34年間にわたり24時間365日血圧計を装着してきた
私は34年間、24時間365日ずっと血圧計を装着しています。そういう生活を続けるうちに、いつしか「ミスター血圧」と呼ばれるようになりました。移動中や診察中、寝ているときも血圧計を装着し、入浴中以外は自分の血圧の変化をチェックしています。腕の同じところにずっと装着しているため、腕がかぶれてしまっているほどです。
今は血圧が測定できると称するスマートウォッチもあります。しかし、正確に測定するには、やはり精度が高い上腕式の血圧計が必要です。この24時間の血圧測定は、もともとロンドンの学会に参加する際に、数週間の時差による血圧の変化をチェックするつもりで始めました。
しかし、「せっかくだから、もうちょっと変化を記録したい」と思い、それが3カ月、半年、1年……と伸びていき、今に至ります。冬の寒い時期は、1年の中でも特に血圧が高くなりやすいときです。
血圧は、動脈内の血管の圧力のことを指します。血管が収縮すれば血圧は上がり、血管が拡張すると血圧は下がるわけです。家の中や外が寒いと体温が下がるのを抑えようとして、血管がギュッと収縮します。なので、冬は血圧が上がりやすいのです。
高血圧が恐ろしいのは、心筋梗塞や脳卒中といった死につながる重大な血管の病気を引き起こす原因となるからです。動脈硬化とは、年齢とともに動脈の血管が硬くなって、柔軟性を失い、もろくなる病気ですが、これも高血圧によって病状が進行します。
さらに、高血圧が続くと、血管の内皮細胞に傷がつき、血栓(血の塊)ができやすくなります。動脈硬化が進み、血液の通り道が狭くなった血管に血栓がつまることで、心筋梗塞や脳卒中が引き起こされるのです。
国際的に降圧効果が認められている
自宅で簡単にできる高血圧のケア方法として、今、最も注目されているのが「タオル握り」です。
タオル握り=ハンドグリップは、実は国際的に血圧を下げる効果が認められている手法です。
ハンドグリップとは、カナダ・マクスター大学のフィリップ・ミラー博士が開発したもので、その降圧効果の高さから、アメリカ心臓協会でも、降圧剤を使わない高血圧の補完療法として推奨されています。
2014年3月16日に放送された『ためしてガッテン』(NHK)の番組内で行われたタオル握りでの実験では、7人中6人で降圧効果が確認され、平均で13・6%も血圧が下がりました(タオル握りの詳しいやり方は下の写真参照)。
私の患者さんにも週に3回のタオル握りを3カ月続けてもらったところ、最高血圧が135㎜Hgだった人が128㎜Hgまで下がりました(最高血圧の正常値は120㎜Hg未満)。7㎜Hgの低下ですが、もともと正常値より少し高い程度の血圧でしたので、ここまで下がるのはかなりよい結果と言えます。

タオル握りで血圧が下がる理由は、タオル握りを行うと、血管を柔らかくする血管拡張物質であるNO(一酸化窒素)の産生が増えるからです。
タオルを握って、前腕に力を入れると、筋肉が収縮して血管が圧迫され、血流が一時的に停滞します。すると動脈の内皮細胞が、血管を拡張させようとして、NOを放出します。
そして、握っていた手を緩めることで、血管が圧迫から解放され、握る前よりも多くの血液が勢いよく流れます。その結果、NOが全身に行きわたり、血圧が下がるというわけです。
タオル握りを行う際に気をつけることは、「タオルは30%程度の力で軽く握る」ということです。全力でギュッと握ってしまうと血圧が上がるので逆効果になります。
タオルを30%程度の力で2分間握った後、手の力を緩めて1分間休みます。これを右手、左手でそれぞれ2回ずつ行ってください。タオル握りは、週3回程度行えばじゅうぶんです。タオル握りを週3回行うと、4週間ほどで効果が現れてくるはずです。
朝、降圧剤を飲んでも効果が薄い人もいる
34年間、毎日24時間血圧を測り続けていると、わかることがたくさんあります。その一つが、「血圧は時間と宇宙に支配されている」ということです。突然こう言うと不思議な話に思えますが、実は自然なことなのです。
私たちの体は、「サーカディアン・リズム」という1日24時間のリズムを備えています。サーカディアン・リズムのおかげで、朝になると目が覚め、夜になると眠くなります。
実は、血圧にも24時間の中でリズムがあります。人によって、血圧が高くなる時間帯、低くなる時間帯があるのです。血圧が正常な人は、朝起きたときから血圧が上がり、日中はそのまま高い状態が続きます。そして、夜になると血圧が下がり、睡眠中に最も低い状態となります。
しかし、この高低差には個人差があります。この血圧のリズムを把握できれば、高血圧の治療にとても役に立つのです。
現在、降圧剤は朝1回だけ服用するのが主流です。それで効果が薄い場合、薬の量を増やしたり、別の薬を追加したりするのが、一般的な高血圧の治療でした。
しかし、朝に降圧剤を飲んでいる患者さんで、夜中の血圧が高くなる人がいました。そこで降圧剤の服用の時間帯を変えて、血圧を調べてみました。すると、この患者さんは、就寝前に降圧剤を飲むのが、最も降圧効果が高いことがわかったのです。
これを「時間療法」と呼びます。私が研究した結果、降圧剤の効果が最も得られる時間は人によって異なり、その人の血圧のリズムを知って最適な時間に降圧剤を飲めば、薬を増やす必要がないことがわかりました。
また、宇宙のリズムにも血圧は影響を受けます。太陽の黒点が多く、活動が活発なときは心拍数が増え、心筋梗塞の発作が起きやすくなります。逆に少ないと血圧変動が大きくなり、脳卒中の発作が起きやすくなる可能性が指摘されています。
血圧と時間、また血圧と宇宙の関係は、未来の高血圧治療のために研究が続けられている分野なのです。
ミスター血圧が一押し!簡単に高血圧を改善できるタオル握りのやり方
① タオルを3つ折りにしてクルクルと巻く

② ①を強く握らず、タオルを握った指と指がつかないくらい、軽く握る。30%程度の力で握るのが目安。そのまま2分間握る

③ 力を抜いて1分間休憩

4 もう1度、2分間握る。2分経ったら、反対の手で同様に行う

※逆効果になるので、強く握りしめないこと
※週に2~3回程度を目安に行う
※音楽を聴きながら、テレビを見ながらなど、リラックスしながら行う