ゆほびか ゆほびか
  • 文字サイズの変更
  • 大
  • 中
  • 小
  • SNS
  • twitter
  • facebook
  • instagram

肛門科医が警鐘【お尻の洗いすぎ】はNG! 再発を繰り返す痔や肛門のかゆみ、ブツブツの原因はそれかも?

肛門に便が残っている「出残り便秘」が痔の原因

 肛門科医の私が声を大にして言いたい、今すぐ「やめる」べきこと。それは、「お尻を洗うこと」です。

当院に来られる患者さんの相談でもっとも多い肛門トラブルは、何度も繰り返す痔(じ)です。

 その次が、「ヒリヒリ痛い」「かゆい」「ベタベタする」「ブツブツができた」「皮膚がつっぱる」といった、お尻の不快感です。ご本人は「痔に違いない」と思って来院されるかたがほとんどです。

 しかし、診察してみると、こうした不快感は「お尻の洗い過ぎ」が原因であることが多いのです。

 特に、温水洗浄便座が登場して以降、お尻の不調を訴える人は急増し、1991年には「温水便座症候群」という疾患名が提唱されるようになりました。

 一般的にはまったく知られていませんが、お尻の洗い過ぎは、痔を悪化させます。これを聞くと、たいていの患者さんは、「今まで痔にいいと思って温水洗浄便座を使っていた」と驚かれます。そこで私は、すぐに温水洗浄便座の使用をやめるように指導します。

 「お尻を温水で洗うのはやめなさい」と聞いて、「不潔じゃないの?」「洗わないと気持ち悪い」「紙で拭くだけではきれいにならない」と思ったあなた。そこにすでに問題が隠れています。

 そもそも、排便が正しくできていれば、紙で拭いただけできれいになるはず。

 何度拭いてもきれいにならない、下着が汚れる、洗わないと気持ち悪い、という人は、正しく排便できていない証拠。つまり、スッキリ出しきれず、肛門に便が残っている可能性が考えられます。

 毎日便が出ている人でも、肛門に便が残っている人は意外と多いものです。おなか(腸)の便秘と区別するため、私はこれを「出残り便秘」(※)と呼んでいます。 

※「出残り便秘」は商標登録です。

 出始めの便が硬かったり、途中から便の色が変わっていたりしたら、出始め部分は前日の出残り便と考えて間違いないでしょう。

 そして、この出残り便秘こそが、さまざまなお尻トラブルを引き起こしていると、私は考えています。

残った便は堅くなり、ますますでにくくなる

 肛門に残った便は、直腸から水分が吸収されて硬くなります。その硬い便を排出する際に肛門が裂けると、「切れ痔(裂肛(れっこう))」になります。

 一方、肛門に残った便が重しとなり圧迫することで、うっ血し、腫れた状態になると、「イボ痔(痔核(じかく))」を引き起こします。

さらに、肛門の中が常に便まみれだと、化膿して痔瘻(じろう)(※1)になりやすくなります。

※1痔瘻・・・肛門の周囲に膿がたまって慢性化し、肛門内と肛門周辺の皮膚がつながるトンネルができる痔のこと

痔になって肛門科へ行くと、一般的には注入軟膏と下剤を出されます。しかし、下剤は腸の便秘には効いても、出残り便秘には効きません。

それどころか、新しく作られた便は、下剤によって軟らかくなっているため、切れ痔などの傷口に入りやすく、炎症をさらに悪化させます。

炎症がひどくなると、腫れて「見張りイボ(※2)」や「肛門ポリープ(※3)」ができたりします。

※2見張りイボ・・・切れ痔の炎症でできた皮膚の腫れ・突起物。肛門の外側の「でっぱり」として自覚され、イボ痔と間違えられることが多い。

※3肛門ポリープ・・・裂肛が弁で汚染され、炎症性に腫れて肛門内にできた突起物のこと。

しかも、下剤を使って軟らかい便ばかり出していると、肛門が狭くなります。そうなると、さらに排泄が困難になって、痔が悪化します。

軟らかい便は出残り便をすり抜けて排泄されるため、出残り便が蓄積されて大きな塊になると、いわゆる「糞詰(ふんづ)まり」になることもあります。

皮膚のバリア機能が壊れ、乾燥してかゆくなる

こうした肛門トラブルを予防・改善するために、やるべきことは、当然、出残り便秘を改善することです。

そのためにまずやるべきことが、お尻を洗っている人は、それをやめることです。なぜなら、お尻を洗っていると、出残り便秘がさらに悪化するからです。

皮膚は、天然の油分である皮脂膜に覆われています。この皮脂膜は、バイ菌などの侵入を防ぐバリア機能と、皮膚内部からの水分蒸発を防ぎ、皮膚の伸縮性を保つ役割を担っています。

