脳脊髄液の流れが滞るとあらゆる不調が生じる
「疲れが取れない」
「だるい」
「やる気が出ない」
「眠れない」
などの不調にお困りのかたは少なくないと思います。
一般的に、これらはよくある症状なので見過ごされがちですが、日々、スッキリしない状態で過ごすのは、人生の大きな損失であるばかりではなく、認知症などの病気の入り口に近づいている兆候なのかもしれません。
と言うのは、これらの症状の原因の一つに、「脳脊髄液の循環の悪さ」が、考えられるからです。
脳脊髄液は、脳や脊髄と、それを包んでいる髄膜との間に存在する無色透明の液体です。脳の内部にある脳室という空間で作られ、脳と仙骨の間を循環した後、毛細血管に吸収されて排出されます。
そのいちばん大きな役目は、脳と脊髄を保護することです。
パックに入った豆腐を思い浮かべてください。豆腐は水の中に浮いていて、外から衝撃が加わっても形が崩れることはありません。これは水がクッションになっているからです。同じように脳脊髄液は、外からの衝撃から脳や脊髄を守る緩衝材になっています。
また、リンパ液のように、脳に栄養を送り、老廃物を排出する役目も持っています。
ところが、悪い姿勢やストレスなどで頭蓋骨が歪むと、脳脊髄液の通り道に詰まりが生じ、流れが悪くなります。
その結果、脳脊髄液が増えたり減ったりして、冒頭の症状をはじめ、頭痛、めまい、吐き気、耳鳴りや難聴、目の疲れ・視力低下などの視覚障害、記憶障害、思考力・集中力の低下など、幅広い症状に悩まされることもあるのです。
特に視力の低下は、認知症のリスクを高めます。情報の8割は目から入ってきますが、その情報が減ると脳への刺激が減って、認知機能が低下することがわかっています。
歪んだ骨を正しい位置に戻すと症状が改善
脳脊髄液の循環をよくする方法をご紹介する前に、なぜ、私が脳脊髄液に着眼したかを説明します。
私は長年、「骨格矯正」という立場から、多くの人の健康に携わってきました。その出発点は、小顔矯正という美容術で、これを極めるうちに、骨格の歪みが全身の健康に深く関わっていることがわかってきたのです。
最初に発見したのは、目の機能です。
頭蓋骨のズレを正し、くぼんだ目鼻を前に出したり、アゴを引っ込めたりして顔を立体的に矯正すると、「視界が明るくなった」「目の疲れが取れた」「目がパッチリ大きくなった」という人が続出したのです。
そのうち、「視力が上がった」「眼圧が安定した」という声が相次ぐようになり、当院はいつしか、目の不調に悩む人の駆け込み寺のような存在になりました。
頭蓋骨が歪むと、眼窩(眼球が入っているポケット)が狭まって、奥にくぼんできます。すると眼球が押されて、目の周囲の血流が悪くなり、目の不調を引き起こします。
しかし、それだけではありません。不調を引き起こす「脳脊髄液の循環不良」も、頭蓋骨の歪みから生じているのです。
脳脊髄液は、常に一定量で循環しています。これを循環させているのが、頭蓋骨です。
頭蓋骨は20個以上の骨が縫合したもので、呼吸によってわずかに動いています。その動きが、脳脊髄液を循環させているのです。循環が悪くなって起こる症状で多いのは、脳脊髄液の減少です。
脳脊髄液が減ると、脳に栄養が届かなくなり、脳機能に影響が及びます。特に、自律神経(※)やホルモンの中枢である間脳が髄液不足になると、自律神経が乱れたり、メンタル面の不調が出てきたりします。
※内臓や血管の働きを調整する神経
また、頭を使いすぎると、脳の内圧が高まって、頭がむくんだり膨らんだりしてきます。これも、脳脊髄液を低下させる原因になります。
なお、脳脊髄液が過剰になると、「水頭症」という病気になります。
そのほか、交通事故の後遺症などで起こる「脳脊髄液減少症(低髄液圧症候群)」は、脳脊髄液が漏れてしまう病気です。
脳がリラックスし表情も穏やかになる
当院では、脳脊髄液の循環をよくすることで、全身の不快症状が改善した例が多数あります。そのうちの一つ、医師のSさん(30代女性)の例を紹介しましょう。
Sさんはコロナ禍で患者が急増し、激務で休みも取れなくなってしまいました。疲労感が抜けず、腰や首の痛み、目のかすみ、不眠、うつ症状など、さまざまな症状を訴えていました。白髪が急に増えたのも悩みでした。
こうした全身症状は、骨格の歪みから来ています。Sさんは姿勢が悪く、ネコ背で巻き肩でした。そのため首が詰まり、頭もむくんで、脳脊髄液の流れが悪くなっていました。また、常に前屈みの姿勢なので呼吸が浅く、慢性的な酸欠状態でした。
Sさんには全身の骨格矯正とともに、頭をほぐす「頭蓋骨さすり」を行いました。すると、施術後は表情が一変して、言葉もポジティブで明るくなり、脳がリラックスしていることがわかりました。脳脊髄液の詰まりが取れたからでしょう。
脳をリラックスさせ脳の環境を整える
脳脊髄液の循環をよくする「頭蓋骨さすり」のやり方は、3つあります(図を参照)。
頭蓋骨さすりのやり方
①後頭骨を緩める
②側頭骨を緩める
③首の後ろを緩める
いずれも、頭蓋骨の中央部にある蝶形骨にアプローチする手法です。頭蓋骨が歪むと、蝶形骨と隣接する後頭骨、側頭骨とのつなぎ目がずれて、脳脊髄液が詰まりやすくなります。そこで、硬くなった後頭骨、側頭骨を緩めて蝶形骨とのつなぎ目を整え、詰まりを取りやすくします。
その後、脳脊髄液の通り道である後頭骨の下の筋肉を緩めます。首(後頭下筋群)は、視力を調整する筋肉とつながっているので、視力や眼精疲労の改善も期待できます。
いずれも強くもむ必要はなく、軽く揺らす程度でじゅうぶんです。3つを全部行っても、90秒で終わります。朝行えば目覚めがよくなり、夜寝る前に行えば一日の脳の疲れが取れます。日中も頭が疲れていると感じたら、いつでも実践しましょう。
このセルフケアの最終的な目的は、脳を休めることです。手の適度な押圧は、脳をリラックスさせます。さらに言えば、脳波が一瞬にして切り替わります。
現代人は脳が常に緊張しており、脳波も緊張モードのβ波になっています。それをリラックスモードのα波やθ波に変えるのです。
脳が休まると、脳環境がよくなって思考力が広がります。それが、記憶力をアップさせ、認知症の予防にもつながります。