギーを含め、この世のすべてのものは「生もの」です。むやみに得ても、使いきらなければ、腐るだけです。
365日ずっと健康でなくていい
シャーマンたちも人間です。夫婦ゲンカをして落ち込むこともあれば、ビールを飲んで酔っ払っていることもあります。しかし、いざ儀式となるとスイッチが入り、厳かなシャーマンへと変わります。
彼らを見ていて気づいたのですが、24時間365日、絶え間なく健康であり続ける必要はありません。「常にパーフェクトな状態でいなければ」と気持ちを張り詰めていては、誰だってきつくなります。
ハメを外したり、調子を崩したりすることがあってもかまいません。
ただ、彼らのように、適切なタイミングでスイッチを自在に切り替えられると、楽だと思います。「自分も、必要なときにはスイッチを入れられる」という安心感があったら、「忙しい時期に、調子を崩したらどうしよう」「物事が予定通りにいかなかったらどうしよう」などと、先のことに対する不安や恐れ、ストレスを感じることが激減するからです。
自然のリズムを意識し、自然のエネルギーとともに生きると、シャーマンでなくても、誰だって、適切なスイッチの切り替えができるようになります。
それでも不安や心配事に負けそうになったときにお試しいただきたい、ちょっとした手法があります。
それは、遠くを見ること。視界が届く範囲で、できるだけ離れたところを見るのです。
遠くを見るクセをつけると不安感がなくなる
ハワイアンサイエンスでは、自分から見て後方は過去。今いる場所は現在。前方は未来とされています。前方の遠くを見る習慣をつけると、自然と、未来を具体的にイメージするクセがつくようです。
なにか不安なことがあったら、遠くを見ているような感覚で、こうあってほしいという未来を具体的に思い描いてみます。そして、その未来から今いる場所まで、時間が巻き戻っていくのをイメージしてみると、おのずと今すべきことが明確になり、先のことへの不安もなくなります。
私たちの命もまた、先祖からの借りものです。この世で生かし、未来に還す。そのためにも心身健康で、不安やストレスのない生き方をしたいものです。遥か古代から伝わるシャーマンたちの自律神経調律法、ぜひお試しください。