ですから、洗い過ぎて皮脂膜がなくなってしまうと、感染症にかかりやすくなったり、乾燥してかゆくなったり、皮膚がつっぱる、あかぎれのように割れる、といったことが起こってくるのです。

これは、お尻の皮膚も同様です。炎症を起こした皮膚は硬くなります。つっぱって伸びない皮膚になり、伸縮性のない開きにくい肛門になってしまうのです。

そうなると皮膚が硬くなり、肛門の皮膚があかぎれのように割れ、肛門が狭くなり、余計に排便しづらくなって、出残り便秘が悪化します。

現に、温水洗浄便座の急速な普及とともに、肛門の狭い人はどんどん増えてきています。

診察をする際、肛門鏡という器具を肛門の中に挿入するのですが、通常は痛みを感じません。ところが温水洗浄便座の普及とともに、年々、肛門鏡を入れただけで痛みを訴える人がとても多くなっています。それだけ肛門が狭くなっているのでしょう。

もちろん、温水洗浄便座だけではありません。お風呂で念入りにお尻を洗ったり、シャワーを直接肛門に当てたりしている人も要注意です。

また、おしり拭きなど市販のケア用品を使ってきれいにし過ぎるのもよくありません。

出残り便秘ではなく、単にお尻の洗い過ぎで肛門の不快感に悩まされている人なら、お尻を洗うのをやめてワセリンを塗るだけで、皮膚のつっぱり感やかゆみは改善します。

肛門が狭くなっている場合は、程度によっては治療が必要ですが、ワセリンを塗って、肛門の入り口付近をクルクルとなでるようにマッサージするのもよいでしょう。

ただし、肛門に指を入れるのは第一関節までにして、使い捨ての手袋を着用するか、指先にラップを巻いて行うようにしてください。

毎日排便することよりも、出し切ることが大事!

 出残り便秘の人は、洗うのをやめると、紙で拭いてもキレイにならないなど、自分が出残り便秘であることに気づくはずです。

 出残り便がある限り、痔は何度でも繰り返されます。逆に言うと、出残り便秘さえ治せば、痔は治ります。実際、他院からお越しになった患者さんで、出残り便秘を直したことで痔の手術が不要になったというケースは、山のようにあります。

 大切なことは、毎日出すことより、スッキリ出しきること。2日に1回の排便でもスッキリ出し切れていれば、痔やかゆみとは無縁になります。その意識を持って、改善に努めてください。

 出残り便秘を治すために、自分でできることは次の二つです。

①便意を感じたら、すぐトイレ

 出残り便秘の一番の原因は、排便を我慢することです。「あっ」と思ったらすぐトイレ。これが大事なのです。

 このちょっとした便意を逃すと、肛門のセンサーはどんどん鈍くなって、ますます出残り便秘を悪化させてしまうので、要注意です。

②下腹部ゆすり

 下腹部ゆすりとは、排便時に両手の親指をおへそに置き、おへそより下の部分を上下にやさしく揺すって腸を刺激する方法です。とても効果的なので、私も重宝しています。

 この①と②を実践して、3分たっても出ないようでしたら、さっさとトイレから出てかまいません。

 先日、私の著書を読んで、お尻を洗うのをやめ、出残り便秘を解消したというかたから、「15年前に手術したにもかかわらず、再発を繰り返していた痔がよくなりました」と、喜びの手紙が届きました。

 そのほか、当院で2週間、出残り便秘の治療を受けた50代の女性は、「最近、なんでそんなに肌がきれいになったの?」と周りの人に驚かれたとのこと。お尻がきれいになれば、顔の肌まできれいになるのです。

 ちなみに、お酒は痔に悪影響を及ぼしますが、キムチやカレーなどの刺激物は関係ありません。肛門を通過するときに刺激を感じることはあるかもしれませんが、それによって痔が悪化するということはありません。

 それよりも、お尻に負担をかける洗い過ぎを今すぐやめて、出残り便秘の改善に努めましょう。